紙飛行機は空を翔けずとも
とある一室で、私は紙飛行機を折りながら思い出していた。
幼き頃の決意の瞬間を――
授業が終わった放課後。
僕と友達は、授業中に折った紙飛行機を手に、校庭へと向かっていた。
僕のはとても不格好で、友達のは見るからに格好いい。
「どっちが良く飛ぶか、勝負な?」
友達からの申し出に、僕は自信なさげに頷いた。
「負けたほうは、一週間かばん持ちな!」
罰ゲームまで提示されるも、僕は嫌とは言えなかった。
だって、僕は愚図でのろま。
ここで断ったら、数少ない友達がもっと減っちゃう、と……。
「じゃあ、せえので投げろよ? せえの!」
僕の投げた紙飛行機は、真っすぐ地面へと向かい――墜落。
友達の紙飛行機は、見事に空を翔けている。
その紙飛行機が地に着くより先に、友達は言い放つ。
「ホント、愚図の作った紙飛行機は、やっぱり愚図なんだな!」
僕は何も言い返せなかった。
でも、その時静かに心が燃え上がるのを感じた。
僕も紙飛行機も、きっと空を翔ける時が来るはずだ、と――
そして、今。
「先生、入りますよ?」
「ああ、どうぞ」
秘書の呼びかけに応えた私の手には、不格好な紙飛行機が握られたいた。
入室してきた秘書は、目ざとくその紙飛行機を見つけると、こう言う。
「紙飛行機ですか。先生のことですから、それもよく飛ぶのではないですか?」
私だから――その言葉が、私の心に響き渡った。
もう、愚図でのろまな私では無いのだと……。
「じゃあ、飛ばしてみようか」
そう言って投げた紙飛行機は、瞬く間に墜落した。
あの頃と全く同じで、つい微笑んでしまう。
秘書ですら、笑いを堪えるのに必死だ。
「せ、先生。万能な先生も、紙飛行機だけは致命的……って、この紙――」
バレてしまったようだ。
紙飛行機となった紙は、とてもとても大切な書類。
「いやあ、つい出来心で……」
「出来心で、じゃありませんよ! これ、国会審議用の原稿!」
野党からの想定質疑とその回答一覧。
作成者は、紙飛行機に化けるとは思ってもいなかっただろう。
しかし――
「大丈夫。全部ここに入ってるから」
指で頭を指し示しながら、不敵に笑って見せる。
それを見て、秘書は苦笑しながらため息を吐く。
「はぁ……そうでしたね。原稿なんて不要でしょうとも」
「そういう事。じゃあ、野党連中を黙らせにいこうか」
「はい、首相!」
愚図でのろまだった僕は、内閣総理大臣の座まで飛翔した。
紙飛行機は終ぞ空を翔ける事は無かったが、私は高く舞い上がったのだ!