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第一日目~別れ~

 「……わ、私は……もう、帰ってこない」

 「うん」

  

 沙耶はわかっていた。クレアがそう言うことは。

 もう帰ってくることはないと悟っていて、だからこそ、親友である沙耶に、自分の秘密を打ち明けたのだ。


 「だから、……お別れ」

 「……うん」


 クレアはお別れを言いに来た。……それぐらい、沙耶は旅の話が出てきた時点で知っていた。もう会うことはない、と。だから沙耶はクレアの秘密を受け入れれたのかも知れなかった。

 

 「……さよなら、沙耶」

 

 クレアは泣かない。涙が枯れているのかのように、人前では絶対に泣かない。


 「……さ、さよ、なら、く、クレア……」


 沙耶は、涙交じりに、最後は嗚咽をこらえながら言った。


 「……うん、さよなら。沙耶。……今まで、楽しかったわ」

 

 クレアは沙耶を抱きしめて、囁くように言った。もう背の高さが全然違うので、クレアが背伸びする形になったが、それをクレアは厭いはしなかった。


 「……うん、うん……じゃあね、クレア……」


 沙耶はもう涙をこらえることなく、泣きながら別れを告げる。

  

 「……ばいばい、沙耶」

 

 その声だけを残して、クレアは沙耶から離れ、部屋をあとにした。

 その時、沙耶は下を向いていて、フローリングの床しか見えていなかったうえ、視界は涙でぬれていた。

 だから、見えなかったのだろう。



 クレアは去り際、瞳に一粒涙を浮かべていたことに。



 












 ―――――――旅日記、第一日目――――――


 

 今日から日記をつけることにしたのだけれど、タイトルは旅日記。私の旅は私が死なない限り永遠に続く。だから、先に行けばいくほど昔のこと、つまり今のことは忘れていくと思う。

 

 忘れたいことなら書かなくてもいい。でも、忘れたくないことだけを、ここに記していこう。

 ああそうそう、並行して『研究手帳』への記入も忘れないようにすること、と一応書いておく。


今日は旅立たないけれど、ひと段落ついたので、旅の始まりは今日としよう。……さて、初めての日記なので少し緊張するけれど、まあ、ゆっくりと書いていこう。


 旅に出ることを決意してから一週間が過ぎた。

 この一週間、私は自衛隊の馬鹿どもからもらったお金を銀行から引き出したり、家族の説得に尽くしたり、友達に別れを告げたりしていた。

  

 お金の算段は一瞬でついた。もともと私はお金を使う方ではないうえに、毎月億近くのお金が送られていたのだ、先十年はどうやっても使えそうにない額のお金が今私の手元にある。

 お金がここまでたくさんあると、本当にこれはお金なのか疑いたくなる。実際マイクロスコープで調べるという実に無駄な作業も何回かした。


 家族の説得は両親よりも弟の方に時間がかかった。両親は両親とも旅人だった(本人たちはまだ現在形のつもり)から、意外とすんなり承諾してくれた。また会えるとでも思っているのだろうか。

 弟のルネスはもう会えないということを直感したのか、異常にしつこく反対してきた。


 やはりいつもいた姉である私がいなくなるというのは、さびしいものなのだろうか。……まあ、男にそんなこと思われても気持ち悪いだけだが。

 結局、弟の方は説得をあきらめ、そのまま無視して出ていくことにした。


 最後までわめくと思っていたのだが、最後の別れはあっさりとしたものだった。うん、男との別れなんてこんなものでいい。後ろ髪をひかれたくなんてない。


 友達との別れが一番つらかった。もともと私は友達の多い方ではなかったが、それでも二日はかかった。

 特にかかったのが、ひいらぎ 風羽かざはと黒月沙耶だ。

 

 風羽の方はただ豪華に別れようとして時間がかかっただけ(今思い出しても徒労な気がする……あそこまでする意味があったのだろうか?)なのだが、沙耶には会う約束を取り付けるのにさえ時間がかかった。

 

 原因は単純で私のせいなのだが、それでも、電話をかけるまでに三日はかかった。どうやって切りだそうか、拒絶されたりしないだろうか……そんなことばかりが頭をよぎって、携帯を取ることさえできなかった。

 

