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一日目(2)~安全地帯へ~

 

 キアが余計なことをしないのを祈りつつ、私はできるだけ無防備を装って二人の敵の前に飛び出した。

 

 まるで今まで必死に逃げていて、今初めて彼らに気付いたかのように、演技する。

 演技は得意だ。屋敷ではどれだけ痛いことでも私は喜んでいなければいけなかったから、自然と演技がうまくなっていった。

 

 お父さんと家族になってからは屋敷にいた時のことをほとんど思い出さなかったけど、旅に出てからはよく思い出す。

 屋敷にいた時の経験が、今の私を助けている。……滑稽な話だ。


 「あ、……」

 一瞬、虚をつかれたような顔をする。


 軍人二人は、まず私に銃を向けた。この世界特有のアサルトライフル。

 その顔は禍々しく笑っていて、吐き気がするぐらいわかりやすかった。


 「おい、お前。どこから来た?」

 これ見よがしに銃をちらつかせて、軍人の一人が言った。

 

 「わ、わたし、は……」

 どういえばいいのかわからない、と言った表情を作る。


 「……答えろ!……殺されたいか?」

 「い、いえ!私は、逃げ遅れて……」

 

 「……ふうん」

 二人は、私がどこから来たのか、どうでもいいようだった。

 

 「……なあ、お前。殺されたいか?」

 「い、いえ!」

 「なら、俺たちになにをすればいいか、わかるか?」


 ……意味がわからない。何を言っているのだろう。

 金か?

 「お金、ですか……?」

 「違うね。もっといいものだ」


 ……まさか。

 「あんたの身体だよ、それで見逃してやるよ」

 



 ……実験、終了。

 連合軍の軍人は、民間の少女を見つけ次第、身体を要求する、と。


 さて、することも終わったし、こいつらは用済みだ。


 「……わかり、ました……それで、見逃してくれるんですね?」

 「ああ、そうだよ」

 「じゃ、じゃ……服脱ぎますので、向こう向いててもらえますか?」

 「はいはい」


 馬鹿。本当に脱ぐとでも思ってるのか?

 油断しすぎ。人は勝利の寸前が一番気を抜きやすいというから、クローフィアはもう敗戦寸前なのだろう。だからこうして連合が横暴を始めているのだ。

 

 もし、ここに私がこなかったら。

 こう要求されたのは、キアなのだ。

 

 そう思うと、吐き気がした。汚らわしい、男ども。


 少しづつ、近づく。

 手には、拳銃。それも、ユノに使った小さいものではなく、バカでかい50口径拳銃『ゾディア』。

 二丁とも、二人の後頭部に照準を定めている。ばれたらまずいので突きつけはしないが。

 

 

 「……ぬ、脱ぎました……こちらを向いて、いただけますか?」

 馬鹿な男どもは私の怯えきった声色にだまされ、なんの警戒を抱くことなく振り向く。


 「っな」

 「さよなら」

 

 廃墟を揺るがしかねないほどの爆音が、ほとんど同時に二つ起きた。


 男たち達は無言で後ろ向きに倒れた。当たり前だ。しゃべる口が吹き飛んだのだから、声を発せるわけがない。

 私の前には、頭のなくなった男だった物体が、二つ。

 そして、男たちの首があった方向は赤一色で、ところどころに肉片と、紫色の物体が少しだけ。

 

 二人の人間を殺したというのに、私はなんにも感じない。

 「キア、行きましょう」

 私は律儀に言いつけを守っていたキアにそう言った。


 「……う、うん」

 私はキアの返事を聞くと、廃墟を出る。

 キアはさっきよりも私との距離を少しだけ離してついてくる。


 ……構いやしない。私は避けられるだけのことをした。

 そんなことは、十分に理解している。


 している、はずだった。


 「どうしたの?来ないの?」

 「あ、あの、……クレア、さん」

 その声は、なんだかよそよそしかった。


 「なんで、殺したんですか?」

 「……え?」

 なんで、そんなことを訊くの?

 

 「クレアさん、何も殺す必要はなかったのではないでしょうか?逃げればいいだけで、何もむやみに危害を加える必要は……」

 キアは、私になにを言っている?

