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エピローグ その後の風の話

エピローグ  その後の風の話

 

 復讐の天使団との、ゴッド・セルギウスとの戦いから、二年が過ぎた。

 

「お姉さん! いいお天気なんだから、お布団干そうよ!」

 セラの元気な声が、ジュノス家に響く。

「……もう少し寝かせて……、セラちゃん。ここんところハードだったんだから、疲れてるの……」

 はがされかけた布団を掴み、セミリオが寝ぼけた声で言った。

「そんなこと言って。帰って来て、もう一週間も経つじゃない」

 セラが腕を腰に当てふくれっ面をして見せるが、布団に潜り込んだセミリオには当然見えない。

 しばらくセラはそうしていたが、やがてあきらめたように部屋から出て行った。

 

 ――セミリオとカインが、エデンを脱出してから……。

 

 二人は約束どおり、『魂の抜け落ちた村』のトニアを訪れ、復讐の天使団の本拠地エデンが崩壊したことを話した。

 トニアは復讐の天使団の壊滅と、それ以上にセミリオとカインの無事を喜び、セミリオの怪我の手当てと、食事の用意、寝床の用意もしてくれた。

 一晩をそこで過ごした二人は、翌朝トニアに別れを告げ、バイクを返しにスドナイに向かった。

 バイクを返した後、スドナイから列車に乗り込み、COW cityへ。さらに乗り換え、セントラル・イーストスクエアで降りると、疲れの残る体で、ゾンビ・ヴィレッジへと足を向けた。

 そこでウォレスの世話になり、ついでにバイクをもう一度借りて、Wイーストスクエアはブルー・タウン、セミリオの家へと進路を取った。

 朝にゾンビ・ヴィレッジを出発したが、ブルー・タウンに着いたのは翌々日の夜。着くなり倒れこんだセミリオとカインに、驚きながらも無事を喜んだセラとノエラは、二人に対し、心のこもった世話をした。

 セミリオとカインは、丸二日寝込んでいたが、無事に目を覚ました。

 その後二週間ジュノス家に滞在したカインは、復讐の天使団との戦いの様子や、世界の様子などをセラとノエラに語って聞かせた。

 

 そして………。

「本当に行くの……? カイン」

「ああ。おやっさんとの約束も果たしたし、何よりお前さんはもう、俺の力なんて必要としねえだろ?」

「でも、何だか……、あっと言う間で……」

「大丈夫だ、リオ。何も一生会わないってわけじゃないんだ。その気になればいつでも会えるさ。それにお前さんだって、これからは本当の意味で自由なんだ。今度は自分ために、この広い世界を回ってみたらどうだ? そしたら、どこかで俺やマイル、ダグラスの親父さんにだって会えるだろうさ。だからそんな顔すんな」

「うん……。寂しいけど、いつでも会えるよね。大丈夫、だよね?」

「ああ、大丈夫、だ」

 セミリオとカインは、最後にお互いの銃を打ち合わせ、新しい決意を確認しあった。

 ――そして、『親切な悪魔』カイン・ラステッドは、新たな目的を探しに、荒野へと戻っていった。

 セミリオはその後、本当の意味で宝石狩として各地を回るようになった。

 資金が貯まると、大きめのバイクを買い、さらに行動範囲を広げた。それからは家を長期間空けることもしばしばで、一ヶ月近くも宝石を追いかけていたこともあった。

『宝石狩』セミリオ・ジュノスの名は少しずつ有名になっていった。

 時にセラを連れ出かけることもあれば、目的地で、セミリオも驚くほど頻繁にマイルやダグラス、そしてカインに出会うこともあった。

 そのような時は互いに手を組み、目的が達成されればまた別れる。そんな関係を作っていた。

 そんな生活を繰り返し、二年が経った。

 

