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一日目(6)~勝利、しかし……~

 「ありがとう、クレア君。君のおかげで助かった兵士は多い。実に感謝しているよ」

 そののち。

 私は再び帝に謁見し、おほめの言葉をいただいていた。


 正直、ほめられてもうれしくないのだが。

 「……では、今日は居住区に帰ってもいいですか?私、疲れたので……」

 適当で、当たり障りのない嘘をつく。


 「ああ、構わないよ。君ならいくらでも休んでいてくれて構わないさ」

 その言葉だけは嘘だろう、と直感しながらもなにも言わない。


 あそこまでやっておいて、何も知りません、なんの力もありませんはもう通じないだろう。

 たぶんかなり使われる。


 それでも、いい。そうすれば少なくともキアは守れる。


 「……では」

 私はそれだけを言って部屋を出た。もちろん、盗聴器の感度を確認しながら。












 私は居住区に戻ると同時に、帝の部屋の会話を盗み聞きしていた。

 伝令が来て、戦況の報告をしたあとの会話だ。


 『……あの少女、かなり使える。今までなぜ力がないと言っていたのかは不明だが、かなり戦力になるだろう』

 『……そうですね』

 

 なぜか、伝令は不満気味だ。


 『帝。撤退命令をお願いします。クレアさんが守った部隊は助かりましたが、他の部隊はもう壊滅状態だと言ったのは覚えておいででしょう。もうこの国の軍隊は軍隊として機能していない部分が多すぎます』

 

 『……なにが、言いたい?』

 

 雰囲気が、かなり重くなる。……あ、これはまずいかも。


 『……無礼は承知で進言します。降伏するべきです!あなた様のためにも、国民のためにも!』

 

 さて、リフィルはどう反応する?


 『……よく、わかる。君の気持ちはよくわかる。私のことを慮ってくれるのも、国民の行く末を心配する気持ちも、よくわかる。

 

 しかし。しかしだ。われわれは負けるわけにはいかないし、この戦争をしかけ、国民に戦えと命じた私が降伏するわけにはいかんのだ。


 私が降伏すれば、国民は助かるだろう。しかし救われない。

 意味がないのだよ、敗者として戦争を終わらせても。

 

 戦うからには、勝たねばならない。たとえ何を犠牲にしても、だ。

 

 もし私が降伏すれば国民は一体どうなる?


 戦敗国としてぞんざいに扱われ、搾取される日々が待っているのだぞ?それを、私の国民たちにその状況を受け入れろと?そんなこと、言えるわけがない!言ってはならんのだ!』


 リフィルは、そう言いきった。

 

 『……お心遣い、非常に感謝します。まことに失礼しました!』

 『よい。……カークランド少尉を呼べ。彼女とあの少女とを組ませて最後の前線に送り込め』

 『はっ!』


 そう言って伝令は部屋を出る。

 これで私は戦うことが決定したわけだ。


 「ねえ、クレアさん、起きてます?」

  

 下のキアから、そんな声がかかった。

 「なあに?」


 私は耳の盗聴器を外すと、下に降りて、寝転がるキアと話せるようにする。


 「……クレアさん、また戦うんでしょ?」

 「ええ。大丈夫、あなたは安全よ」

 

 「……でも、私もクレアの役に立ちたい!」

 いつか、キアはこう言ってくるような気がしていた。

 

 キアは温室育ちなのだ。

 自分だけが安全だと、何か悪いことをしているように感じるのだろう。


 「キアは、死にたい?」

 私は訊く。

 

 キアは無言で首を振る。


 「それでいいのよ。それが、普通の人間なの。でも、私は違う。私は他人を殺したくて殺したくてたまらないの。戦争をしているのも、人を殺したいからよ」


 キアの目が、見開かれる。

 

 「そ、そんなこと……」


 「ないって?なんでよ。私は殺人鬼。人殺しが大好きな鬼なの。だから、あなたが気に病む必要はないわ」

 

 さらに、私は続ける。


 「私は力がある。でもあなたにはない。力のある私には私の、力のないあなたにはあなたのすべきことがあるわ」


 「すべき、こと……?」


 「そう。私の帰りを、待っていて。私はあなたがいるから、戦える」


 「……で、でも、どうして、そこまでしてくれるんですか……?」

 キアが、不思議そうに訊いてきた。


 「……それはね、私があなたを守るって決めたから」

 「決めた、から?」

 「そう。誓ったの。あなたを守る。そう誓ったの。誓ったことを曲げるほど、私は馬鹿じゃないわ」


 理解してくれるだろうか。

 きっとできないだろう。でも、私はきっと、理解されなくても戦うだろう。


 戦うことしか、できないから。


 「……おやすみ、キア。よき眠りを……」


 私はなにも言わないキアの頬にキスをすると、上のベッドに戻った。


 「……おやすみ、なさい……」


 か細く、そんな声だけが聞こえてきた。






 ―――――第二世界、第一日目―――――



 また、人を殺した。

 廃墟から抜けだす時に二人、キアを基地まで運ぶまでに五人、戦場で介錯をして一人、敵を数十人。


 私の後ろの血の道は、いつまでも途切れることなく続く。それは十分に理解しているし、変えるつもりもない。

 でも、この中にキアの血だけは、混ざりませんように。


 そう願いながら、私は明日も戦うのだろう。殺すのだろう。

 キアを、たった一人を守るために、大量の人間を殺す。

 

 殺さなければ、守れない。


 明日、明後日、四明後日、私はここでいつまで戦えば、キアを助けれるのだろうか。

 それに、もし戦争が終わっても、助けれるだけだ。救えるわけじゃない。


 リフィルの言い分は、半分は正しい。負ければ助かるだろう。でも、救われはしない。


 ……いったい、私はどうすればいいのだろう?

 いざとなったら楽にしてやるべきなんじゃないか、と言う私もいる。


 絶対に守りきるべきだ、と言う私もいる。

 私は後者を選ぶ自信がある。

 

 でも、もし、最後の最後でキアを見捨てる方を無意識のうちに選んでしまったら?


 また、ユノみたいに殺すのか?


 ……わからない。それに、もう考えたくない。

 今の私はクレーシア。屋敷にいた時同様、殺して殺して殺すだけだ。


 この世界の神に平和をもたらす力があることを祈って。



                                   ―――――クレーシア 




 ―――――――第一日目終了、第二日目に続く――――――――

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