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当て馬男とひねくれ人魚の解呪RTA【全年齢版】  作者: あかいあとり
第四章 スノウリリーと星の石
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4-7 村ぐるみの昼食会

 翌日の明け方、一行は空が白み始めるなり、早々に山小屋を出た。

 病み上がりとは思えないはしゃぎっぷりの子供二人を肩に乗せたスノウは、村の門が見えたところで、慎重に子供たちを地面に下ろす。木の影に紛れるようにして別れを告げるスノウに、子供たちは「また遊びに行っていい?」と無邪気な声を上げて纏わりついた。


「ダメ。村デ皆ト遊ビナサイ」

「意地悪!」

 

 むくれる子供たちの背に、リリーは苦笑しながら手を当てる。


「ほら、あんまりスノウを困らせないの。早く村に帰って、おじさんに薬、届けてあげよう?」

「はぁい」


 しぶしぶとスノウから離れた子供たちは、不安そうにテネル神父を仰ぎ見る。

 

「お薬飲んだら、お父さん、ちゃんと元のお父さんに戻ってくれるかな?」

「ええ、もちろん。飲んですぐにとは言いませんが、三日も飲み続ければ症状は完全に治まりますよ」

「じゃあ、帰る」


 話がまとまったところで、アステラはそっとリリーへと声を掛けた。


「それじゃあ……神父さまと子供たちが、岩の魔物のせいで奥の崖から降りられなかったところを、たまたま俺たちが見つけて助け出した――ってことにしたらいいんだよね?」

「うん。何日も見つからなかった理由がある方が、変に勘繰られなくて済むでしょう?」


 両手を腰に当てて言い切ったリリーは、釘を刺すように子供たちをじろりと睥睨した。


「あんたたちも、いい? スノウのことは、誰にも言っちゃダメ。言ったらもう二度とスノウと会えなくなるからね」

「分かってるよ、リリー姉ちゃん」

「それならよし。信じてるからね」


 日が昇る。

 森から戻ってきた子供たちの姿を、はじめは門番、次いで早起きの村人たちが見つけては、次々と喜色を浮かべて駆け寄ってくる。

 アステラとダガンが迷子騒動を耳にしてからちょうど二晩。無事に村へ帰還した一行を、人々は喜びと心配をもって出迎えてくれた。


 * * *


 温暖な海際の村とはいえ、吹きざらしの冬の広場はさすがに寒い。しかし、そんな冷えた空気さえも吹き飛ばすほどの熱気が、人々の間には満ちていた。

 村に戻ってきた直後、幼い兄弟は、憔悴した母親に抱きとめられるなり、さっそく特効薬を渡しに行くと言って、早々に父親の元へと帰っていった。

 一方のアステラとダガンはと言えば、迷子捜索に協力した礼として、リリーの父親だという村長の家へと招かれていた。曰く、ささやかな昼食会を催したいということだったが――。


「……ささやかって割には、村ぐるみのお祭りやんけ」


 目の前の光景に圧倒されて、思わずダガンはぼやきを零す。

 村長の家という名の集会場は、室内から庭に至るまで、持ち寄りの酒と食べ物で埋め尽くされていた。空模様こそ重苦しい雲が広がる怪しい状態ではあるが、そんなものは関係ないとばかりの陽気な歌と、軽やかな太鼓の音が、空気をにぎやかに震わせている。

 村長の家の目と鼻の先には、まさにこのような時のために用意されたかのような広場があった。開けた場の中央では、大きな焚き火を囲みながら、村人たちが楽しそうに踊っている。

 何やら探し物があると言って、どこかに消えたアステラを心細い思いで待ちながら、ダガンは広場の隅からぼんやりとその喧騒を眺めていた。


「賑やかでしょう? うちの村、いつもこうなの」


 横から朗らかに話しかけられ、びくりと肩が跳ね上がる。見れば、皿に山盛りの料理を盛ったリリーが、人の輪から逃げるようにダガンの隣へと近づいてきていた。

 心配事が解決したからなのか、その表情は昨日とは打って変わって穏やかだ。ポニーテールを軽やかに振って、リリーは楽しそうに語り掛けてくる。


「嬉しいことがあると、すぐお祭り騒ぎ。みんな、子供たちのことを心配してたみたい。ダガンさんたちも、色々ありがとうね。おかげで助かったよ」


 にこにこと微笑むリリーの顔には、打算もなければ蔑みもない。ダガンの正体を知らないのだから当然だけれど、まるで同じ人間かのような接し方をされるのは、アステラ以外では随分と久しぶりで、妙に尻の座りが悪かった。

 

「……礼ならアステラに言ってやってや。迷子探しに行くって言いだしたのもあいつやし、俺は何もしてへん」

「ダガンさんだって、昨日子供たちを泣き止ませてくれたじゃない。ふたりして全然泣き止まなくて、あたしもスノウもどうしようかと思ってたんだから。すごく綺麗な歌だった。ダガンさん、吟遊詩人か何かなの?」

「別に、そういうんやないけど……」

「そうなの? もったいない。広場で歌ってくれたら、みんな絶対喜ぶのに」

 

 返事に迷って、ダガンは無言で目を泳がせた。

 海魔にとって、歌は特別なものだ。人間を惑わし、狩るためのものでもあるし、家族や友人に愛を伝える手段でもある。耳障りだと言われ続けた己の歌に、昨夜から誰も彼もが好意的な言葉を投げかけてくるものだから、正直なところ、ダガンは反応に困っていた。


「焚き火のところでみんな踊ってるでしょう? ロナマイは海だけじゃなくて、歌と踊りでも有名なんだよ」

 

 無愛想な対応しかしていないのに、まるで気にしていないらしいリリーは、頼んでもいないのにベルの村の話をぺらぺらと語りながら、山盛りの料理を次々と胃に収めていく。健康的な食べっぷりといい、ろくな相槌もなしにひとりで楽しそうに話し続けるところといい、まるでアステラだ。

 リリーの話が途切れたタイミングで、ダガンはぽつりと問いかけた。


「自分、あの雪男をどう落とす気なん」

 

 尋ねるなり、リリーはぐっと喉に何かを詰まらせたような音を出した。

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