故郷第一日目~帰郷~
私はほんの五日で、旅を終わらせる結果となった。
もう二度と会わないと言って別れて沙耶のいる世界に、たった五日で戻ってきてしまった。
でも、この五日間で多くの人の死にあってきた。
デルタ、セン、ユノ、敵兵二人、たくさんの敵、自殺した負傷兵、伝令役、リフィルに殺された伝令、リフィル、ミウ、たくさんの軍人たち、そしてキア。
死に会い、そして殺してきた。
だから、ここらが潮時なのかもしれない。
弟のルネスから呼び出され、そしてお父さんに緊急事態を告げられた時、私は悟った。
そうだ、ここで死のう。
私は死にたいわけじゃない。でも、ここでならきっと死ねる。そう思った。
なぜなら、今この琴乃若は『イノベート』からの侵略を受けていて、壊滅状態にあるのだから。
「お父さん」
呼び出された日の夜。私はベランダに出てお父さんと話をしていた。
「なんだい?」
五日ぶりだけど懐かしい声。
「私ね、人殺ししてきたの」
「そう」
たいして、ショックは受けていないようだった。
「僕だって人殺しぐらいしたことあるさ。他人を、家族を守る時はいつだって、他人の命が必要だった。……それをためらったことは……最初だけだよ」
そう、お父さんは守れていたのだ。キアや、ユノみたいな子を守り続けれたのだ。
「……お父さんは、守れなかったことってある?」
「あるよ」
ひどく悲しそうに、お父さんは言った。
「忘れもしないよ。あれは、僕が名実ともに16歳だったころ。僕は殺さなきゃ守れない状況になった。でも、……殺せなかったんだ。結局どっちかの命はなくなっていたのに、僕は敵を殺すことをためらった。結果、……あの子が死んだ」
苦々しげに話すお父さんからは、普段の完璧さは失われていて、それがひどく安心できた。
「……お父さん、私ね、疲れちゃった」
これを言ったら、怒るだろうか。
「私、死にたいよ」
きっと、怒らないだろうな。
「……どうして?」
「疲れちゃった。もう人が死ぬのを見るのは嫌」
「それは僕も同じさ。そしてそれが肉親ならなおさら、ね」
怒りはしない。でも、止める。
「……そう。じゃあ、私次の世界で自殺することにするわ」
「行かせないよ。そんな目的じゃ、僕はこの世界から君を出すわけにはいかない」
意思の強い、強気な瞳。こんな時のお父さんは、絶対に譲らない。
「力づくで出るわよ?」
「力づくで止めるだけさ」
さすが、お父さんは言うことが違う。さまざまな武器を使いこなす私にそんなことを言うなんて。
「……わかったわ。やめとく。自殺はなし、ね」
「そう。なら、いいんだよ」
私はそう言ったが、まだ心の中では小さな火がくすぶっていた。
「お父さん、お母さんとはどう?よろしくやってる?」
「うん。サラとの仲は悪くない。ご近所でも評判のおしどり夫婦さ」
それはいいことを聞いた。やっぱり両親の仲がいいというのは悪いことではないからね。
「……私、寝るね。明日は戦闘?」
「たぶんね。一日中戦うことになると思う」
気が滅入る。さっきまで戦争やってきたところなのに……
「いやなら、いいんだよ?」
「逃げるわけないでしょ、お父さん」
お父さんの誘いに、私は即答した。
私は戦う人間なのだ。戦ってこその人間なのだ。戦いから逃げてどうするんだ。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ、クレア」
私は五日ぶりの自室に戻った。
―――――第二世界、二日目――――
キアが死んだ。
私がふがいないばっかりに、キアが死んだ。
ユノみたいに死なせはしないと誓ったのに。キアは生きたがっていたのに、私は守れなかった。
守りたかったのに、守れなかった。
どうしてだろう?
いくら考えても、その答えは出なくて。
いつしか、考えることに疲れて。
私は今、故郷にいる。
この日記を誰かに見せるつもりは一切ないが、それでもここから先は誰にも知られてはいけない。
……私は、死にたい。
もう疲れた。
幼い時から人殺しばかり。危険ばかり。
琴乃若にいた時はそれなりに平和だったけど、危険なんて毎日のようにやってきた。
そのたびに撃退して、戦って。
旅に出てからは連日連夜人殺し。
たった五日で、私の全生命力を使い果たした、そんな気さえする。
お父さんは言葉にはしなかったけど、自殺をするなと言ってきた。
でも、嫌だよ。死にたいよ。
疲れたの、お父さん。
大丈夫、安心して、お父さん。私、ちゃんと守るから。今度こそ、この町を守るから。
この町を守るためなら、なんだってするから。
だから、お父さん、神様。
この戦いが終わったら私―――
死んでも、いいですか?
この世界の神に私に死を与えれるほどの力があることを祈って。
―――クレア・ペンタグラム