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第二世界一日目~戦争~

 


 ある、国があった。

 それは帝国主義で、帝王によって治められていた。

 その国は、外から見れば悪そのものの国だった。

 しかし、その国の人々は、自分の国が正義だと、真実だと信じ切っていた。


 外と内の誤差はやがて軋轢を生み、軋轢はやがて、抗争となる。抗争が戦争になるまでは、そうそう時間はかからなかった。


 敵は、味方の国を除く世界全ての国。

 それでも、その国の帝王は必死で国を導き、戦って行った。

 しかし、いつしか矢は尽き、弓は折れ、戦闘を行うことが困難になっていった。

 

 国民は、諦めなかった。帝王の勝利を信じて、誰もが戦った。

 殺して、殺されて。殺されてはまた殺して。

 その、繰り返し。


 どれほど戦えど、その国に勝利は見えない。

 世界の全ての国がその国の敗北を確信し、詰みまであと少し、というところまで、戦争は終わりに近づいていた。










 

 キイ……

 私が世界の扉から世界に入ると、そこは廃墟だった。

 また、廃墟か。

 

 そう思わなくもない。

 また第一世界のように何かを殺すのか。

 そう、思わずにはいられない。


 「……なにもない、わね」

 今のところ何もないが、三日前のようになにも(・・・)なさすぎる(・・・・・)というわけでもない。

 ちゃんと家があって、ここは順当な手段で廃墟になった、普通の廃墟だ。

 

 特に異常はない、ないのだが……


 

 ドパララララララ……

 パン!パン!パン!

 ドゴン!


 先ほどから、バックグラウンドミュージックのように銃声、そして爆発音が聞こえる。

 戦時中だろうか?


 割れた窓から外を見る。どうやら、私の仮説を否定する材料は見当たらず、逆にそれを補強する要素ばかりが目に付いた。

 

 ……いやな世界に来たものね。


 また、苦しむのだろうか?

 また、ユノのように私は人を殺すのだろうか?


 私はあと何度『クレーシア』に戻れば――


 「……やめよう」

 かぶりを振って、嫌な考えをふっきる。

 頭を振ると、それにつられて長い黒髪も一緒に舞う。屋敷にいたころに髪を短くするなと一度命令されて、それ以降私はそれを守り続けている。

 

 破ったところで誰も私を罰しはしないのに、律儀に守っている。

 ……いつになったら、逃れられるのだろう。もしかしたら一生私は屋敷にいた時のことを引きずって、生きるのかな。

 

 ガタッ……


 そんな夢想にくれていた時だった。

 かすかに、でも確かに私のすぐ後ろで物音がした。

 「……」

 

 私は動かずに、気配を探る。一メートル、二メートル、索敵範囲を広げていく。

 後方5メートルのところで、一人の人間が私の捜索に引っかかった。

  

 後ろを振り向く。

 少し離れたところに、古びたクローゼットがひとつあった。

 よく見渡せば、ここには調度品がいくつかあって、昔はそこそこの貴族が住んでいたのだろうな、と推理する。


 そのクローゼットに私は警戒しつつも、拳銃は抜かずに歩み寄る。

 一歩私が歩み寄ると同時、息をひそめようとする雰囲気が伝わってくる。こんな風な反応をするのは、決まって子供だ。

 

 「……ねえ、お顔を見せて?私は何もしないわよ?」


 クローゼットの前に立って、私はそう囁くように言った。

 まあ、こんなことで出てくるとは思っていないのだが。

 もし子供兵士だった時のことも考えて、いつでも拳銃を抜けるようにはしておく。けれどそれは最低限。

 

 「見せてくれないなら、私から見るわよ?」

 言うと同時に、私はクローゼットに手をかける。

 

 ギィ……

  

 古い木独特の音を立てて、クローゼットは開いた。

 「……あら、かわいらしい」

 中にいたのは、かわいらしい女の子。

 年は7、8歳ぐらい。容姿もあどけなく、子供らしい純真さを持っていた。

 

 そのくりくりしたかわいい目は今は恐怖におびえ、目じりには涙がたまっていた。

 けれど、やるならやれ、そう言った意思もわずかに感じられて、それがユノを思い出させた。

 

