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第7話 エピローグ (3/4)

きなこもちがいなくなってから一週間。

サーバ毎に一日ずつ順に行われていたウィルス退治のための大規模メンテも、今朝までで全サーバ完了したらしい。


学校では、冬馬くん達とは顔を合わせれば必ず挨拶をするようになった。

時々放課後の予定を尋ねたりする事もあるけど、基本的には今までと変わらない距離だ。


私は今日も、変わらずアイカ達と一緒に居た。

アイカがこっそりスマホの画面を見せてくる。

「ねーねー。これ可愛いでしょ?」

「おおおお、神可愛いっしょ!」

それに爆速で食いつくひまりと、じっくり眺めてから答える遥。

「ほんとだ、可愛いねー」

「可愛いとは思うけど、ゲームの誘いならやらないからね?」

玲菜は先回り気味に断っている。

玲菜の読み通り、アイカは新しいゲームにみんなを誘った。

「私はまだDtDやってるから、ごめんね」と断る。

アイカ達は遠慮なく「ええー」とか「付き合い悪いー」とか言ってくるけど、それでいいんだと近頃は思えていた。

「ごめんごめん。その代わり、DtDにみんなが来る時は、もてなすからね」

笑って答えれば、アイカが悩む。

「えー。うーん……久々に入ってみる?」

どうやらまだアカウントは消してないみたいだ。

アイカは意外と素直なんだよね。

私が気付かないまま過ごしていた友達の良いところにも、毎日少しずつ気付き始めていた。

「無理しなくていいよ。今日はそのゲームやるんでしょ? また気が向いたらいつでも声かけて」

その時には私もきっと、壁くらいできるようになってると思う。


私は、そんな今日のやりとりを思い出しながら、いつものEサーバのワールドセレクトルームに入った。

時間はまだ早くて、フレンドリストを見ても、オンラインはGMさんだけだ。

私はあれからずっと、ログインする度にアイテム欄を開いていた。

そうして毎回、空になったままの『きなこもちの飼育ケース』を眺めては、アイテム欄を閉じる。


GMさん達は会議の結果、私のデータの中の、これを消さないことにしたらしい。

確認した限り他のアイテムやシステムに不具合を出すこともないだろうという事で、せめて私ときなこもちとの思い出に、という配慮だった。

でもいつまでもアイテム欄に置いてても重量がかかっちゃうし、そろそろ倉庫に入れておく方がいいのかな……。


そんな気持ちで開いたアイテム欄の飼育ケースは、いつものパカッと開いたままの絵ではなくて、きちんとドームが閉じていた。


……え?


ドキドキうるさい心臓に急かされて、私は震える指で『きなこもちの飼育ケース』をタップ……しようとして、ここが遮るものの何もないワールドセレクトの草原だと気付いて場所を変える。

前にカタナたちに教えてもらった人のほとんど来ない建物の中で、飼育ケースをそっとタップすると、中からぴょんと黄色い塊が飛び出した。

「ぷいゆっ♪」

「きなこもち!?」

きなこもちは、ハートのマークを出して頷く。

「ぷいゆ♪」

「きなこもち……っ」

思わずギュッと抱きしめれば、ぐぅぅとお腹をすかせたようなマークが出てくる。

私は、こちらも持ちっぱなしだった黄色い石を出した。

私の手から、嬉しそうにもぐもぐ食べているきなこもち。

もっちりしたすべすべの姿がじわりと滲んで、私は目を擦った。

嬉し泣きなんて。私、生まれて初めてかも……。

……でも、これって、GMさんに報告した方がいいんだよね?



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