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第6話 閉じ込められていたもの (6/6)

私の前には、大きな大きな、七色に輝く光の……鳥……? ああ、そっか、これ……。

「大龍……、光の大龍だ」

感動に震えるような声がすぐ隣から聞こえて、そちらを見れば、刀がいた。

「うわわ、何これ、夢の中? えっ、二人もいるの?」

慌てるあゆの声は、坂口君の声だ。

「夢じゃないよ」

私が答えれば、刀も頷く。

もしかしたら、刀も夢の中の私と会っていた時はこんな感じだったんだろうか。

光の龍が、ゆっくり目を開く。

「きなこもち……?」

私が声をかければ、七色に輝く瞳が優しく細められた。

そうっと伸ばした私の手に、光る龍はくちばしのような物を擦り付けてくる。

優しく撫でれば、高く透き通る笛の音のような声で、嬉しそうに鳴いた。

「良かった……」

「俺も、撫でていいか?」

隣から尋ねる刀に、輝くくちばしが差し出される。

なんとなく、これできなこもちとはお別れなんだというのは、刀も感じたのかも知れない。

グローブと金属製の甲冑に覆われた刀の指先がくちばしから離れると、光の龍が輝く翼を広げて大きく羽ばたく。

光の大龍が飛び立てば、光に包まれていた私たちの周りにいつもの草原が戻ってきた。

そっか。私たちは周囲をぐるりと光の大龍の大きな体に囲まれてたんだ。


「な……、なんで君たちまで、ログインしたままなんだ?」

ラゴの戸惑うような声。

空には確かに、現在メンテナンス中です。という表示がされている。

「それに、この、龍は……」

ラゴは、空に舞う光の大龍を見上げながら地上に降りてくると、人型に戻る。


「光の大龍。DtDに暗闇の使徒がはびこるとき、それを打ち払ってくれるという、伝説の神龍の一人だ……この暗闇の使徒っていうのは、ウィルスの事だったんだな」

刀の言葉に、ラゴはその通りだと頷く。

「よく知ってるね。光の大龍はウィルス除去プログラムだ。でも、起動キーが分からなくて、ずっと起動できなかった……」

「起動キー?」

あゆが可愛らしく首を傾げて尋ねる。

うーん。ピンクのウサミミツインテールウィザードもよく似合ってたけど、紫のロングウェーブな聖職者お姉さんも似合ってるなぁ。

「いや、それが開発ノートには、起動キーは乙女の祈りと成長って書かれてるだけで……」

ラゴはちょっとバツの悪そうな顔で頭をかきながら答える。

「このウィルス除去プログラムを作った人は、これを完成させてすぐに亡くなっていて、本当に開発部のメンバーにも起動の仕方が分からない、宝の持ち腐れ的なプログラムだったんだよ」

「すごい……俺が、DtDの伝説に立ち会えたなんて……」

刀が何やら感動に震えている。

私には伝説とかそういうのはよくわからないけれど、きなこもちが私を選んでくれて、私がそれに応えられたのだとしたら。

それは、……とても誇らしい事だった。


見上げた空では光の大龍がぐるぐると回りながら、キラキラ光る七色の粉を撒いている。


きなこもち……。ありがとう……。


光の大龍が通り過ぎた後に、所々で七色の光る柱が地面から空まで伸びる。

ラゴが仲間のGMから受け取った情報を嬉々として話した。

「すごいよ! あの粉、隠れてるウィルスを炙り出して、駆除していってるらしい!!」

あゆと刀が顔を見合わせて、どこか誇らしげに笑う。

そうだよ。きなこもちが光の大龍になれたのは、私が殻を破るまでの間、二人が必死で頑張ってくれたからだよ。

ううん、私が殻を破れたのだって、二人がどんな時でも優しく励ましてくれたからだよ!

「刀、あゆ、本当にありがとうっ!!」

私の言葉に、二人はキョトンとこちらを見た。

「みさみさちゃんもすごいよっ♪」

「ああ、光の大龍を召喚した巫女様だな」

「えっ、そ……そうなる……のかな?」

なんだか恥ずかしくて、また顔が赤くなってしまいそうだ。

「うんっ」「おそらくな」

二人は笑って言った。


「あ! このマップの駆除が終わって、光の大龍は次のマップへ移動する気みたいだ。僕は付き添ってくるよ!」

ラゴがばさりと翼を広げて飛び立つ。

「君たちにはまたメンテ明けに、詳しく話を聞かせて欲しい!」

私達はラゴに手を振って答える。

「はーい」「はい」「分かりました」

「データの点検もするから、なるべく早くログアウトしていてくれよーっ!!」

風の中に、ラゴの少年らしい高い声が響いた。


あまりに普通に会話する皆が、なんだかおかしくて笑ってしまう。

だって、私達はほんのちょっと前まで本気でラゴと戦ってたのに。

私達はラゴを嫌いじゃないし、ラゴも私達のことは嫌ってない。

人との関係って、本当に不思議。


私たちは顔を見合わせると、ちょっとだけ苦笑して、ログアウトに取りかかる。

「通話アプリで声をかけてもいい?」

私の言葉に、二人は頷いてくれた。


遠くの空から、光の大龍となったきなこもちの声がする。

少しだけ寂しそうに、でも私たちを励ますように、透き通る笛の音のような鳴き声が空に高く響いた。


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