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三日目(4)~目的地~

 『第一世界についての考察。

 アンデッドについての考察。

 アンデッド。

 どこからか、誰が発祥かはわからないが、この世界にはびこる人間の敵、アンデッド。

 

 彼らは生者を求めてさまよい、見つけ次第に襲いかかり、食らいつき、その肉を食べる。

 食べられた側は同じくアンデッドになり、またも生者を求めて、徘徊。

 

 その繰り返しで、この世界の崩壊は始まった。

 

 増え鬼ごっこ、という遊びが私の故郷にあった。

 それは最初の鬼に捕まった人は鬼になり、その鬼に捕まった人もまた鬼になり、どんどんどんどん敵である鬼が増えていき、最終的には人間側が全滅して終わる遊びだ。

 

 今、この世界の増え鬼ごっこは佳境に入っている。もはや鬼の数が人間の数を上回り、ただ遊びの終わりを待つだけの状態。

 

 ……ただ、この世界のアンデッドは進化するようだ。

 私が今倒したアンデッド、個体名『アユ』。

 

 彼女は意思を持ち、明確な感情を持ってユノと私に相対した。

 何故、どうやったら進化するのかは分からないが、アユの遺言を聞くところによると、どうやら強い意志を持った人間が進化型アンデッド(以下これを人間型と呼ぶ)になるのだろうか。

 人間型は身体の構成を自由にできるらしく、私と戦うときは手を刀にして向かって来た。

 

 ただ、これには人間型本体のイメージ力が必要とされるため、そう複雑な機構は再現できないようだ。

 今、泣きはらすユノの隣でこれを書いている。泣きやむまでの暇つぶし、と言ったらかわいそうだが、今はこれしかやることがない』


 後半は日記風になってしまった研究手帳をコートにしまい、クレアは隣を歩く少女を見た。

 ユノは先ほどからうつむいて泣いてばかりいる。

 

 クレアの言葉に耳を傾けようとはしないし、前もほとんど見えていないようだった。

 だが、そのおかげだろうか。

 迫りくるアンデッド達のグロテスクな姿をほとんどユノは見ることなく、目的地である『ツリー』、

 

 『アルフォンス』までたどり着いた。


 

 

 廃墟―――

 それが何を意味するかは、いくら樹の上生活のユノでも、知っていたようだ。

 そう、廃墟。アンデッドはびこる世界で唯一力強く屹立する大樹『ツリー』は健全だった。

 

 しかし、本来樹の保護を受けるべき住居、『アルフォンス』は、……崩壊していた。

 正確に言えば、ただ、変わっただけだった。


 生者が、死者に。

 

 死者が、アンデッドに。


 その結果。

 「っく!」

 本来安全なはずのツリーで、クレアの拳銃が火を噴くことになった。

 

 「ね、ねえ!クレア、ここどうなっちゃったの!?」

 ユノは今なにが起きているかがわからずに、ただ訊くだけだった。

 「大丈夫!きっと生き残りもいる!」

 

 それはユノに言い聞かせるための言葉だったのか。それとも、自分自身を納得させるための言葉だったのか。

 「……こっちに人の気配がある!行きましょ!」


 そう言ってクレアが向かったのは、食堂だった。

 うようよといるアンデッド達を殺して、クレアは食堂の扉を開けた。

 

 「あ、ああ……ユノ……来てくれたのか……」

 生き残りは、いた。

 「デルタじいちゃん!」

 ユノはデルタという老人に駆け寄り、抱きつこうとする。

 

 しかし、デルタはそれを止めた。

 「え……?」

 「ダメじゃよ、ユノ。わしはもうダメじゃ」

 

 そう言って、足をユノに見せる。

 そこには、これ見よがしに血にあふれた、歯型があった。それが示すことはあまりに明白過ぎて、幼いユノにもすぐに推測できた。

 

 「え、……じ、じいちゃん、死んじゃうの?」

 「……それが、できればいいんじゃが」

 

