表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

災難体質の彼氏

お好みの世界をどうぞ

作者: 虹夢

 彼氏の流依(るい)が世界を選ばせてくれるというので、それに甘える。

 世界といっても、一日分だけだけれど。



「今日が三回ループしたわけだけどさ」

 放課後の教室。流依がスマホをいじりながら言う。


「いま初めて知ったんだけど」

「え、俺しか分かってなかったのか」

 他の人がループを知らなかったことに衝撃を受けたのか、流依がスマホを置く。うぬぬと唸っているが、なぜ三回目まで気づかなかったのか。


「昨日、新月だったもんね。さすがの災難体質」

 流依は満月や新月の次の日に、不思議なことに巻き込まれる。今回のは災難と呼ぶほどでもない。マシな方だ。



「それで、どの今日を採用するかを俺が選べるらしいんだけど」

「選ばなかった今日は?」

「俺以外に記憶されず、ゴミ箱行き」

「シビアな話だね」

 どうして世界を選ぶと分かったのか。なぜ流依以外に記憶されないことが既に分かっているのか。

 本人に聞いても「なんとなく」としか返ってこない。災難体質は謎が多い。



「どれでもいいから、お前任せよっかなって。どの今日がいい?」

「そう言われても、前回も前々回も記憶にないからね。……もしかして、流依が今日の数学のテストで百点だったのって?」

「俺は一周目も百点だった」

「救いがない」

 流依の成績がいいのはいつものことだけど。私にじとっと(にら)まれても、どこ吹く風である。



「じゃあ、テストのときの状況を教えるから。それで選べば?」

「いいけど」

 流依は意地でも自分で選ばないらしい。



「一周目は、お前は七十点。お前が苦手なベクトルの範囲だったから、意外と健闘したな」

「でも流依は百点なんでしょ」

「俺に『すげえな、頑張ったじゃん』って言われて喜んだあと、俺の点数を見て机に突っ伏してた」

 流依が楽しそうに笑う。そんなに面白かったのか。

 私は、一周目の自分の気持ちがよく分かる。褒められるのは嬉しいけど、なんだか釈然としないものがあるのだ。



「二周目、お前は八十点。二周目だから点数が上がったと思ったんだけど。今思えばこっちを褒めるべきだったな」

「本当だよ、二周目の私がかわいそう。ところで流依の点数は」

「百点」

「やっぱりか」

 ドヤ顔をするでもなくサラッと言うから困る。たしかに、一周目から百点なのに下がるわけないもんな!



「三周目はご存じのとおり」

「私は六十点だったんだよね。なんで下がったんだろ」

「日頃の行いが悪いんじゃないか?」

 説明は終了、と言わんばかりに流依はまたスマホをさわる。今日の選択が明日に影響するかもしれないんだから、もう少し真剣になれ。



「どうしようかな。二周目はまあいいんだけど」

 流依が褒めてくれることは滅多にないので、私は少し悩む。一周目を捨てるのは惜しい。

 でも、わざわざこの情報を伝えたのは流依なわけで。流依は、私がこの問題を悩むように設定したのだ。


「三周目の今日を選ばなければ、今も消えるわけだよね」

「そうだな」

「それなら、私は今を選ぶよ」

「六十点なのに?」

 流依がからかうようにたずねる。どうせ結果を分かっていたくせに。


「流依が選ばせてくれたことを覚えていたいから」

 流依の目が一瞬だけ見開き、口元がほころぶ。

 流依が満足する答えを出せたようで何よりだ。こういうときの流依の顔はいっとうきれいで、私もうれしい。


「じゃあ、そうする」

 照れくさい気持ちを隠すような素っ気なさで、流依は言った。



 次の日、目覚めてみれば、机の上にあるテストは六十点。宣言どおり、三周目が採用されたようだ。それは構わない。私が選んだ結果だ。

 ただ、ひとつ誤算が。私にも三周分の昨日の記憶があった。


 謀ったな、流依!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで読んでなるほどー!ってなりました。 三周目を覚えているなら、確かに説明された記憶も残りますね。 [気になる点] これでマシな方……他にどんな災難にあったのか気になります。
[良い点]  流依に褒められる一周目も捨てがたいし、自分に選ばせてくれる三周目も忘れたくない。  彼女、かわいいですね。べた惚れ? ラブラブ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