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第2話 赤いリボン (4/9)

「……良かった。みさみささんが、想像してくれる人で」


そう言われて、私はまた聞き慣れない言い方に内心首を傾げる。

普通ならこういう時って何が入るかな。

「優しい人で」かなぁ?

優しい人って、人のこと思いやれる人って事だよね。

思いやるのって、相手の事を考えて想像する人って事だよね?

じゃあ別におかしくはないのかも。私が聞き慣れないだけで。


……ん?

「私のことも、みさみさって……。ううん、えっと、みさって呼んでくれたらいいよ」

私だけ呼び捨てで、カタナだけ『さん』付けが残ってるのおかしいよね?

「ああ、みさだけじゃ名前が取れなくて、ふたつになってるんだ?」

カタナに名前の理由を尋ねられて、私はずっしりと胸が重くなるのを感じる。

「……そういうわけじゃ……ないんだけど……」

「?」

カタナは頭の上に大きなハテナのマークを出した。

「その……ほら……みさみさってダサいでしょ? 名前変えようかなと思ってるんだけど……中々、思い浮かばなくて……」

私がしどろもどろ返事をすると、カタナは首を傾げてもう一度ハテナマークを出す。

「自分でつけたんじゃないのか?」

「そうなんだけど……。ずっと使ってる名前だから何も考えないでつけちゃっただけ」

「みさみさは、この名前気に入ってないのか?」

「えーと……。別に、気に入らないって事はないんだけど……」

じっとこちらの顔を覗き込むカタナの赤い瞳に耐えかねて、私は視線を足元に落とす。

「友達に……ダサいって言われちゃって……」

言葉は、終わりに近付くほど小さくなっていった。

カタナは、ほんの少し首を傾げた。

「人の感性なんて人それぞれだ。誰かがダサいと思ったものが、他の誰かにとって最高にクールなことだってある」

そ、そうかなぁ……。

「みさみさがその名を気に入ってないなら変えればいいし、気に入ってるならそのままでいいと俺は思う」

カタナは赤い瞳で真っ直ぐに私を見て、そう言った。


うーん、……そっか。

それだけのことだったんだね。


なんか、難しく考えすぎちゃってたのかも。

私は「みさみさ」って名前……、やっぱり、結構気に入ってるかな。

カタナにこんな風に呼ばれるのも、嬉しく感じるし。


「……あ。またやってしまったな」

カタナが、気まずそうに後頭部に手を回す。

「相談というのは聞くだけでいい場合がほとんどなんだと先生が言っていた。解決策を考えたり、それを伝える必要はないんだそうだ」


……そんな事を教えてくれる先生がいるんだ?

後から聞いた話では、カタナは療育機関というところで、そんな『ソーシャルスキル』という人との関わり方のコツを教えてもらったりしているらしい。


「俺が何か嫌な事をしたら、遠慮なく教えて欲しい」

カタナがしょんぼりと俯く。

「ううん。考えてもらえて嬉しかったよ。ありがとう!」

元気を出してほしくて、思わず語尾に力が入ってまう。

「そうか……よかった」

わずかにホッとした表情を見せたカタナが、ふと頭の上にハテナマークを出す。

「そういえば、今日はきなこもちは出さないのか?」


「えっと……それが、ログインした時には居なくて……」

「ああ、ケースに戻ってるんだろう。アイテム欄に入ってないか?」

言われて、慌ててアイテム欄を探す。あった!!

『きなこもちの飼育ケース』

私はそれをタップした。

ドーム状のケースがパカっと開くと、中からぴょんときなこもちが飛び出した。

「ぷいゆっ♪」

「良かったーっっ! きなこもちっっ、元気だった?」

思わずギュッと抱きしめれば、ぐぅぅとお腹をすかせたようなマークが出てくる。

あ、餌とかあるんだっけ。どうしよう。まだあげたことない……。

餌も無いのに出したら良くなかったかな。

「もしかして、これとか食べるんじゃないか?」

カタナはそう言うと、コロンとした小さな黄色い石を落とす。

きなこもちはそれを見て瞳を輝かせるが、食べには行かない。

「みさみさが拾って、それからペットのメニューから食べさせてやってくれ」

あ。そっか、そういうことね。

言われた通りにすれば、きなこもちは大喜びでそれを食べ始めた。

「ぷいゆっ、ぷいゆっ♪♪」

「食べてるね。良かったぁ……」

「ああ、可愛いな……」

私の手の上で小石をパクパク食べるきなこもちを、二人で覗き込む。

……ちょっと距離が……、近くない、かな……?

チラとカタナを盗み見れば、あまり変わらない表情だけど、それでも優しげに赤い瞳を少し細めてきなこもちを見つめていた。

「撫でてもいいか?」

「いいよ。断らなくても、いつでも撫でて」

私が答えれば「ありがとう」とカタナは優しい声で言った。

私は「きなこもちが嫌がらなければ」と続けようとしていたけれど、やめた。

カタナは、そんなことをしそうになかったから。

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