「あら? セラ、セミリオは?」

「お姉さん、まだ寝るんだって。布団をつかんで離さないの」

 セラは不満げに、しかしそれでも楽しそうに言った。

「あらあら、じゃしょうがないわね。セミリオー! 降りてこないと、お昼ご飯も抜くわよー!」

 ノエラが二階に呼びかけると、上でガタゴトと音がした。続いて、ドシンというひときわ大きな音。

「あいたー!」

 セミリオの声が小さく聞こえ、セラとノエラは顔を見合わせて笑った。

 やがて、セミリオが寝ぼけ眼で起きてきた。もちろん、まだ寝間着である。

「まだご飯ある?」

「ちゃんと残してるわよ、セミリオ。ほら、ご飯の前に顔洗ってきなさい」

「はーい」

 セミリオが顔を洗って、いささかスッキリした顔で食卓につくと、セラが食事の用意をしてくれた。

「ありがと、セラちゃん。いただきまーす」

 しばらくして、先に食事をとっていたセラとノエラが食べ終わり、片づけを始めた。

「さてと、それじゃあセミリオ、セラ。私、ちょっとお買い物に行ってくるわね。後はよろしく」

「行ってらっしゃーい」

 ノエラが出かけると、片づけを終えたセラが、洗濯物とセミリオの布団を持って表へ出て行った。

 セミリオは本を読みながら、まだモソモソと食事を続けている。

「うーん、いいお天気!」

 セラは大きく伸びをすると、楽しそうに洗濯物を干し始めた。

 青く澄んだ空は高く、重力に逆らって上へ上へと落ちていきそうだった。

 カラカラに乾いた風が吹いている。この調子なら洗濯物も早く乾きそうだ。

 そんなことを思いながら、セラが布団まで干し終わったとき。

「よう、久しぶりだな、セラ」

 背後から、忘れようの無い少しニヤけた声。

「カインさん! お久しぶりです!」

 振り返り、セラは嬉しそうに、久しぶりにジュノス家を訪れたカインと挨拶を交わした。

「お前さんに会うのは……、一年ぶりぐらいか」

「そうですね。カインさん、相変わらずだなあって思ってました」

 当時を思い出し、セラはクスクスと笑う。

 約一年前。セラを伴ってセミリオが出かけた先にカインがいた。

 セミリオ達は宝石を、カインは賞金首を狩るため協力し合い、久しぶりに三人で戦ったことがあった。

「ここで話すのもなんですから上がってください。今日はお姉さんも家にいますし」

「じゃ、遠慮なくそうさせてもらうか」

 セラがカインを家に上げたとき、セミリオがちょうど食事を終えて片づけをしていた。

「カイン! 久しぶりだね、どうしたの?」

「今食い終わったのか、リオ。相変わらずお前はマイペースだな。セラはもう一仕事終わってたぜ?」

「……相変わらず憎たらしいわね。まあ、いいや。コーヒーでも淹れよっか?」

「ああ、もらおうかな」

 セミリオがコーヒーを淹れカインに出したところで、三人はテーブルについた。彼が何か目的があって来たことは明らかだからだ。

「今日はどうしたの、カイン?」

 すると、カインは懐から一枚の手配書を出し、セミリオとセラに見せた。

「このあいだノースエリアで見つけた。こいつらをお前と狩りに行きたいと思ってな」

 セミリオが受け取った手配書には、次のようなことが書かれていた。

『デレロイ・ベスプッチ及びロマレノ・クーザ。強盗犯。ノース・サウススクエアのギデクバにて賞金登録。賞金八万L。ただし、二人同時に捕まえた時のみ』

 内容と共に太った下品な顔をした赤ら顔の男と、痩せた貧相な男の写真が印刷されている。

「八万? 『親切な悪魔』が狙うには安すぎない?」

 セミリオが不思議そうに言うと、カインはニヤニヤ笑いながら口を開いた。

「そいつらの顔、お前、覚えてないか?」

 そう言われて手配書を改めて見るが、セミリオには思い出せなかった。

「知らない。こいつらに会ったことあるの? わたし」

「俺ははっきり覚えてるぜ。俺達が始めて出会った日のことだ。リオ、お前、ドッグ・タウンの酒場で俺に会う前、何かもめてたよな?」

 セミリオは記憶をたどった。二年以上前なので、はっきりとは思い出せないが、確かにそんなことがあった。

「そう言えば……、そんなことあったような気がする。じゃ、こいつらがその時の?」

「あの時は面白かった。こっそり見てたんだが、お前にあっさりやられて、捨てセリフを吐いて逃げて行くあいつらの姿。けっさくだったぜ? それだけじゃねえ。ウエスト・サウスのフロッグでもちょいと突っかかってきたしな」

 カインが笑う。セミリオはそれではっきりと思い出した。確か、「アニキ」と呼ばれていた男だ。

「あの時のか。……で、逃がしたのはわたしのせいだから、責任を取れって言うの?」

「そんなことは言わねえさ。ただ、そんな小さい奴らが人に迷惑を掛けてる。それだけで十分だろ?」

 カインが言い、セミリオが頷く。

 何年経っても、二人の関係は変わらない。

「そうね。じゃ、今度こそ捕まえて檻にぶち込んであげるよ」

「だな。なら、早速行くか?」

「うん、いつでも出かけられるよ。大丈夫」

 そう言ってセミリオは二階に上がり、着替えてから簡単な身支度を整えた。狩人としてそこそこの経験を積んだ彼女なら、この程度のことは朝飯前である。

「お姉さん、どのぐらいかかりそう?」

「うーん、そんなにはかかんないと思うけど……。そのあいだ、家の事と、母さんをよろしくね」

「うん、こっちは大丈夫。気をつけてね」

 玄関先で、セミリオとセラは少ない言葉を交わす。宝石狩セミリオ・ジュノスと『親切な悪魔』カイン・ラステッドに心配など要らないことは、セラも良く分かっているからだ。


 ――空はよく晴れている。

 セミリオとカインが出会った日も。セラをジュノス家に娘として迎え、二人が再び旅立った日も。サウスに足を踏み入れた日も、エデンが崩壊した日も。そして、二人の旅が終わった日も。

 同じように、空はよく晴れていた。

「じゃ、行くか」

「行きますか」

「行ってらっしゃーい。気をつけてねー」

 セラの声が遠くから聞こえる。セミリオは、カインの運転するバイクの後部座席に座り、後ろを振り返り手を振る。

「――ねえ、カイン」

「あ? 何だ?」

 カインは振り返りもせず言う。そのそっけなさが、出会った日から変わらず心地良い。

「何て言うか……。色々ありがと」

 小さな声で言う。

「は? 何だって?」

 カインには聞こえなかったようだ。

「何でもない。何でもないよ!」

 今度は大きな声で言い、振り落とされないようにと、カインの背中にしがみつく。

「カイン。大丈夫、よね」

「あ? ……ああ、大丈夫、だ」

 カインは訝しげに聞き返したが、すぐに前を向いてニヤついて返す。

 そう。大丈夫。

(今までありがとう、父さん。わたしは、大丈夫!)

 もう、ガイアの事を考えても、胸は痛まない。セミリオも、カインも。

 チョーカーが勇気とやる気をくれる。

「よーしっ! カイン、飛ばせー!」

「ああ、しっかりつかまってろよ?」

 二人を乗せたバイクは、荒野を走ってゆく。その道はどこまでも、未来まで続くと信じている。

 

 二人が走り去った後、赤い風が一陣、爽やかに通り過ぎていった。

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