 そう、アンデッドに噛まれた人間は死ぬのではない。彼らの仲間入りをするのだ。

 人間らしい死に方をしたいなら、アンデッドになる前に死ななければならない。

 一人で食堂に来ていたデルタの目的を、クレアは容易に察せた。


 ――自殺するための刃物を探しに来たのだ。


 デルタのしわの寄った手を見れば、刃物は見つかったのだろう。しかし、死ぬふんぎりがつかなかった。そして、今でもつかないでいる。


 早くしないと、自分がユノをアンデッドにしてしまうかも知れない。そんな不安が、デルタからはにじみ出ていた。


 「……ユノ、目を閉じていなさい」

 クレアは、ユノにそう命じた。


 「え、なにするの……」

 ユノは、なぜそんなことを言われるのかがわからなかった。

 だから、代わりにデルタが、少女の目をふさいだ。優しそうなしわの寄った手で、優しく目を包み込む。

 

 ユノの視界は真っ暗になり、何も見えなくなった。

 声だけが、音だけがユノに届く。


 「……すまんな、譲ちゃん。汚れ役を背負わせて……」

 チャカッ。

 何かの金属の音が、ユノの隣でした。


 「いいわよ、別に。小さいころからやってることだし、いちいちあんた程度を殺したぐらいで、気に病まないわ」

 「……そうか。譲ちゃん、名前は?わしの恩人の名前を、知りたくてな」

 シャキン。

 金属質の何かがスライドする音が、聞こえた。


 「……私の名前はクレーシア」

 「……そうか。ありがとうね、クレーシアちゃん」

 キリ、……キリ。

 本来なら聞こえるはずのない微細な金属音が、ユノの耳にははっきり聞こえた。


 「……愚者クレーシアの、名において」

 クレアの震えた声。

 キリ……キリ……

 

 

 「あなたを殺すわ」


 

 パシュッ。


 ひどく小さな銃声が、ユノの耳を掠めた。

 それと同時に、ユノの視界が開ける。

 

 哀しそうな表情で煙の上がる拳銃を握るクレアと、

 安らかな表情で額に穴を開けたデルタとが、同時に見えた。


 「あ、あ、あああああああああああああああ、あ、ああああああああああああああ!?」

 ユノはそう叫ぶと、くたりと地面に倒れ伏した。

 

 姉の死。デルタの死。

 あまりにも短期間で起こった二つの死に耐えきれなくなったユノは、意識を喪失させることで自己を守ろうとしたのだ。


 「……おやすみ、ユノ」

 そして、クレアもそうした方がいいと、考えていた。

 

 ジュグジュグと、残酷な音を立ててデルタの遺体が急激に腐り始めていたから、クレアはそう思った。

 「……これは、アンデッドになる世界じゃない」

 そして、研究好きの彼女は、気付いた。


 この世界の、真の姿に。

 

 「……その前に、確認しなきゃ」

 自分の推理は正しいのか。その証拠を探すため、クレアは廃樹『アルフォンス』の捜索を始めたのだった。

 

 一人は二人に。

 二人は四人に。

 四人は八人に。

 

 八人は一六人に。

 一六人は三二人に。

 三二人は六四人に。

 いつしか街に、街は国に。

 

 そして今。

 それは世界に、なろうとしていた。

 

 ほんの補足を少し。

 最後の擬音について。

 チャカッ

 はクレアが拳銃を構えた音、

 シャキッ

 はクレアが拳銃のスライドを引いた音、

 キリ……キリ……

 はクレアが引き金を引き絞る音、

 パシュッ

 は銃声です。

 この時のユノは非常時だったことも相まって非常に外界に対して敏感です。だkら普段なら絶対に聞こえないはずの引き金を引きぼる音も聞こえたわけですね。

 ちなみにクレアが拳銃にサプレッサーをつけたのは、拳銃の横にユノの耳があったからです。

 拳銃の音でユノの鼓膜が破れてはいけないので、その配慮ですね。

 駄文散文失礼しました!

 では次回!

 

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