 殺すな、と?そう言っているのか?


 「何言ってるのよ。……こいつらは、敵よ。敵は殺さなきゃ」

 「そんなことしていたら、クレアさんの周りには敵しかいなくなりますよ?」

 「そうなったら、殺すだけよ周り全てを」

 

 言ってから、気付いた。今のは言ってはいけなかったことだ。

 でも、もう遅い。

 「……そう、ですか」


 キアはその距離から私に近付いてこようとはしなかった。

 完全に、避けられた。

 「……それでも、私はあなたのことを、守るから」

 

 そうでも言っておかないと、私がただの殺人鬼に見られてしまいそうで、怖かった。

 「……ありがとう、ございます」

 どこか、キアの返事はぎこちなかった。




 



 タラララララララララ………

 ドパララララララララ……

 

 戦場の中を私たちは隠れながら進んでいく。

 がれきに身を隠し、キアの故郷、クローフィアへ。

 

 ドン!ドン!

 

 私の拳銃も、幾度となく火を噴き、そのたびにキアに殺人鬼を見るような目で見られる。

 近寄ろうとも、してくれない。


 「キア!私が援護するから走って!」

 「え、で、でも」

 「大丈夫!私を信じて!人殺しだけには、慣れてるから!」

 

 それでも、キアを守るためなら私はいくらでも殺人鬼になろう。もう、ユノの時みたいに失敗するわけにはいかないのだ。


 キアはがれきから飛び出し、すぐそばのクローフィア軍のものとみられる基地まで駆けだす。

 すぐに機銃がキアの方に向けられる。


 距離100、1時の方向。

 敵の姿を視認すると同時、自動で動くような感覚で照準を向ける。

 向けると同時、発砲。


 また一人、私は人を殺した。でも、キアは死なずに、軍の基地に入れた。

 私も素早い動作で、基地の中に入る。


 もはや基地を秘密にする意味もないのか基地の門は開けっぱなしで、私たち民間人でも特に咎められずに入れた。

 

 ……まあ、入れただけだが。


 「おい、そこのガキ二人!」


 すぐに、私とキアは銃に囲まれることになった。


 「なに?この子怯えてるんだけど」

 できるだけ冷静に、私は言う。ここで暴れるわけにはいかないのだ。キアを守るためなら、多少のことは我慢しないと。


 「所属と名前を言え!」

 軍の指揮官らしき人物が私に命じる。


 「キア!キア・ギルバード!クローフィアの貴族、ギルバード家の一人娘よ!」

 「クレア・ペンタグラム。クローフィアの民間人よ」


 私たちが名乗ると、周りを囲む軍人たちは口々に

 「ギルバード……だって……?」

 「ペンタグラム……?」

 と、言い始めた。


 ……うちの家族がこの世界にいるのかな?

 そうも思ったが、それよりもまず気になったのは、

 「……キア、貴族の娘だったんだ」

 

 「……そうです」

 なんだ、温室育ちか。

 故郷にいる弟と同じ、平和しか知らない、平和以外は知らされていないビニールハウスで育った人間。

 

 ということはあの廃墟も、おそらくキアの家族がいたところで、キアはどこかに出かけていて、それで逃げ遅れたのだろう。他人が来たから怖くなって隠れていた、と言うわけだ。


 「……銃を下せ!」

 指揮官が鋭く命じた。その命令にきびきびと応えるところをみると、かなり訓練されているようだ。


 「失礼した、ギルバート譲。安全なところに案内します」

 そう言って、指揮官はキアの手を取る。


 「あっ……」

 一瞬、キアは身を引く。

 

 「……?どうかされました?」

 なぜ止まったのか、指揮官にはわからなかったようだ。私にもわからなかった。


 「わ、私、さっきまでクレアさんに守ってもらったの!だ、だから、クレアさんも私と一緒に安全なところに……」


 ……優しい子だな。殺人鬼にも、ちゃんとお礼をしようと心がけている。よほど親の教育が行きとどいているのだろう。


 「……了解しました。……では、あなたもついてこられますね?」

 せっかく安全なところに行けるのだ、断る必要はどこにもない。



 







 ……まあ、本当に安全かどうかは、知らないけど。

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