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第一日目~出発前夜~

 無機質な部屋だった。

 ベッドもなければ机も本棚もない。


 時計もなければこれと言った装飾もなく、ただ、部屋というだけの白い壁紙に包まれた部屋。

 そこに、少女がいた。


 腰まで届く長い黒髪に、漆黒の闇色の瞳。

 丈が足首まである特殊なコートに身を包み、ただたたずんでいる。


 その瞳は鋭く、何者にも気を許しそうにない警戒心がありありと浮かんでいた。

 彼女はこの無機質な部屋にとらわれているのか?


 答えは否。


 この部屋は彼女をとらえる牢獄ではけしてなく、それどころか長い間彼女に安心を与えていた彼女の住居なのだ。

 しかし、ならばなぜこの部屋には何もないのか?


 答えは単純明白だ。

 この部屋はもう彼女に必要とされていない。ただそれだけである。


 「……ほんとに行くのかよ、クレア姉」

 開けっぱなしの扉に、白い髪の少年が頭だけを出した。


 クレア姉と呼ばれた少女は、鋭い目つきで少年をにらみ、一瞥した。

 「当たり前。私は行くと行ったら行くわ」


 それ以上の会話は必要ないとでもいうように少年から視線を外したクレア。

 少年の名前はルネス・ペンタグラム。クレアの弟である。


 しかし、男嫌いなクレアは、家族であるルネスとさえも、会話するのを好まないのであった。

 クレアの返答を聞いて、ルネスはしょんぼりとしたが、

 「は。もう姉ちゃんの実験台にならずに済むことを考えりゃ、いいことだよな。とっとと行きやがれ!」


 そう取り繕うことで、なんでもないように振る舞った。

 ルネスはそのまま、自室に戻って行った。これ以上クレアと話したら涙を我慢できなくなるのか、それともクレアを気遣ったのかはわからないが。


 「……もう、この部屋でくらして16年になるのよね……」

 この街琴乃若にクレアが来た時、彼女は10歳だった。

 ならばクレアは26歳と言うことになるのだが、彼女の外見は少女のままである。

 どういうわけか、彼女の外見は年をとらないのである。

 

 「……やっぱりやめとこうかな……」

 ルネスにはああ言ったが、16年も暮らしていた家、部屋、街から出ていくのに全く未練がないわけではない。

 

 「……沙耶……」

 クレアの親友、黒月沙耶。しかし彼女はクレアと違い普通の人間で、小学、中学、高校とクレアと楽しく過ごしていたが、沙耶は進学、高校生になった時点で成長が止まり、外見に変化が見られなくなったクレアはそのまま卒業、家で研究に打ちこむようになった。

 

 沙耶とは高校卒業以来会っていない。会いたくない、とか、そう言った理由では断じてなく、ただ、怖いのだ。


 高校時代と全く違わない自分を見て、沙耶にどう思われるのかを知るのが、怖いのだ。

 

 今沙耶は琴乃若郊外にある会社で事務の仕事をしている。何事にも積極的に取り組んで会社でも高評価をもらっているようだ。

 沙耶は、変わった。成長して、今も未来に向かって走り続けている。


 でも、クレアは違った。成長は止まり、永遠に近い年月を生きれる彼女は、今はもう止まっている。

 変わるためにここを出ていくのだとしても、それでも沙耶とは決定的に違っている。


 会いたいけど、会いたくない。

 

 それが今のクレアの心境だった。

 「……でも……でも、私は……」

 クレアは迷っていた。


 会って別れを告げるべきか、会わずに今生の別れをするか。

 クレアの行先は未定で、長くて永い。琴乃若に帰ってくるころにはすっかり様変わりしているかの性だってあるのだ。


 会うべきか、会わないべきか。

 ここで出て行ったら間違いなく後悔する。でも、怖い。

 あったらすっきりとした気持ちで出ていける。

 でも、怖い。


 そんな葛藤が、クレアの中で幾度も幾度も起きた。

 そして、何分も何時間も迷った末、クレアは答えを出した。


 「……会おう」


 長らく会っていない親友に、あって別れを告げることにしたのだ。


 「沙耶?」

 そうと決まれば、クレアはすぐに行動した。携帯電話を取って、沙耶の番号にかける。今時刻は9時。仕事も終わって、そろそろ休もうかという時間帯だろう。

 

 『もしもし、どちら様ですか?』

 高校時代とは違い、低く、落ち着いた表情のある声。

 「私。クレア。沙耶、久しぶり」

 しかしクレアの声は高校時代と変わりなく、高い女子高生特有の声だった。

 『あ、クレア!?久しぶり!元気だった?」


 「うん、元気よ」

 沙耶は電話の相手がクレアだとわかると、高校時代と同じように驚いてくれた。

 「ねえ、明日会える?話したいことがあるの」

 明日は土曜日。普通ならば仕事はないはずだが、

 『あ~ごめん!明日仕事なの!……電話じゃダメ?』

 沙耶は違った。

 

 「……うん、電話口じゃあだめ、信じてもらえない。……じゃあ、今から会いに行くわ」

 クレアは行動的な少女である。

 明日がだめなら今日、一時間後がだめなら今から、という非常にせっかちと言えば聞こえは悪いが、クレアは知っているだけなのだ。

 

 明日、という時間が、一時間後、という時間が、誰にでも平等に訪れるわけではないことを。

 

 『……うん、わかった。今から来るのね?場所わかる?』

 「うん。……待ってて」

 『ワイン用意して待ってるわ』

 

 用意する飲み物がジュースからアルコールに変わったが、このような会話は高校時代にはいくらでもしてきた。

 明日がないかもしれない。それは沙耶だって知っているからこそ、クレアの急な訪問も迷惑がらずに受け入れられるのだ。

 

 「じゃ、すぐ行くわ、沙耶」

 『待ってるわよ、クレア』

 

 プツン、と通話を終えると、クレアは部屋をでて、長い廊下、そして階段を駆け下り、玄関に辿りつくと目も止まらない早さで靴を履く。

 

 「行ってきます!」

 そう言ったのは形式的なものだったのだろう。って、を言うころにはクレアは外に飛び出していたから。



 クレアは走る、沙耶の家を目指して。

 こんにんちは、作者のコノハです。

 最新作、「クレアの旅日記」をお読みくださってありがとうございました!

 クレアはなぜ年を取らないのか?どこになんのために出ていくのか?

 それを知っている人は彼女が出ていくのを待っていてください。

 知らない人も、待っていてください。

 毎日更新のみが取り柄?の僕ですが、文章の内容もがんばっていきますので、暖かい目で見守ってやってください。

 見やすいよう、行間を開けてみたんですがどうでしょう?見やすくなったでしょうか?

 最後に、もう一度お礼を。

 お読みいただき、誠にありがとうございました!これからもぜひ、お読みください!

 駄文散文失礼しました!

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