第2話 赤いリボン (2/9)
ピコンと音がして、思わずびくりとした。
危うく落としかけたスマホを慌てて握りなおすと、私宛のメンションを確認する。
『ねー、みさき、昨日DtD入れたんでしょ? チュートリアル終わった?』
ログを辿ると、既に私以外の二人は昨日のうちに招待IDの手続きを済ませていたみたいだ。
『終わったよー、昨日は寝落ちちゃったみたいでごめんね』
『ごめーん(←スタンプ)』
返事に謝るスタンプを添えると、すぐに招待IDが送られてくる。
『行ってくるね!(←スタンプ)』
私はスタンプを返して、DtDを起動する。
ロゴの後には、あの虹色が溶けたような空と、沢山のシャボン玉に包まれた世界達。
夢の中での出来事が、また鮮明に甦る。
タップしてログインすれば、そこには自キャラが立っていた。
3人分キャラが作れるのか、自分の作った『みさみさ』の隣には後2つ分同じようなスペースがある。
私はまだ一人しかキャラを作っていないので迷う事なくその子を押そうとして、指が止まった。
あれ? レベルが上がってる……。
チュートリアルまでで、レベルは10のはずなのに。
名前の下に表示されている私のキャラのレベルは22だった。
どうして……?
私はドキドキしながらその子をタップしてログインする。
足元にいたはずのきなこもちは居ない。
それでもレベルは上がったままだ。
クリアしたミッションを確認すれば、そこには雲兎と雲羊を倒すミッションが達成の表示になっていた。
胸のドキドキがさらに高まる。
とにかく、アイカに文句を言われないうちに招待IDを入れて送信して……。
あ、そうだ。ログアウトの方法も聞いとこう。
私はズッ友グループにその旨を書き込んで、またすぐDtDに戻った。
画面の上端に通知が出て、アイカの返信が入る。
『あはは、やっぱりみさみさだー』
『みさみさってさー、そろそろダサくない?』
……う。言われてしまった。
招待の手続きをした時にキャラ名が伝わったんだろうな。
確かに、SNSでも周りの子達はカタカナや横文字の子が増えてきたとは思う。
でも、じゃあどんな名前にしようかと思っても、そんなのすぐには思いつかない。
私は、なんて返信しようか迷った挙句に『あはは』と汗を垂らして苦笑いをするスタンプを送信する。
アイカは気にする様子もなくログアウトの方法を教えてくれた。
『ありがとう!(←スタンプ)』
試しに一度ログアウトしてからログインし直す。
昨日のカタナさんの声が、不意に胸に蘇る。
『これは想像だけど。みさみささんが、今日ログアウトする時に、初めてのDtDを『楽しかった』と感じてくれるなら、俺はきっと最高に『よかった』と思えるよ』
昨日の事がただの夢じゃなかったのなら、彼はあの後どんな気持ちになったんだろう。
スマホのアラームで、私は目覚めてしまった。
彼には私はログアウトしたように見えたんだろうか……?
……みさみさって名前を、カタナさんもダサいと思ってただろうか……。
でも、どんな名前ならいいのかなぁ。
私は、いつまでもぐるぐると読み込み中のマークが回ったままのログイン画面を見つめながら考えていた。