 決心がついたのはほんの一瞬だった。一瞬だけ、私はどこからともなく勇気がわいてきて、そしてその勇気が消えないうちに、沙耶に電話をかけた。


 会いたい、話したいことがある。


 それだけしか電話口では言わなかったが、それでも沙耶は私に応じてくれた。私と違って、沙耶は忙しいだろうに、一瞬もためらわず。


 会ってからは、すごくすらすらと、高校入ってからずっと秘密にしてきたことを言えた。正直、よく信じてくれたものだと思う。


 旅に出る。そう沙耶に打ち明けて、別れを告げた時、沙耶は泣いてくれた。止めようとはしなかったけれど、泣いてくれた。私は我慢したけれど、沙耶は泣いてくれた。


 涙が友情の証だったとするならば、私は沙耶を本当に友達だと思っていたのだろうか。愚かな私は沙耶のことを友達だ、友達だと口では言いながら、実際はなんでもない人間だと思っていたのではないだろうか。

 私なら十分、あり得る話だ。


 けれど、私は沙耶との友情を信じたい。私は涙こそ流さなかったけど、それでも、私は沙耶の親友だった。親友だ。だから、別れをすませて、もう二度と会うことはない、と言ってきたのだ。


 明日から、旅が始まる。

 私の旅は少々特殊で、ただの旅ではない。


 世界と世界を渡り歩く、異世界の旅人、と言うわけだ。

 世界の扉を開け、世界のはざまで世界を選び、新しい世界で新しいものを知る。そのために私は旅に出る。

 特に目的があるわけでもなく、ただ知的好奇心のみを指針として。


 いまだに行くべきかどうか迷っているのは、旅が特殊だからということも少し理由の中にあるだろう。

 それでも行くと決意したのだから、行くしかないし、正直お父さんたちの昔話を聞いているうちに興味が出て来たので、行きたくないわけでは決してない。けれど、迷うのだ。


 その迷いを内包したまま、私は旅立とうとしている。

 ……もう、これ以上意気込みについて書くのはやめよう。これ以上書いても気持ちが揺らぐだけだ。せいぜい外見に似合った年頃の娘らしく、明日行く世界に夢を膨らませるとしよう。


 明日行く世界は特に決まっていない。そもそも目的のあるような旅ではないのだ、世界のはざまがどうなっているの見てから決めても遅くはないだろう。

 できることなら、適度に安全で適度に危険のある世界がいい。……まあ、ただの希望的観測だ。

 さて、今日はこの程度で終わっておくとしよう。あまりに長いと見返す時面倒になるからな。

 


 この世界の神が愚かな私にも明日をくれるほど慈悲深いことを祈って。  ――クレア・ペンタグラム



 追記。世界の移動に関して少しまとめておく。いくらなんでも忘れるということはないだろうが、念のため。


 世界の移動するにはどこかの扉の前(これについては扉であれば自由)で一定の印(これは『研究手帳』に別記してある)を結び、その扉を開くだけである。そうすれば、世界のはざまに行ける。

 

 印、というよりも世界を開くための鍵に近いため、魔力はいらない。よって魔力が皆無な私でも世界移動ができる、というわけだ。ただこれは不用意に他人に教えると力もないのに異世界に行く人間が無駄に増える結果となるので、気をつけるように。


 世界の入り口である世界の扉を開くと、入った世界の壁に、世界の扉ができて入れるらしい。

 こればかりは話に聞いただけなので実際に行ってみないとわからないが、つまるところ壁があって扉の開くところでランダムに世界に入るらしい。まあ、実際入ってみてから追記することにする。

 



 では、以上のことを踏まえて、明日から旅を始めよう。





 ――――――第一日目、終了――――――


 こんにちは、作者のコノハです。

 今回から本格的にクレアは旅に出ます。

 最初の世界はどんな所なんでしょうね?おそらくは最初、クレアは誰かを救うことになるでしょう。しかしそれは必ずしもハッピーエンドとは限らないわけで……


 さて、ここで少し募集したいことがひとつ。

 クレアに行ってほしい世界、なんてものがあった場合、メッセージか感想をくだされば番外編ということでするかもしれません。ではでは、お待ちしております。


 駄文散文失礼しました、ご愛読感謝!

 

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