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二日目(2)~最悪の再会~

 

 

 私はその日一日を、索敵のみに費やした。


 沙耶と出会わないかとびくびくしていたが、よく考えれば高校出てから偶然出会うなんてことは一切なくなったのだ、いまさら出会うこともないだろう。


 「……クレア?」


 そう、楽観していた時だ。


 「……え、さ、沙耶?」


 なぜか、沙耶と出会った。

 彼女は私の姿を見てどうも戸惑っているようだった。


 当たり前だ、五日前に二度と会わないと言って別れたのだから。


 でも、様子がおかしかった。


 目が、生気を失っていた。

 

 「クレア、ペンタグラム?」

 「そ、そうよ?」


 ペンタグラム、そう沙耶が聞いたその瞬間。


 殺意はなかった。

 敵意もなかった。

 意志さえも、

 思考さえもがなかった。


 そのまま、まるで反射のような唐突さで、沙耶は私にどこからともなく取り出した拳銃を私に向けて……!?



 「うわっ!?」


 


 ドン!




 

 ここは市街地ど真ん中、戦時中でもなければ、特殊な世界でもない。

 どこにでもあるような、普通の世界なのだ。


 それなのに、私は撃たれた。

 よけたけど、銃弾はかすりもしなかったけど、沙耶に撃たれた。


 撃たれた。撃たれた!


 私が何かいけないことでも、沙耶逆鱗に触れるようなことでもしたのだろうか?


 帰ってきたから?一生会わないって別れておいて五日で帰ってきたから?

 

 「……ペンタグラム、ペンタグラム、ペンタグラム」


 無機質で無表情な瞳で、沙耶は言う。周りの人間がパニックを起こし、意味もなく駆けたりするが、そんなのお構いなしに、沙耶は私に拳銃を向け、引き金を引こうとする。


 「え、ご、ごめんね……」


 私は拳銃を取らなかった。どころか、一切の防御行動すら行う気力がわかなかった。


 できたのは、謝ることだけ。

 

 「ご、ごめんね、沙耶……。私、帰ってきちゃった。沙耶とは一生会わない、って言ってたのに。……ごめんね、ごめんね、帰ってきてごめんね」


 いくら謝っても、沙耶は拳銃を下ろそうとはしてくれない。引き金にこもる力が増すばかりだ。


 「……私、沙耶に殺されるの?」


 語りかける。

 

 沙耶に殺される。口に出してみて、存外悪くないことだと気付いた。

 あ、それいいかも。


 と、思ったと同時、沙耶の拳銃が撃鉄を起こし、引き金が完全に引かれようとして……



 「おらああ!」


 横合いから、白い髪のガキが、沙耶の体を蹴っ飛ばした。

 「沙耶!」

 私は受け身もとらずに吹っ飛んだ沙耶に駆け寄る。


 沙耶は大してダメージを受けている様子はなかった。目も反応あるし、心拍、血圧、その他正常……

 

 「姉貴、何やってんですか!」


 沙耶の状態を診ていた私を、誰かが力づくで引き離した。


 「……シドウ、離して」

 青い髪の少女、シドウに私は低く命じる。

 いつもなら従うシドウだったが、今は違った。


 「嫌です!こいつは『人形』なんですよ!?感情も思考もない、ただの肉!こんなやつ、とっとと殺さなきゃ……」


 私はシドウに最後まで言わせなかった。


 私をつかむ手を振り払うと、コートから取り出した拳銃を取り出し、シドウに向けていた。


 「……なんで、オレには向けるんすか。そこの『人形』には向けなか」

 「沙耶は人形じゃない!」


 私は全力で叫んだ。


 「……人形です。……さっきは、言いすぎました。でも、事実なんです。……その子は、いつからか人形に、されていた。ただ、それだけです」


 「そ、そんなの!そんなの、直せばいいじゃない!家にはトレースやララお姉ちゃんとか、化物みたいな能力もっている人たくさんいるのよ!?誰か一人ぐらい沙耶の心を取り戻せる人が……」


 ふるふると、シドウは痛ましげで哀しげな表情で首を振った。


 「無理です」

 「やってみなきゃ分かんない!」

 「無理です!」


 強く、シドウは言った。

 「あいつらの『人形』の作りかた、知ってます?心を殺すんですよ、薬品とか、そんなの一切使わず、暴力と苦痛だけで。気を狂わせて、心を奪って、正常な思考判断力やまともな心を殺す。……もう、そこに転がっている人ぐらいまで『人形』にされちゃったら、もう戻りませんよ」


 ………………そ、そんな。

 「う、嘘だ。そ、そんなわけ、あるもんか」


 ルネスが、驚いている。うろたえる私がそんなに珍しいのだろうか?


 「……事実です」

 「そんなわけあるもんか。沙耶は、普通の人だったんだよ?私と違って、ちゃんと働いて、ちゃんと生活してた。恋人だっていたかもしれない」


 「そうかもしれません。……でも、全部、過去形なんですよ。もう、沙耶って人は帰ってこない。……それが、事実です」






 「うそ、だ、……嘘だ、嘘だ………嘘だと言って、………沙耶………沙耶ッ…………沙耶あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 倒れて、目をあいたまま、気絶しているわけでもないのに、動く気配のない沙耶を背に、私は叫んだ。いくら慟哭しても、沙耶はここには歩いてこない。




 それがたまらなく、哀しかった。

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