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二日目(4)~さよなら、けれど~


 私はまた、失敗した。

 「……キア……」

 

 痛ましげに私を見つめるミウを押しのけて、キアの遺体によりすがる。

 キア。

 

 「ごめんね……」


 あなたは、気付いていたのに。あんなに死にたくないと言っていたのに。

 あれだけ守ると豪語しておいて、守れなくて。


 「ごめんね……」


 なんで私はまた失敗したのだろう……。


 なんでキアは死んでしまったのだろう。

 

 「……ミウ、あなたはこれからどうするの?」

 逃げるのだろうか?キアや子供たちを殺しておいて、自分だけのうのうと。


 「……帝に、お誘いされてるの」

 「逃亡の?」

 振り向かずに、訊く。


 ミウは首を振ったんだろう。

 

 「ううん。……自害の」

 「一緒に死にませんか、って?」


 ミウは今度はうなずいた、ように感じた。


 「そう。それで、あなたは殺したんだ。……なんでこの子たちまで」

 「それが、この子たちのためなのよ」


 そんなことが聞きたいんじゃない。でも、それ以外にはないような気もした。


 でも、信じたくはなかった。そんな、死こそが救いなんていう、悲しいことを。


 「……さよなら、ミウさん。私はあなたを恨みます」

 「ええ。恨んでくれて構わないわ。……さよなら」


 キィ……と、鉄の扉が閉じる音。


 私はキアの遺体からいったん離れて、廊下に出る。逃げるそぶりを見せたら、殺すためだった。


 今は、、たくさんの軍人が廊下の壁に隊列をなし、帝とミウを見送っているところだった。


 私のすぐ前で止まり、帝はみんなに宣言した。


 「自由にせよ。私は退場する」


 それだけ言って、奥の方へと、消えていく。


 私や軍人たちは、それを追った。

 そして、なんてことない普通の鉄の扉に、二人はたどり着いた。


 「すまないね、ミウ。こんなことに付き合わせて」

 「いいですわ、帝。……いいえ、リフィル」

 

 まるで、夫婦のように、二人は言いあい、そして扉の向こうに入っていった。

 

 軍人たちが、みな一様に敬礼した。

 私も一応見よう見まねで倣う。


 直後。



 ダァン!


 ほとんど一発に聞こえた、二発の銃声。

 

 ……ミウ、リフィル。


 二人の命がまた、失われた。でも、不思議と悲しみはない。


 ダン!

 

 後ろで突然鳴った銃声に、私は身をすくませた。

 振り向くと、さっきまで敬礼をしていた軍人の一人が、こめかみに銃を押しつけた恰好で死んでいた。

 

 な……


 ダン!

 

 ダン!


 

 そこかしこで、銃声。それらは戦闘が始まった音ではなく、自分に向けたもの。


 「や、やめなさい!」


 私は叫ぶけど、誰もやめようとはしない。


 ドン!


 それは私が今自殺しようとしていた軍人の拳銃を撃ち落とした音だった。


 「な、何をする」

 「死ぬな、愚か者!」

  

 私は叫んだ。


 「しかし!もう帝はいない!せめてお供として……」

 「そんな馬鹿げたこと考えてる暇あったら、逃げなさい!自由にしていい、って帝から仰せつかったんでしょ!?」


 「しかし!私はどうやって生きて行けばいかわからないんだ!それに、自由ならば死ぬ自由もあるだろう!」



 ダン!


 別のところで、銃声。


 「……っ!す、好きに、しなさい!」


 私は、疲れていたんだと思う。


 キアの死に、ミウ、リフィルの死、そして軍人たちの集団自殺。


 もう、どうでもよくなってきた。


 死にたいなら、死ねばいい。



 ダン!


 今さっきまで私と話していた軍人が、事切れていた。


 ……もう、なんかどうでもいいや。


 私はキアの遺体のある部屋へと戻った。



 「……ねえ、キア。みんな死んじゃったよ?」


 私は動かない彼女に語りかける。


 「私も、死んでいいかな?」


 もうやだ。死にたくなってきた。


 「……死んだら、キアやユノと同じところに、逝けるかな?」


 いけないだろう。私は罪人。私が行くところは、地獄以外にはない。


 「……ねえ、ひどいこと、ってわかってるけど、一つだけいいかな?」

 

 私は、どうもキアの死が信じられない。


 だから。私がもう一度、完全に殺す。

 

 「……生きてたら、ごめんね」


 そんなわけ、ないのに。生きているわけがないのに。生命活動や脳波、その他生存を示す情報が全部なくなっているのに生きているわけがない。


 「……ごめんね、キア。きっと私も、すぐに逝くから」


 自殺はしないけど。でも、きっと私は……


 

 ダン!


 

 私の手から音がして、キアの遺体に穴を一つ開けた。


 血すら、もう出てこなかった。


 「……あはは……」


 死んじゃったんだね、キア。私が殺したんだ。


 「あはははは……」


 出て行こう、こんな世界。


 ……いや、もういいや、どうでもいい。疲れた。長く生きすぎた。もう、いいや。



 「あはははははは……すぐ逝くよ、まっててね、ユノ、キア……」


 カチリ、とこめかみに拳銃を当てる。


 ……待ってて、ユノ……キア……



 ピリリリリリ!


 電話。携帯電話。しかもこの音は、緊急用!


 「はいもしもし」

 

 自然な動作で電話に出た。もしかしたらお父さんに危険が迫っているのかもしれない。そんな時に死んでなんかいられない。


 『クレア姉か!?すぐに帰ってきてくれ!今やべえんだ!頼む!……うわ、さく』


 ブツッ!


 ツーツーツー。


 何かあったかは知らない。でも、行かなきゃ。行って、助けなきゃ。


 私は、もう少しだけ生きることを決めた。 

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