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三日目(6)~答え合わせ、そして終焉へ~

 有る意味で明確な答えをもらったクレアは、さらにたたみかける。

 「あなたの反応を見て確信がついたわ。………私の回答は見せたわ。あとは答え合わせ。……してくれるかしら?」


 クレアの自信に満ちた表情を見て、センはもう完全に観念した。

 はあ、と一息ついたあと、ぽつぽつと語り始めた。


 「あるところに、世界一の科学者たちがいたんじゃ。その科学者たちは自身の研究に絶対の信用と自信があった。

 その科学者たちは、十年前に国――たしかアメリカ、といったかな?――に依頼されて、ある兵器を作るようになった」


 「それが腐敗病を引き起こすウイルス……ね?」


 「回答を急いてはいかんよ。……とにかく、わしらは作った。……そして、作り上げたのじゃ。あとは実験を残すのみとなった」

 

 センの口から、誰も知ることのない世界崩壊の歴史がかたられる。

 

 「……しかし、わしらは知らなかったんじゃ。いや、わからなかったんじゃ。ウイルスの方には何の問題もなかった。……しかし、人間の方に、問題があったんじゃ」

 

 「……意味がわからないわ。問題なく成功したから、この世界になってるんじゃないの?」


 「いいや、違う。わしは失敗したんじゃ。……わしらのウイルス、『SS(ダブルエス)』は、適応できる人間と、適応できない人間とがいたんじゃよ」

 

 「…………そう、か……」


 ここで、クレアは初めてセンと自分の話の食い違いの原因を悟った。

 クレアは、腐敗病、いやSSを人や植物を腐敗させるためのものだと思っていた。

 それが違っていた、それだけのことである。


 「……SSは、生物兵器そのものじゃなくて、生物兵器・・・・を作る(・・・)兵器・・ね?」

 

 クレアのその回答に、センは。

 「……お譲ちゃんは本当に勘がいいのう。……そうじゃ。わしらは生物兵器……身体を自由自在に変化させれる化け物を作るためのウイルスを作っておったのじゃよ」


 作戦名『ソルジャーシステム』。

 ウイルスの名前も、この作戦名からつけられたという。

 戦士を人工的に作り出し、自由自在に変化する身体を持つ戦士で敵国を抹殺するつもりだったのだろう。

 

 しかし。

 「最初の実験で、その適応できない人間が当たった。実験台はみるみるうちに腐っていき、そしてお譲ちゃんも見たアンデッドになった。……最初は、あいつだけだったんじゃ」


 最初の実験台がアンデッドになり。

 その実験台に不用意に近づいて、噛まれてしまった研究者で二人。

 その二人になぜおそわれるのか理解できないうちに噛まれた技術者で四人。

 

 事の重大さに気付きながらもなすすべなく噛まれた科学者で八人。

 そして、その八人が世に出て、そこらの人々に噛んで一六人。

 そしてその一六人が一人づつ噛んだとしても三二人。

 そして、崩壊は倍々の速度で始まっていく。


 三二人が六四人に。

 いつしか街に、街は国に。

 国はいつしか世界を包み込み、

 今、完全に滅ぼうとしていた。


 「対抗策はこのツリーしかなかった。……けれど、それも数代でウイルスに耐えきれなくなる。……わしらができることと言えば、子供を早くに作って遺伝子に任せることぐらいじゃった」


 その言葉に、クレアは疑問を持った。

 持ってはいけないところに、持ってしまった。


 「まちなさい。子供を早く作って、ってどういう意味?」

 センはその質問を、わかっていて訊いているのだろうと、勘違いした。

 今まであんなに鋭い推理力を見せていたのに、わからないわけがない、と思っていた。


 「生き残ったわしらはとにかく子供を作って、ある程度育てて耐性のある子供同士でかけ合わせる。それを続けて、子孫を残すしかない、という意味じゃよ」


 クレアは目を見開いた。

 まるで予想だにしなかった答えを聞かされた子供のように、驚いていた。


 「……と、いうことは、『友達交換』は……!」

 「それは」

 ガチャリ。

 

 「言うな。言わなくていい。言ったら撃つ。もうわかった。もうわかったから」

 センの額に拳銃を突きつけ、クレアは低く脅す。


 「子供を産んだ子供や、子供を産めなくなった子供は、どうするの」

 「……殺す」

 

 実に合理的な判断だ。少ない食料、ただの飯食らいになった人間を生かすほど、この社会は優しくない。実にわかりやすくて、いい判断で、

 「……最低」

 最低な判断だ。


 「何よ、それ。ユノは結局歯車なわけ?子供を産むための畑って?そう言うこと?意味分かんない。そんなことして、ユノの気持ちは?好きな人いたらどうするの?ええ?答えなさいよ、セン。セン・フォーリナー。あんたの娘でしょ?娘実験台にして楽しい?

 

 答えろってんでしょ!」


 「……楽しくなんかなかった。でも、仕方なかったんじゃ。……それに、一体何代すればウイルスに対抗できる人間が生まれてくるのかが、気にもなって――っ!?」

 

 センの言葉は、途中で止まった。

 彼の額に突きつけられた拳銃の撃鉄が、上がったからだった。


 「あんた、結局実験、研究か。私だって研究は好きよ。でもね、人をもてあそんでまでしたくないわ!あんた親でしょ、親なら子供を守りなさいよ!」

 

 「わしは、できるだけのことをしたんじゃ!でも、もうこの世代、この世界にウイルスに抵抗できる人間も、科学力もないんじゃ!できるだけ優秀な遺伝子を残そうとするのは、当然じゃろ!?

 それにもう時間もほとんどないんじゃ!ウイルスは空気感染もする!少しづつウイルスが身体にたまっていって、規定量を超えるとアンデッドになるんじゃ!……わしはもう三日生きれるかどうか、じゃ。


 でもあの子は違う!あの子はまだ、生きれるんじゃ!」

 

 また、クレアの思考が疑問を持った。

 「……あの子?なんでユノだけなの?他の人は?」

 

 そうだ。なぜ、センはさっきからあんなにもあせっているのだろう。

 よく考えれば、ここは厨房・・だ。


 なぜ、ここに人がいない?さっきから誰も通りかからない?


 「……言ったじゃろう、もう時間はない、と」

 じゅぐり。


 そんな音が、クレアのすぐそばで聞こえた。


 「わしだけじゃない。腐敗後生まれた子供以外の全員が、そろそろ腐敗がはじまる」


 ずぐずぐ。

 

 どんどんどんどん、センは腐っていく。意識も、消えていく。


 「ユノを、頼んだぞ」


 そう言った瞬間。

 

 センはクレアに襲いかかった。

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