 「……あなたの名前は?」

 私は優しく微笑んでそう言った。まるで、お父さんが私にしてくれていたように。

 「……き、キア。キア」


 キア。少女はそう名乗った。

 名乗る時も、怯えながらということはここは戦時中ということで間違いないだろう。

 「私はクレア。あなたはどうしてここに?」

 

 「え、あ、あの、……逃げ遅れて」

 逃げ遅れ、か。よくあることなのだろうか。

 「そう。じゃあ、人がいるところまで守ってあげる」

 

 とにかく、放っておけない。……ユノは守れなかった。でも、キア、この子は守りたい。守って見せる。

 

 「……ありが、とう……」

 キアはそうつぶやくように言うと、クローゼットから出て来た。








 キアの故郷であるクローフィリア、という国は、この世界ではもう古いものとなった帝国主義の国らしい。

 

 しかし、クローフィアの人々は自国を一切疑っておらず、帝王に従うことに苦痛を感じる人間は一人もいないそうだ。

 

 帝王の教育が行きとどいているのか、それともたんに帝王に人望があるのか。

 私は両方だと予測するが、たいていこうした独裁者と言うのは、えてしてえげつないことをするものだ。有名なたとえを出すならば、ヒトラーか。


 私はキアが嬉々とした表情で帝王のよさを語るのを見ながら、廃墟の階段を下っている。

 この廃墟は5階建てで、今は二階。かなり長い階段だったが、キアの話があったので退屈はしなかった。


 「……まって」

 一階に降りようとしたキアを、手で制して止める。

 一階に、軍服を着た人間が、二人。

 

 「あれ、あなたの国の軍人?」

 キアの方を見ずに訊く。もしクローフィアの軍人だったら、穏便に済まさないといけない。

 もし殺したら、キアの未来が消える。ここは慎重に動かなければ。


 「……ううん。連合の人」

 クローフィアが相手取っているのは一国ではなく、世界連合軍。私は勝ち目なんてないと思うのだが、それを子供のキアに言うのは酷というものだろう。


 ……まあ、とにかく。あの二人がキアの味方でないなら、することは一つだ。


 殺す。

 

 また、罪を犯すけど。それで誰かを、キアを守れるのなら、いくらでも殺してやる。

 私には、それしかできないから。

 

 正直、ユノの時より楽かも知れない。

 あそこはアンデッドが相手だった。どうやったら死ぬのか、最終的にもわからずじまいだった。

 でも、あれ(・・)は違う。


 頭、心臓、首、太もも、肝臓、肺、その他もろもろ。

 そのどれかを破壊するだけで、簡単に息だえる。

 

 弱点も、長所も、全部理解してる。

 

 なら、殺せる。

 敵。あれは、敵。殺す。敵は殺す。


 私は、誰かを殺さないと守れない。なら、徹底的に、やってやる!


 「ちょっとだけ、待ってて」

 キアにそう囁く。キアは私が今から何をするのか分からないようだった。

 当たり前だ。こうして科学や文明がある程度発達した世界では、大抵私は『子供』に見られる。

 

 『子供』は戦うすべを持たない、と言うのが共通の認識であったりもするだろう。

 詳しいことは現地で調べないとわからない。だから、それを今から試す。


 「何があっても、私は大丈夫だから、絶対に飛び出したりしないでね?」

 念を押して、私はキアに言う。

 こくこくと、理解できないままキアはうなずいた。


 ……さて、実験を始めよう。

 この世界の軍人は、どんな反応をするのだろう?

 ああ、楽しみだな。

 

 はい、ご愛読ありがとうございます、作者のコノハです。

 

 今回からクレアは第二世界に入っていきます。

 クレア、アンデッドにはわずかに及び腰だったのに対し、人間に対しては完全に楽しんでますね。

 それはクレアの幼い時からの経験と、研究好きが作用したのでしょう。

 

 おそらく、人殺しになれた人間はさらに殺し続けると楽しくなるんじゃないでしょうか。

 継続は精神的な苦痛を和らげるんだと、僕は思います。

 僕も最初は小説を書くのが難しくて、長続きしませんでした。

 それが今は書くのが楽しくて楽しくて。

 それと同じように、最初は苦手な何かも、続ければ楽しくなる……

 そうは思いませんか?

 

 戯言駄文散文失礼しました!

 ご愛読ありがとうございます!

 では次回!

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