第4話 白いウサミミ (5/5)
私のレベルが一つ上がったところで今日の狩りは終わりにして、ケーキの城で今日拾ったアイテムを売却してから買い物をする。
お菓子モチーフのアクセサリーはどれもすごく可愛くて、目移りしてしまう。
チョコのピアスもシックでおしゃれだし、こっちのドロップスのペンダントもカラフルで可愛い……。
覗き込むお店のショーウィンドウ……このガラスっぽいのも飴なんだろうな。それに、あゆがくれた白いウサミミが映って揺れている。
その度に、なんだか胸がぽかぽかした。
そういえば、カタナはきなこもちにメロメロだけど、きなこもちにもウサミミみたいな長い二本の耳が生えてるよね。
ああいうのが好きって事なのかな……?
私は敵の出てこない町マップで、ようやくきなこもちをケースから出す。
今日はログインしてすぐにご飯は食べさせておいたから、お腹ペコペコでもなければ不機嫌でもなかった。
「ぷいゆっ♪」
途端に、隣のお店を覗いていたあゆが水色の瞳をキラキラさせて駆け寄ってくる。
「わあー、フニルーってペットに出来るの?」
問われてドキッとする。
私はまだ、どうしてきなこもちが自分のペットになったのかわからないままだった。
「チュートリアルでもらったらしい」
カタナが後ろからやってきて答える。
そっか、カタナの中ではそうなってたんだよね。
「そうなの? でもボク街の中で他にフニルー連れてる人見た事ないよー? 期間限定のキャンペーンだったのかな?」
あゆが首を傾げる。
確かに私も、街に限らずどこでもきなこもちと同じ姿のペットは見たことがなかった。
「みさみさちゃんDtD始めたの最近なんだよね? フニルーがもらえるならボクも新キャラ作っちゃおっかなー。お買い物用に商人作りたかったし」
きなこもちに興味津々のあゆがそう言うと、カタナもなるほどという顔で言う。
「そうだな、それなら俺は剣士でも作ろうか。三人でレベル上げができるように」
「カタナ、フニルーが欲しいだけでしょ?」
あゆがそう言って見上げればカタナは腕を組んだまま目を閉じて頷いた。
「それも、もちろんある」
やっぱりあるんだ。
私が思わずふき出せば、二人も一緒に笑う。
「ぷいゆっ♪」
きなこもちも、どこか嬉しそうに鳴いていた。
***
『……タスケテ……』
……ああ、またこの夢だ。
いつもの、暗くて狭いところに閉じ込められている、何かの夢。
『……ココカラ、ダシテ……』
と小さくすがるような声に囁かれて、私は無力さに打ちひしがれる。
「っ、私も! 助けてあげたいとは思ってるの! でも、どうしたらいいの!?」
思わず叫べば、細い声が戻ってきた。
『カラヲ……コワシテ……』
「殻……?」
『ココロノ……カラ、ヲ……、……コワシテ……』
心の殻……?
胸の中で言葉にして、私はドキリとする。
まるで私自身が、心の殻に閉じこもっていると言われたようで。
自分が傷つかないように、自分を守るために、嘘で塗り固めた殻の中に閉じこもっている。
そんな自分の姿をイメージして、私はゾッとする。
今までずっと私は、あそこに閉じ込められているのは、自分以外の何かなんだと思っていた。
でも、そうじゃないかも知れない。
これは『閉じ込められている誰かを助けようとする夢』じゃなくて。
『私自身が閉じ込められているのを、もう一人の私が見ている、夢……?』
気付いた途端、暗闇に小さく光が差して、一瞬だけ卵のような丸い物の中身が見えた。
それは、私自身……。正確には私のDtDでの姿だった。
瞬間、世界がぐるりと反転する。
ざあっと肌に触れるほどの大きな流れが、私の意識をそこから引き離してゆく。
――……この夢は、DtDに繋がっている…………――??
遠ざかる視界の中で、卵のようなその丸っこい物体が一瞬だけフニルーに見えた気がした。
ハッと目が覚めた時、私は涙をこぼしていた。
スマホからは、いつものアラーム。
止めどなく溢れる涙は、一体何の涙なのか。
あの子をあそこから出してあげられない、自分への涙……?
それとも、今まで嘘をついてきた相手……、友達への懺悔の涙だろうか……。
パジャマの袖で、こしこしと目を擦る。
久しぶりに触れた自分の涙は、思ったよりも熱かった。




