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第5話 いつもの学校で (8/8)

通話アプリの通知を切って、私はDtDに入る。

坂口くんがあれからどうなったのか、それが気になっていた。


DtDにカタナがいなければ、クラスのグループ会話を遡って、坂口くんに直接聞いてみる……?

うーん。それはまだ、流石に勇気が出ないかな……。

カタナがいてくれたらいいんだけど。


ログインすれば、いつもの見慣れた草原。そこにカタナは居た。

人のまばらな草原の真ん中で、ポツンと立ち尽くしているような後ろ姿。

その背中がどこか寂しそうに見えてしまうのは、隣にあゆが居ないから……かな。

カタナのパーティーは昨日のままみたいなので、私はパーティー会話で声をかけてみる。


いつもなら、私がログインすればカタナの方が先に気付いて声をかけてくるんだけど……。

「やほー。何してるの?」

カタナの隣まで歩いていけば、ようやくカタナがこちらを見る。

その時、カタナの後ろに、見慣れたピンクの髪がログインした。


「あゆ!?」

私の言葉にカタナも振り返る。

「お前、あれから大丈夫だったのか?」

「んー、それが、親は仕事が忙しかったみたいで、迎えが来るまでずっとあのまま寝かされてたんだよね……。誰か起こしてくれたら良かったのに」

苦笑して言うあゆだけど、その表情はどこか悔しそうだった。

「今夜は寝られそうにないや……。せっかく昼夜逆転治ってきてたのになぁ……」

そっか……。あゆにはあゆの、頑張ってたことや辛いことがあるんだね。

いつでも寝られていいな。なんて話じゃないよね。

あゆが寝たくて寝てるわけじゃないのに……。

私は簡単に考えていた自分を内心で恥じながら、それでも無事な様子に少しホッとする。

「どこかぶつけたりしてなかったか?」

カタナが心配そうに尋ねる。

「それは大丈夫だったよ。クラスの女子が頭を守ってくれたって聞いたけど、えっと……」

「花坂さんだな。同じクラスになった時から、お前の苗字と一文字同じだなと思っていた」

私はDtDの画面内に出てきた自分の苗字になんだかドキッとしてしまう。

しかも、そんな前から冬馬くんは私の苗字を覚えててくれたんだ?

確かに坂口くんと「坂」の字は同じだけど……。

「うん、ボク一度も話した事ないんだよね。どの子か教えてくれる? 明日お礼言わなきゃ」

お礼なんていいよ。いつもお世話になってるのはこっちだし。って、言いたいけど、急に言っても驚くよね。えっと……。

私が、どう切り出そうか迷ううちに、カタナが戸惑う私に気付いた。

「ああ、みさみさに分からない話をしてすまないな、実は今日……」

カタナが、私に説明しようとしてくれる。

待って! 私、二人にもう嘘をつきたくない!!

知ってるよ! 私……――っ。

とにかく何か声を出そうと、私が口を開いた途端、ガタガタガタッとアイテムバッグから大きな音がして、きなこもちが飛び出した。


「「「きなこもち!?」」」

三人の声が揃う。

きなこもちは私たちに背を向けたまま、草の上に座り込んでいる。


「なんで急に……」

「ここは人目につく、ケースにしまった方がいい」

「う、うん」


私がきなこもちを戻そうと手を伸ばした瞬間、ビシッと何かが弾けるような音がして、きなこもちのすべすべのボディに亀裂が入る。

「え……」

「何……!?」

「下がれ!!」

カタナの指示に、私とあゆは慌ててきなこもちから離れる。


「どういう事……?」

私の声は小さく震えていた。

「……まだ分からないが、良い兆しではなさそうだ」

カタナはいつもの声で、でもいつもよりもっと早口に答える。


「……きなこもち? どうしたの……?」

私の声に、きなこもちはゆっくりこちらを振り返る。

小さくてつぶらな瞳があったところが、片方剥げ落ちて、中から黒い何かが覗いていた。


「……っ!」

「まさか……、アレが出てくるのか……!?」

カタナの言葉に、私の脳裏にもあの黒いバグの姿が浮かぶ。

恐怖に、ぞくりと背が震える。

「GMに――っ、……いや、もう少し様子を見よう……」

カタナは、それでも慎重に言葉を紡いだ。


カタナも、あの炎に焼き尽くされたバグの姿を思い出したのかな。

私と同じように、きなこもちをそうしたくないと、思ってくれたんだろうか。


きなこもちは、戸惑うように体を震わせている。

「ぷぃ……ヴ、ル……ヴルルル……」

可愛く鳴こうとしたその声は、低く暗い唸り声に変わった。

ビシビシッと小さな亀裂がすべすべだったボディに走る。

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