【童話】ピエールのレストランと七色に光る雪
「冬の童話祭2023」参加作品です。
1/12に修正、加筆しました!
・話が少し変わっています。
・擬音語を追加しました。
・登場人物の名前をフランスっぽいものに変更しました。
チャーリー→ピエール
ジョージ→クリストフ
2/16 用語の間違いの修正、細かい変更をしました。
ピエ-ルは町の小さなレストランのクマのぬいぐるみだ。
コック帽を被り、コックコートを着てエプロンを付け、いつもニコニコ笑って、厨房も店内も見渡せるところに飾られている。そんなぬいぐるみは町のみんなの人気者だ。
しかし、シェフのジャンが体を壊して、療養のために田舎に帰ってしまうと、スー・シェフのナタリーもどこかへ行ってしまい、レストランは閉店してしまった。
ピエールやレストランが大好きなクリストフにとって、それはとても残念な出来事である。いつもどうにかできないか考えていたが、長い間、レストランの扉が開くことはなかった。
そんなある日、町に七色に光る雪が降った。
とっさにクリストフはその不思議な雪に願う。
「ピエールにまた会いたいです。レストランでまたお料理を食べたいです。」
その時、レストランの棚に置いてきぼりだったピエールが動き出し、そこから降りてきて店の中で歌い出した。
「ボクはピエール♪町一番の料理好き♪」
そして家にいたはずのクリストフは、何故かレストランのテーブルの席に座っていた。
「いらっしゃいませー♪ピエールのレストランにようこそ!」
「ピエール!?」
クリストフが驚いていると、ピエールは嬉しそうにステップを踏みながら近付き、歌いながら挨拶した。
「今日はボクがシェフさ。君に料理を振舞うよ♪」
七色に光る雪は、ピエールが動けるようにしてくれたのだ。
「それでは少々お待ちください♪」
そう言うとピエールは厨房に入り、歌ったり踊ったりしながら料理を始めた。
トントン、チャチャチャ、パラパラパラ!
音楽のような音を立てて、料理を作っていく。
「完成ー♪」
最初の一品が出来上がった。
「まずはアムアム、うまうま、一口でパクっとアミューズーだよ♪」
スプーンに乗った小さな料理が出てくると、ウキウキして料理を待っていたクリストフは、本当に一口でそれを食べてしまった。
「おいしー!」
クリストフが料理をおいしそうに食べる様子を見て、ピエールはさらに張り切って次の料理を作り始める。
「さあ、ほっぺたがブルブル震えるオードブル(前菜)ー♪」
トマトの赤、モッツァレラチーズの白、バジルの緑の三色できたオードブルは、見た目にも楽しく、クリストフはこの料理もあっという間に食べてしまった。
「パンパンパパン♪焼きたてパンも一緒に食べて。」
焼きたてのパンをチャーリーが運んでくると、食欲をそそるとても良い香りが充満し、クリストフは三切れ食べても足りないくらいだ。
クリストフの料理を頬張る顔、口に入れて驚く表情、楽しくモグモグと動く頬っぺたを見て、ピエールは本当に幸せだった。
「ボクはいつもジャンやお客さんを見てたんだよ。ジャンの料理を美味しそうに食べるお客さんを見て嬉しかった。」
ピエールは料理を作る手を止めて、クリストフに話しかける。
「でも、その内に自分で料理を作って、みんなに食べてもらいたいと思ったんだ。」
「僕は今、とっても美味しくて、そして楽しいよ。」
その言葉を聞くと、ピエールはニコニコになって、また料理を再開した。
厨房では音楽のような音がする。
クルクル、トントトン、ジュージュー、パパパ!
「次はポワソン?どんなポワソン?何が出てくるかお楽しみー♪」
楽しそうなピエールにつられて、クリストフもいつの間にか鼻歌を歌っていた。
「さかなかな?さかなだよ♪ポワポワポワソン♪」
ポワソン(魚料理)は白身魚のムニエルだ。
いつもは魚の料理はあまり食べないクリストフも、そのバターの香りには敵わなかった。パクパクパクと、あっという間に皿の上の料理が無くなる。
「お口直しに冷たいソルベをどうぞ♪」
白いテーブルクロスの上に黄色いレモンのシャーベットが置かれた。
シャリシャリッとしたシャーベットは、クリストフには少しすっぱかったが、冷たくてとてもすっきりする味だった。
「さあ、主役の登場だ♪モーモー待ちきれないメインだよ♪」
ピエールが満を持して、牛肉を使った熱々のハンバーグが乗っている皿を運んできた。
ハンバーグには特製のデミグラスソースが掛かり、白い湯気がモワモワと立って、そこから食欲をそそる香りが広がり、クリストフの鼻を刺激する。
そのハンバーグをフォークとナイフで大き目の一切れにすると、クリストフはパクっと口に入れた。
それはクリストフが食べた事もないようなフワフワな柔らかさで、舌の上でホロホロと解け、その代わりに肉汁がいっぱいに広がった。
ゆっくり味わいたいのに、すぐにでも次の一切れが食べたくなる。だから大きなハンバーグはドンドン小さくなってクリストフのお腹に収まってしまった。
「メインが終わったらデザートだ♪」
アントルメ(甘い菓子)とフルーツをピエールが持ってくる。
お腹がいっぱいのはずのクリストフだったが、ピスタチオとアプリコットのケーキも、赤くてつやつやの幾粒かのイチゴも、ペロリと無くなっていた。
「最後はコーヒーだけど、クリストフには特別にホットチョコレートをプレゼント♪」
甘い匂いのする焦げ茶色の飲み物は、クリストフをこの上なく幸せな気分にさせ、それはレストラン全てを包み込んだ。
「ごちそうさま、ピエール!」
食べ終わったクリストフがお礼を言う。
「美味しく食べてくれてありがとう♪」
ピエールもお礼を返す。
「ボクが作った料理を美味しく食べてもらいたいっていう願いを叶えてくれてありがとう♪」
ピエールのニコニコ顔はいつもよりもっと笑顔で、それを見たクリストフもやっぱり笑顔になっていた。
「これはいったい、どういう事!?」
突然、レストランの扉が開き、スー・シェフのナタリーが入ってきた。
「まあ、ピエ-ルが動いてるわ!」
「ナタリーだ!」
ピエールは嬉しくて飛びつき、ナタリーは目を白黒させながらもそっと抱きしめた。
「ナタリー、どこに行ってたの?」
ピエールとクリストフが同時に尋ねる。
「別のレストランで修業してたのよ。ジャンが他の店の事も知っていた方が良いって言うから。」
「修行だって!?料理の勉強をしてきたの?」
「ええ。とても勉強になったわ。」
「じゃあ、今度はナタリーがレストランを開いてくれるの?」
クリストフは目をキラキラさせてナタリーを見た。
「いいえ、違うのよ。」
ナタリーの返事にピエールとクリストフの動きが止まる。
「ジャンが元気になったのよ!」
「え!」
「本当!」
「それでレストランを再開するから、準備をして欲しいって手紙が来たの。」
「ジャンが帰ってくる!」
「やったー!」
ピエールとクリストフはナタリーの周りをピョンピョンしながら何度も回った。
「落ち着いて、二人とも。」
ナタリーも笑いながら、はしゃぐピエールとクリストフと一緒になって喜んだ。
それからしばらくして、ピエールのレストランは再開した。
元気になったシェフのジャン、働き者のスー・シェフのナタリー、そして歌って踊るぬいぐるみのピエール。この2人と1匹(?)のレストランは、町のみんなの大好きな場所である。
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