二日目(3)
……私はそれから、抜け殻のようになったままでシドウに手をひかれ家に帰った。
「……大丈夫だったかい?この町の状態が、よくわかっただろう?」
「うるさい黙れ」
低い声で、私はお父さんに言う。
「……わかったよ」
お父さんはそれだけしか言わなかった。
自分の部屋に、シドウも一緒に入れる。
「……姉貴……」
「……嘘よね」
私はまた、未練がましくつぶやいた。
でも、本当の気がしない。
「……拳銃で頭撃ち抜いて死ななかったら、夢だってことが証明できるかしら?……やってみよう」
カチャリと拳銃を頭に突きつけて引き金を引――
「姉貴、死にいそいじゃダメです」
一瞬の動作で、私の手から拳銃が抜き取られた。
「さすが元イノベート。……盗み、殺しは得意技、って?」
「……オレには言ってもいいですが、サクラには言わないでください。……今の姉貴の気持ち、わかりますから。……だから、少しぐらいなら、いや、いくらでも、サンドバックになってあげますよ」
シドウだって辛いはずなのに、気丈に振る舞っている。……なんだか私が子供みたいだ。
「……悪かったわ。大人げなかったわね」
「気にしないでください」
シドウはなんでもないことのようにそう言ったが、内心はきっと傷ついているだろう。
「……出てってくれる?今そばに誰かいると傷つけちゃいそうだから」
「傷つけてくれてもかまいません。でも、出ていけません」
「……なぜ?」
私は低く呻いて言った。
「自殺されると困ります」
「それは戦力が減るから?お父さんがそう言ったの?」
「違います。オレの意思です」
「あなたの意思?じゃあなんで私に自殺されると困るの?」
「死んでほしくありません」
「盾が減るから?」
「違います!」
シドウは青い髪を震わせるほどに首を振った。
「そんな理由じゃありません。オレは姉貴に、クレア・ペンタグラムに死んでほしくないんです。……だって、オレに優しくしてくれた人間なんて、あなたたちペンタグラム家の人以外にいないんです。……オレは特にクレアさんに優しくしてもらった。………だからです」
「迷惑よ。……別に、私がどこで死のうが私の勝手でしょ」
少し、いやかなり僻みっぽく言った。
「勝手じゃありません。姉貴の命は皆が必要としています。オレ、サクラ、ルネス、ルウ、サラ、コトリ、ミリア、ララ、リンク、エリア、そして、沙耶さん」
最後の名前に、私は特に動揺した。
沙耶。
一体、どんな気持だったんだろう。私と再会して、そしてそのまま殺し合って。
「……沙耶……」
「姉貴、あの人はもう戻りません。……もとに戻るようなちゃちい改造を、向こうも施しちゃいないでしょうから……」
「何よ、改造って。何よ、施す、って。まるで沙耶が人形かなにかみたいじゃない」
「そうですよ。沙耶って人は人形になったんですよ」
……人形。……人形。
「……そんな」
いまだに、私はそのことを信じられないでいる。
「……信じがたいのはわかります。でも、事実なんです」
ひどく淡々と、シドウは言った。
……沙耶は、どうして、何をされて、あんな風に……?
その質問は、できなかった。したら私の心がめったうちにされるようなことがシドウの口から知らされる……そんな確信がどこかにあった。
……疲れた。……もう、やだ。
「……寝るわ。……今日は、もう疲れた」
「ご一緒しても?」
「いいわよ」
別に、シドウは男っぽくても男じゃないし。
……私が布団を開けると、シドウはおずおずと言った風に私の隣に入ってきた。
暖かい、人の温度が感じれた。
「…………沙耶」
眠る前私がつぶやいたのは、親友の名前だった。