表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/80

3-5 甘ったれ

 砂浜に上がったところで服を脱ぎ、海水を絞る。むき出しになったアステラの腕を見て、ダガンは「あ」と何かに気づいたように声を上げた。


「忘れとった。そのタトゥー、悪魔の使い魔が消えた代わりに出てきた言うとったな。てことは、お前の中に使い魔がおるやんけ。海の中にいようがあいつ、覗き放題やわ」

「ならヤったフリなんて意味ねえじゃん。なんのためにくっついてたんだよ」

「どの口が言うとんねん、甘ったれ。お前が怖いだの沈むだのやかましいから、抱えててやったんやろ」

 

 軽口を交わしながら、近くの森で枯れ木を拾い、焚火を起こす。尾びれが渇くにつれて、ダガンの下半身が人間の足へと変わっていく様子を、アステラは興味津々で見つめていた。服は村で調達するとして、とりあえずは布で下半身さえ隠しておけば、最低限の体裁は繕えるだろう。

 アステラの上着を腰に巻き、居心地悪そうに膝を抱えたダガンは、「ほんで?」と探るようにアステラに視線を向けてくる。


「いくら俺の歌が魔除けになる言うても、一生アステラのお守りをするんはごめんやぞ。呪いを解く手立てくらい、あるんやろうな」

「んん……、とりあえずは教会に行ってみよう。俺も呪いは詳しくないし、教会で聞いてみたら何か分かるだろ。方針を決めるのは、それからだ」


 ぐっと伸びをしたアステラは、不慣れな様子で足を撫でているダガンに手を差しのべ、陸の上に立たせてやる。ふらつくダガンの腰を支えながら、アステラはきらきらと目を輝かせた。

 人間になったダガンは、アステラとちょうど同じ背丈をしていた。肉くらい簡単に食いちぎれそうだった歯も、今はすっかり人間の物に変わっている。アステラと同じ、人間の姿のダガンが目の前にいた。同じ大地の上に立ち、アステラのそばにいてくれる。


「へへ……っ! ダガンだ。人間バージョンの、ダガン!」


 浮き立つ心のままにダガンの手を引き、肩を組む。顔を引きつらせながらも、ダガンは諦めたようにアステラを受け入れてくれた。


「なんやねんもう……。さっきまで悪魔が怖い怖いって怯えてたくせして、なんでいきなりご機嫌やねん。気味悪いわあ」

「だって、せっかくのダガンとの二人旅だぞ! 楽しまなきゃ損だろ」

「まあええけど」


 素っ気ない口調ではあるけれど、そう呟くダガンも満更ではなさそうだった。


「ほんで、アステラの誕生日はいつなん? そもそも自分の生まれた日、知っとるんか?」

「多分これだって日は分かるよ。毎年花が届くから」

「……花ぁ?」


 誰にも言ったことがなかった、アステラの小さな秘密だ。物心ついたときにはそういうものだったし、送り主を見つけようにも見つけられなかった。特に害もなかったので放置してきたが、よくよく考えずとも、絶えず住処を変えるアステラの居場所を、常に把握していた()()がいたことの証左である。

 僕からの誕生日プレゼントです、と楽し気に囁くイリヤの声を思い出し、アステラはぶるりと小さく身震いした。


「……まあええわ。生まれた日が分かるんなら、それでええ」

 

 深くは触れないことにしたらしいダガンは、アステラの腕を押しやりながら、じとりと視線を向けてくる。

 

「半年くらいは猶予、あるんやろうな」

「えーっと……」

 

 はたと立ち止まる。半年はあると思っていたが、よく考えればアステラの日付感覚は、イリヤのせいでぐちゃぐちゃだ。ダガンから聞き出した日付けからタイムリミットを逆算し、アステラは唇の端を引きつらせる。


「……き、今日入れて、十四日」

「アステラのこと、嫌いやなかったで。ご愁傷様。骨は拾ったるわ」

「ふざけんな絶対生きてやるからな!」


 ヤケクソ半分、拳を突き上げ、声を上げる。


「見てろよ。俺は絶対、かわいくて優しい恋人を作るんだ! 呪いなんかに負けるもんか!」

 

 ――タイムリミットまで、あと十四日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