第92話 宴席から決闘へ
大歓待である。
ここは凍土の王国は、王の館前の広場。
肉、肉、肉、肉、酒、酒、酒、酒、果実、果実、果実、果実。
並んだものはこの三種類。
果実の種類はあるけどさ。
穀物とかは無いのか。無いんだな、うん。
「皆よ!! 我が愛娘、ルミイが無事に帰ってきた! 我らが取り返そうと暴れていたら、不思議な助けが娘を連れてきたというわけだ! これも全て、蛮神バルガイヤーの加護だろう! ルミイの無事と、バルガイヤーのご加護に乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」」」
「俺のおかげではないか」
うわーっと盛り上がっているところに、ジャストタイミングで俺が水を差した。
バカでかい陶製ジョッキを掲げていたルミイパパが、笑った顔のまま動かなくなる。
バーバリアンたちも、止まっている。
「全部俺が頑張った! よくやった俺! ということで、俺に乾杯!」
「かんぱーい!」
「乾杯なのだー!」
「マスター、本当に凄まじい度胸してますよねえ。あ、乾杯です」
「乾杯よ」
なんかエルフのすっごい美女が加わってきて、五人で乾杯した。
誰だろう……。
「ママです!」
「あー、ルミイのママかあ」
「ハイエルフの戦士、ルリファレラよ。よろしくね、お婿さん」
「お婿さん!! うへへ、こちらこそよろしくお願いします」
俺はニヤニヤしながら、ルリファレラさんとジョッキをぶつけあった。
このルミイママがもう、とんでもない美女なのだ。
胸とかルミイほどではないがでかいし、腰はキュッと細くて、お尻がドンと出てて、手足がスラリと長くて、プラチナブロンドの髪がキラキラ輝いている。
なるほどなあ。
バルクが惚れるのも分かる。
「おいお前」
そこにヌッと影が差した。
「あ、パパ!」
「あら、あなた」
「うむ、俺だぞー」
怖い顔してたバルクが、一瞬でデレっとした。
娘と嫁さんに凄く弱いんだな。
溺愛しとる。
俺はこいつ嫌いじゃないな。
「いやいや、お前だお前。マナビという男。お前だ。何をしたか分かっているのか? お前は俺と、蛮神バルガイヤーの顔を潰したのだ。これはどういうことか分かるか」
「血で贖えというやつか。良かろう、決闘だ」
俺はまだるっこしいのが嫌いである。
相手を嵌める策でも無い限り、悠長なことをしないのだ。
なので直球で答えたら、バルクが会話の速度についていけなかったようで、
「これは血で贖わねばならん。つまり決闘……え? やるのか。やる気なのか」
「肉と果物ばかりで食べ物が重いからな……。ちょっとお腹をすかせるためにも決闘は積極的にやるぞ。誰がやるの?」
俺は立ち上がった。
この姿が大変に不敵に見えたらしく、バーバリアンたちから凄いブーイングが上がった。
おうおう、姫を救い出してきた恩人に向かって素晴らしい態度だ。
「なんか生意気なのだ! カオルンが一掃してやってもいいのだ!」
「まあまあカオルン。こいつらはこう、判断基準が力なんだ。力を見せないと納得しないタイプなんで、ある意味分かりやすいんだぞ。カオルンが出たらジェノサイドになってしまうので、ここは穏やかな力を持つ俺に任せ給え」
「マスターが穏やかかどうかは置いておいて、確かに彼らはマスターを舐めています。魔力も闘気もなく、見た目もムキムキではなくて背も高くありませんからね」
そう。
俺は外見的に、舐められる要素しかない。
そして内側から湧き出すような何かすごいパワーもないのだ。
俺の力は、もっと理解しがたい妙ちくりんなものだからな。
「良かろう! 決闘をするというのならば、お前は勇者だ! 我が勇敢なる戦士たちよ! この勇者と決闘をし、勇者の力を示す壁となる者はいるか!!」
バルクが吠えると、宴席のバーバリアンたちがうおおーっと叫んだ。
男たちが次々立ち上がり、俺だ俺だと叫ぶ。
で、これに加わらないバーバリアン男子が二人いて、バルクの横でうんうん頷きながら酒を飲んでいる。
彼らはルミイの二人の兄らしい。
エルフの血が混じっているので、知的な美形だな。体はムキムキマッチョだが。
「兄さんたちはですねー。闘気と魔力をミックスして使えるのですっごく強いんです」
「ハイブリッドなのか。それは凄いなあ」
ルミイと呑気に会話していたら、バーバリアンたちの中から、一人の巨漢が躍り出た。
「ウオオオオーッ!! オレだあ! このオレがやるぞお!! 鉄腕のガガン様がこの力を示してやるぜえええええ!!」
「あ、ガガンです! 懐かしいですー」
なんか下腕が肥大した一際大柄なバーバリアンだが、ルミイはよく知っているらしい。
顔見知りというレベルではない?
ルミイが手を振ったら、ガガンも嬉しそうな顔になって手を振り返した。かわいいやつだな。
「彼、幼なじみなんですよー。わたしより三つ年上で、何回もわたしに求婚してきたんです」
「なるほどー」
ずっと狙ってた幼なじみの美少女が、いきなりナヨナヨしたよく分からん男を連れてきたと。
そりゃあいきり立つわな。
ガガン、すぐにキリッとした表情に戻ってから、バルクに向かって叫んだ。
「王よ! オレはこの男と戦う! そして男に勝った後、ルミイと結婚を望む全ての男と戦う! そして勝つ! オレが全て倒したら、オレとルミイの結婚を認めてくれ!」
「いいだろう!」
バーバリアン王バルクが頷いた。
おお、分かりやすい!
力の論理が支配する、バーバリアンの王国!
本格的だなあ。
こいつら、嫌いじゃない。
「あーあ」
「ガガンも可哀想に。これは相手が悪い」
ルミイの兄たちが、そんな事を言いながら笑っている。
俺に目配せしてきた。
「精霊がざわめいている。君の近くにはいたくないようだ。だが、ルミイが纏う精霊たちは君を好いている。精霊に愛される人間は希少だ。精霊に嫌われながら、精霊に愛される人間はもっと希少だ」
「何より、バーバリアンたちが君に戦意をむき出しにする中、それを気にせずいられるのはバカか豪傑のどちらかだ。バカはこの世界で生き残れない。君は類まれなる豪傑だろう。手加減してやってくれ」
「兄さんたち、とっても頭がいいんですよ」
「ほんとだ。分かった分かった。加減して相手する」
俺の言葉を聞いて、ガガンが激高した。
「なんだとーっ!! オレを舐めるな、モヤシがーっ!! 一瞬で捻り潰してやる!」
ガガンの肥大化した下腕が真っ赤になる。
血が集まってるんだな。
まるで赤熱した鉄みたいな質感になった。
「お前やお前らだって、俺を舐めてるだろ。いいぞいいぞ。俺を舐めたヤツはな、一人残らず地獄のような目に遭った。大いに舐めてくれ。そして後悔した時にはもう遅い」
俺はニヤニヤ笑ってみせる。
上から目線の連中を粉砕するときは、いつも楽しい。
「さあ来い。まとめてでもいいぞ。遊んでやろう」
チュートリアルスタートだ。
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