第6話 閉じ込められていたもの (4/6)
『……ココカラ、ダシテ……』
これは、いつもの夢の声だ。
『カラヲ……コワシテ……』
どういうこと!?
この黒い体の中に、まだ何か入ってるってこと……?
『ココロノ……カラ、ヲ……、……コワシテ……』
後ろを振り返る。
二人にはこの声が聞こえた様子は無い。
必死に私達を守ろうと戦ってくれている。
画面上部に、残り三分でメンテナンスとのアナウンスが流れる。
メンテナンスに入れば、カタナとあゆは強制ログアウトになる。
そういえばさっき、きなこもちの姿が割れてしまった時、私は二人に本当のことを話そうとしていた。
それなら、もう一度……。
本当の事を二人に伝えることができたら……?
私は、夢と現実が混ざり合うような感覚の中で、きなこもちを背に庇いながら戦う二人に向き直る。
カタナは、何度目になるのかわからない死に戻りをしたところだった。
見れば、装備も破損させられたのかボロボロになっている。
「カタナ! デスペナが……、っそれに装備も……」
「気にするな」
一瞬の隙に、あゆがラゴの尻尾を喰らう。吹っ飛んだところに炎を撃ち込まれて、あゆもその場に倒れた。
「「あゆ!」」
生き返らせようと駆け寄ったカタナがラゴの炎と爪に裂かれる。
防具の破損のせいかダメージが大きい。ポーションを連打していたカタナも追いつかずその場に倒れてしまう。
「くっ、このキャラじゃここまでか……っ」
カタナがパーティーの管理権限をあゆに譲って消える。
「二人とも、もういいよ!!」
叫ぶ私に、あゆは優しい声で言う。
「大丈夫大丈夫、ボクもカタナが戻ったらキャラチェンしてくるからね」
「――っ、私、二人にこんなにしてもらう資格ないの!」
「資格?」
聞き返したあゆの声に、ラゴの声が重なる。
「僕がキャラチェンまで待ってると思う? 残念だけど、そろそろ終わりだよ」
ラゴが放った渾身の炎は、私もろともきなこもちを包んだ。
……かに思えたそれを、間一髪で防いだのは大きな盾だ。
ぎゅっと閉じてしまった目を開くと、そこに光を纏った見知らぬ騎士の背があった。
あゆがすぐにその騎士をパーティーに入れて、管理権限を譲る。
名前は刀。そっか、カタナの別のキャラなんだ。
入れ替わるようにあゆはログアウトした。
刀は迷う事なくラゴに鋭い槍を突き立てる。
ラゴの反撃に、刀がダメージを受ける。が、次の瞬間にはHPが回復していた。
パーティーにはもう一人、あゆという名前が増えている。
あゆゆより『ゆ』が一つ少ない。
気付けば美しい女性の聖職者がそばに居た。
あゆは次々と刀に支援魔法をかける。
「ははっ、中々高レベルだね。装備もよく整えられてる。ここまで育てるには相当時間がかかっただろう?」
「俺はベータ版からの古参だからな!」
刀が吠えるように答える。
「君はそんなにDtDを大事にしてくれてるのに、どうしてそのウィルスを庇うのかな?」
ラゴが攻撃を止めて尋ねる。刀も立ち止まって答えた。
「……そうするべきだと、思ったからだ」
「そのウィルスのせいで、DtDの世界が壊れてしまうとしても?」
「――っ!」
刀が動揺するのが、私にも分かった。