第2話 赤いリボン (3/9)
気付けば、足元には一面草原が広がっていて頭上にはたくさんの大きな大きなシャボン玉が浮かんでいた。
――ええと……?
もしかして、私はゲーム用のニックネームを考えながら眠ってしまったんだろうか。
そんなに遅い時間じゃなかったのに。
ご飯は済ませていたけど、歯磨きもお風呂もまだだったのに。
どうしたら目が覚めるかなと思った途端に、後ろから声をかけられた。
「みさみささん。良かった、会えて」
「あっ、カタナさんっ!」
私は慌てて振り返る。
「昨日は途中で落ちちゃって(?)ごめんなさいっっ!!」
落ちちゃったのかどうかわからないけど、私はとにかく謝った。
カタナさんはちょっとだけびっくりしたように黒髪を揺らしてから、赤い瞳を少しだけ緩めて答える。
「いや、気にしてない。みさみささんこそ突然の事でびっくりしただろう。怖い思いをさせてしまって、すまなかった」
悪くないのに謝るカタナさんが、なんだかさっきの冬馬くんに重なって、私は思わず声が大きくなってしまう。
「カタナさんが謝る事ないですよっっ!」
カタナさんが目を丸くする。
一瞬の表情だったけど、何だか子供みたいで可愛かった。
「……俺のことは、カタナでいい」
私から目を逸らして、ちょっと恥ずかしそうに言われて、それが呼び捨てで良いと言われているのだと理解する。
「俺はそんな大人じゃない。いや子供だと言った方がいいか。みさみささんの方がずっと大人かも知れない」
「私はまだ中学生だから、カタナさんよりきっと子供ですよ」
「そうなのか? 俺も中学生だよ。同じだな」
言われて、驚く気持ちとやっぱりと思う気持ちが混じり合う。
時々感じていた子供っぽさは、本当に私と同じくらいの歳だったからなんだ。
『同じだな』と言った優しい声が胸に広がって、不思議なくらい嬉しい。
「ど、どこに住んでるんですか?」
「関東だよ。同じくらいだと分かったんだから、もう敬語はいいだろう」
「わ、私も関東ですっっ、あ。ええと……でも先輩だったら悪いし……」
カタナさんは困ったように苦笑して、渋々学年を答えた。
「中二だよ」
「一緒だ……」
カタナさん……ううん、カタナは同い年だったんだ。
「でも、ネットではあまりそういう歳とか学校の話はしない方がいい。身バレすると危ないから。住んでる場所の話もここまでにしておこう」
「う、うん」
私は慌ててコクコクと頷く。
カタナは私のこと心配してくれてるんだ。
そう思うと、すごく嬉しい。
けれど、カタナはどこか悲しげに俯いて呟いた。
「ああ……。でもそんなの、俺が言うことじゃなかったんだろうな……」
「え……?」
「いや、何でもない」
私の言葉に首を振って答えたカタナが、ためらうようにもう一度マスクの下の口を開く。
「その……口うるさい事を言ってしまって、すまないな」
「そんな事ない! 私のこと心配して言ってくれたの、ちゃんと分かるよ。私、嬉しかった……から……」
言ってしまってから『しまった』と思った。
なんだかこれじゃあ、私がカタナのこと好きみたいに、聞こえない……かなぁ?
焦る私に気付く様子もないまま、カタナは小さく笑った。