第6話 閉じ込められていたもの (5/6)
あゆも私と刀に支援スキルを途切れる事なく続けながら、心配そうに刀を見ている。
「俺の知ってるDtDは、そんなに脆くない! それに、きなこもちはただのウィルスじゃないと、今倒すべきではないと俺は思っている!」
刀は力強く応えると、スキル攻撃をラゴに放つ。
「ははっ、光栄な事を言ってくれるね。僕もこれは、本気を出さないといけないね!」
ラゴが楽しそうに笑って、背中の翼を大きく広げるとバサリと飛び立つ。
その姿が、見る間に人間らしいシルエットから恐竜のような姿に変わる。
「なっ!?」
「ドラゴン!?」
「驚いた? DtDの守護神は伝説のドラゴンっていう設定なんだよ。かっこいいでしょ?」
ラゴが自慢げにくるりと空中で回ってみせる。
真っ赤な姿のドラゴンに緑色の瞳がしっくりくる。
そうか、不思議なくらい大きくて深い瞳は、ドラゴンの瞳だったんだ……。
「ドラゴンは、この世界では最強だからね。僕は絶対に負けないよ!!」
ゴウッとラゴは炎の渦に包まれると、その全身に炎を纏う。
「伝説の神竜の一人……。炎の……神竜だ……」
刀がぽつりと呟いた。
画面上部に、メンテまで残り一分とのアナウンスが流れる。
刀が総力戦とばかりに各種ブーストアイテムを一気に使う。
あゆは、私ときなこもちを守るように支援をかけて光の障壁を張る。
「待って! 私、二人にこんなにしてもらう資格ないよ! 二人に黙ってることが、いっぱいあるのっっ!!」
二人が一瞬こちらを振り返りかけて、ラゴの強力な炎の攻撃に集中する。
私は二人の背中に必死で叫ぶ。
「私、本当は、きなこもちがGMさんのこと怖がってるの、知ってたの!」
返事の代わりに、ぐっと親指を立てたようなマークで、刀が『気にするな』と伝えてくれる。
支援を受けた刀の炎耐性の盾が、ラゴの炎を耐え切る。
水属性の槍から放たれるスキルが、ラゴのいる空中まで届く。
それでも、ラゴのHPはほんの少し削れただけで倒せそうな気配はない。
私は必死で続ける。
「と、友達に! カタナが狩りに誘ってくれたこと、黙ってたし!!」
これには、ガーンとショックを受けた様子のマークが出る。
そうだよね。ごめんカタナっ。
画面上部にメンテまで残り三十秒の表示が出た。
そこからは一秒毎にカウントされてゆく。
ドラゴン姿のラゴが大きく高く羽ばたくと、一際大きく息を吸う。
その頭上に三重の魔法陣が浮かぶ。
「魔法との合わせ技!?」
あゆが叫ぶ。
「集まれ!」
刀が私ときなこもちの元に走る。
あゆが刀に詠唱速度を上げる魔法をかける。
刀の足元に魔法陣が広がり私たちを包む。詠唱バーがジリジリと縮む。
あゆもそこへギリギリ滑り込んだ。
ラゴの極大魔法が上空から隕石のような大きさで画面いっぱいに降り注ぐ。
その瞬間、刀の防御スキルが発動した。
「私、本当は女だし!!」
ドーム状に覆われた狭い空間の中で叫べば、あゆが明るく答えた。
「知ってるよー」
「今日、そう言われた」
刀も頷く。
二人は攻撃が止むまではできることがないのか、私のことをじっと見つめていた。
どこか励ますように、温かい眼差しで。
もう今ならこのまま、最後まで言えそうな気がする。
「私っ、ふ、ふ、二人と、同じクラスなのっっ!!」
「「!?」」
真っ赤な顔で叫べば、これには二人も流石に驚きを隠せない顔をする。
その時、ピシッと音がした。
二人は刀の張った防御壁を見る、こちらも高温にさらされて色が変わって今にもどろりと溶け落ちそうだったが、私はきなこもちを振り返った。
真っ黒な体に一本の大きなヒビ。
パキパキと音を立てて広がる亀裂。
そこからは眩しいほどの光が溢れてくる。
「間に合った!? きなこもちっ!!」
「「きなこもち!?」」
メンテまでの残り秒数は五秒。
そこから先は読めなかった。
光はあまりに眩しく強烈で、スマホの画面から溢れ出して部屋中に広がる。
思わず閉じてしまった目をそろりと開けると、そこに自分の部屋はなかった。