第5話 いつもの学校で (7/8)
学校から帰ると、やはりクラスのグループ会話に通知が来ていた。
『びっくりしたよねー』
『うんうん(←スタンプ)』
『衝撃!(←スタンプ)』
『!?(←スタンプ)』
『あれって立ったまま寝ちゃったってこと?』
昼休みはクラスに居なかった子もいたので、会話の初めはほんの少し混乱していた。
一部始終を見ていた子が説明すると、皆が立ったまま寝ることの異常さを口にする。
私が頭を支えてた話も出てて、ちょっと恥ずかしくなったけど『すげーな』とか『マジで!?』というスタンプ程度でサラッと流されててホッとする。
会話があらかた落ち着いて、いつものゲームの話題に戻りかけていたところへ、写真が上がる。
冬馬くんが坂口くんを横向きに抱き上げて、心配そうに覗き込んでいるところだ。
冬馬くんは、撮らないでって言ってたのに。
こんな風に、ネットに上げないでって言ってたのに……。
誰が上げたんだろうと名前を見ればひまりで、私は頭を抱えた。
『眠れる森のなんとかみたいなやつ』
『うんうん(←スタンプ)』
『確かに(←スタンプ)』
『おい、冬馬が写真上げんなって言ってたろ』
あ。青木くんいい人。
ズッ友の方にも通知が入る。
玲菜が、ひまりにすぐ写真を消すように言ってるみたいだ。
その間もクラスのグループ会話は続く。
『絵になる』
『完全に冬馬くんが王子様じゃない?』
『素敵(←スタンプ)』
『BLwww』
『これだから萩原は……』
クラス委員の山本くんがひまりを名指しで窘める。
そうすると、途端に会話の流れが変わった。
『最低だな(←スタンプ)』
『酷い……(←スタンプ)』
『冬馬くんが、写真撮らないでって言ってたのにね』
とひまりを非難する声が続く。
どうやら、玲菜の忠告はちょっと遅かったみたいだ。
ひまり、どうするのかな……。
ハラハラしながら見ていると、ひまりが写真を削除した。
『テヘッ☆(←スタンプ)』
うわぁ……。
この反省の薄い感じが、まさにひまりだなぁと思う。
もしかしたらひまりは、自分の非を認めるのがすごく苦手なのかも知れないなぁ……。
それにしても酷いけど。と思いながら、ログを見守る。
『最悪(←スタンプ)』
と、ひとつスタンプが入ったあとは、誰も何も言わなくなった。
ズッ友グループの方では、ひまりが玲菜に叱られていた。
それを「まあまあ」とフォローに入ったアイカが、玲菜に「あんたも友達ならダメな事はダメだって教えてやりなよ」とまとめて叱られている。
『友達なら』かぁ……。
玲菜は私達の事、ちゃんと友達だと思ってくれてるんだ……。
嬉しいような、どこか申し訳ないような気持ちでその文字を見ていると、新しい言葉が届く。
『遥とみさきも、見てるなら何か言ったら?』
うっ。
玲菜はどうやら怒ってるみたいで、私もしっかり呼ばれてしまった。
なんて言えばいいかな……、なんて考えてるうちに、遥が先に文字を打つ。
『私は……、ひまりが反省してるなら、もういいかなって……』
『このひまりが、反省してるように見える?』
言われて、遥は黙ってしまった。
私はしばらく悩んでから、正直な気持ちをタップしてみる。
『私は……、ひまりのやったことはひどい事だと思うけど、それを玲菜みたいに教えてあげたいと思うほど、ひまりの事が大事じゃないんだと思う……。友達がいがなくて、ごめんね』
文章を三回読み返す。
これは、嘘じゃない、私の本当の気持ちだった。
『みさきは?』
と玲菜から催促の言葉が入る。
これを送信したら、もうこのグループには居られなくなるだろうな、と思う。
でもそれはもう、自分にとってあまり大事なことではなくなっていた。
私は、ほんの少しだけ指先を迷わせてから、送信ボタンを押した。
なんだかすごく、スッキリした気分だった。
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