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二日目(2)~パーティ、しかしその実……~


 人がごったがえしている廊下を、私たちは手をつないで歩く。

 どこを見渡しても、食事、食事、食事。


 一体どこにこれだけの量があったのだろう?

 その入手先は知らないが、多分、貯蓄全部を使ったのだろう。

 

 「く、クレアさん、それ、お酒……」

 「ん?大丈夫よ、私強いから」


 お酒程度に食われてたまるか。

 ウォッカボトル10本ぐらいまでならいける。

 

 「そ、そういう問題じゃなくて、クレアさん、未成年……」

 「ああ、私、26歳だから」


 「ええ!?」


 ま、驚くのも無理はない、かな?

 仕方ないっちゃ仕方ないけどね。

 外見はどう見ても16歳だし。


 「あなたもどう?」

 キアは全力で首を振った。

 しつけの行きとどいている子供だこと。


 「そう。じゃ、お食事ならできるでしょ?」

 「はい……で、でも……」


 「どうしたの?」

 「あ、あの………み、帝様が、……お見えです……」


 キアの手のひらがさした方向をみると。

 この国の帝王、リフィルがいた。


 「……何よ」

 「クレアさん、言葉遣いが……!」

 「いや、いいよキアちゃん。ありがとうね」


 優しく、リフィルが言った。ついさっき伝令を殺したことをまるでにおわせない完ぺきさで。


 「キア、ちょっと一人で遊んでれる?」

 「……はい……」

 

 意図が伝わったのだろう、キアはすぐに察してどこかへと行った。本当にしつけの行きとどいた子だ。


 「さて、クレアさん。この様子を見たいただければわかるとおり、この国はもう敗北寸前だ。

 そこで、訊きたいことがある。この国と運命を共にしないかな?」

 「しないわよ、バカ」


 「ま、そう言うとは思っていました。なら、今すぐこの国を出て行くといいでしょう。……キアはおいて」

 「……どういう意味よ」

 

 「そのままの意味ですよ」

 リフィルが何を言いたいのかが、いまいち理解できない。


 「キアを守りたければ、この国に残ってください」

 「キアを連れてこの国を出るわ」


 私は即答した。


 「キアはこの国を出ませんよ」

 リフィルは自信に満ちた声で言った。


 「どういうこと?」

 「この国から出ては生きてはいけない。そう教育させましたからね。……さて、どうします?」


 またか。また、私は選ぶのか。

 今度は、躊躇しない。


 「じゃあ、ここに残ってあげる」

 「ありがとうございます、旅人さん」


 リフィルはそう言うと踵を返し、奥の子供たちの歌声がする方へと消えて行った。


 私も、しばらくしてから続いた。





 この国の国歌を、子供たちはうたっている。


 それは軍国色の強い、とても独りよがりな歌。

 でも、それらを子供たちは素晴らしいものだと信じて疑わない。


 キアでさえ、その例外ではなかった。


 私は痛ましげに、その子供たちを見る。


 悪いことでは、ないのだろう。

 国のためになら、仕方のないことなのだろう。


 でも、何か釈然としない。


 「……あ、クレアさん!」

 鈴のようなキアの声。


 「上手だったわよ。キアは本当に歌が上手ね。……いい歌ね」

 「うん!そうでしょ、そうでしょ!」


 でも、こうして私も嘘をついたのだから、何かを言えるはずもなく。


 ただ、無為に時間が過ぎて行くような感覚だけを残して、時はすぎる。














 気がつけば、夕食時になっていた。

 私はキアや他の子供たちと一緒に、リフィルと会食をしていた。

 

 白のテーブルクロスのかけられた長テーブルに、上座にリフィル、私が座って食事をしていた。


 「……ふむ、これはおいしいな。……やはり、我が国の料理は最高だ」

 「ですね、帝さま!」

 

 そんな声が子供たちの中から次々と起こる。リフィルもその様子を見て、とても穏やかな表情になった。


 「……さて、諸君。今日一日自分の好きなように生きて、どうだったかな?まずはクレアさんから言ってもらおうか」


 リフィルは子供たちの前では優しい人になる。それは家族の前だと優しいお父さんと同じような切り替えで、大人ってみんなそうやって態度を変えれるのかな、と不思議に思ったりもした。


 「私はいつも通りだったわ。ま、旅人なんて人間は自由が当たり前だから。こうやって豪勢なお食事にありつけることは少ないけどね」


 「へえ~!そうなんだ!」

 

 子供たちから、感嘆の声。


 「ミウはどうだった?」


 リフィルの隣にいるミウは、こほんとひとつ咳払いをして、

 「ええ、楽しかったです。子供たちともいっぱい遊べましたから」

 そう、慈愛に満ちた表情で言ったのだった。


 そうして、次々に子供たちが今日一日の感想を述べていく。どんなにたどたどしくても止めはしないし、どんなに短くても誰も責めなかった。


 「諸君、私はとても楽しかった。天使たちの歌声も聞けて、こうして食事までできる。実に幸せ者だよ、私は」


 帝はそう言いきると、

 「では、食事に集中するといい」

 と、彼の言葉を聞こうと躍起になっていた子供たちに食事の続きを促した。


 「……つかぬことをお聞きします、帝」


 私も、もちろん失礼のないように言葉を選ぶ。


 「なんだね、クレアさん」

 「この国の戦争は、どうなるのでしょう?」


 凍りついたのは、リフィルとミウだけだった。

 キアも少しは動揺したようだが、すぐに他の子供たちと同じように、おしゃべりに集中する。


 「……勝つさ。勝つに決まっている。……クレアさんとて、そう思うだろう?」

 

 その言葉は、もしかしたら懇願だったのかも、知れない。

 

 「ええ。そうですね。この国の勝利は揺るがない。……それぐらい、旅人の私でもわかります」


 嘘。嘘。嘘。


 嘘の言葉、嘘の会話、嘘の思想。


 この会食は子供たちをだますための、欺瞞に満ちた洗脳場。


 愚かなのは、嘘を信じる子供たちなのか。



 それとも、嘘をつく私たちなのか。







 

 

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