表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/196

第9話 膝枕とは極楽な

 さて、道行く途中で、俺は力尽きてぶっ倒れたようだ。

 よくよく考えれば、現代人であり、運動がそこまで得意なわけでもない俺が、連続する緊張感の中で罠の突破とモンスターの撃破なんかをやったわけで。

 これはどうやら、かなりのストレスだったようだ。


 どこまで行っても荒野なんだもんな。

 この世界、塔の外側がヤバいでしょ。


 ついに俺は歩き疲れてぶっ倒れ、なんか自宅でポチポチとスマホゲーをしている夢を見た……気がする。

 枕が大変弾力があり、ほんのり温かくていつまでも頭を載せていたい……。


「……はっ!」


 俺は覚醒した。


「あっ、ようやく目覚めました!」


 目の前には、俺を覗き込んでいる女の子の顔がある。

 これは大変カワイイ。


「突然倒れて、これは死んじゃった!? と思ったら、ぐうぐう寝てるんですもん。マナビさんって結構疲れやすかったりするんです?」


「あ、あー、ルミイか! あれ、なんで俺はルミイの顔を見上げてるの?」


「そりゃあもちろん、わたしが膝枕してあげているからです。パパにも褒められるんですよー。筋肉と脂肪がすごくバランスがよくて寝心地がいいって! でも、わたしが膝枕してると、ママが走ってきてパパを蹴っ飛ばすんですよねー」


「いきなりルミイの家庭の情報が流れ込んできた……! というか、これ、膝枕? ルミイの? うおおお」


 俺は興奮した。

 生まれて初めて、女の子に膝枕をされている。

 これは凄いことではないだろうか?


 ルミイの顔から視線を外せば、空は夕暮れ。

 周囲は荒野。


 滅びの塔の姿はどこにも見えない。

 かなりの距離を歩いてきたのだ。


 どれだけの間、ルミイに膝枕してもらったんだろうと考える。

 太陽が二つとも傾きかけているので、そろそろ夕方……。


「太陽が二つ!?」


 俺は慌てて起き上がった。

 空を確認する。

 オレンジ色の太陽と、青白い太陽が一つずつ。


「確かに二つある……」


「青い方は魔力の星エーテリアですね。大昔、魔法皇帝と呼ばれた凄い魔法使いが、世界の外の魔力を集めて空に浮かべたんです。あれが魔法使いたちに無尽蔵の魔力を提供するとか言ってて、それで魔法使いは世界を支配しました」


「魔力を星に……! とんでもないことをするもんだ」


「はい! でも、ママが小さい頃よりも、星はずいぶん暗くなったって言ってます。だから魔法帝国たちはみんな慌てて、どうにかしようとしてるんだって」


「ほうほう……。この世界、今まさに異変が起こっているんだな。どれ、ヘルプ機能!」


 俺は力を使い、エーテリアを指さした。


『魔力集積・供給装置エーテリアです。千年以上に渡る運用で、その機能に障害が生じています。具体的には、あと三年で機能停止、落下します』


「うおお」


 凄い事実が判明してしまった。

 いきなり吠えた俺に、ルミイがきょとんとする。


「あ、でもマナビさんですし、何をしてもおかしくないですもんね」


「俺に対する理解度が凄く深くなってる。出会ったばかりなのに」


 理解のある女子は存在したのである。

 いきなり召喚された異世界だが、俺はここでもルミイさえいればやっていけるかも知れない。


「よしっ」


 俺は立ち上がった。


「まずは、今夜寝られる場所を探そう。それからルミイの故郷まで行こう」


「えっ! わたしを送ってくれるんですか!」


「ああ。ルミイはここまでさらわれて来たんだろう? だったら、俺がこの力で助けてあげるよ。膝枕のお礼だ」


「うわーっ! ありがとうございますーっ!!」


「うおおお!! だ、抱きついてきた! 圧倒的柔らかさと暖かさ! 世界にはこんな素晴らしいものが存在していたのか……!!」


 俺のモチベーションはマックスだ。

 今なら世界を敵に回しても戦えそうな気がする。


 いや、実際、世界の一角であるワンザブロー帝国を敵に回しているわけなんだが。


 いきなり処刑装置みたいな塔に送り込まれれば、敵に回すのも当然と言えるだろう。


「ル、ルミイ。とても名残惜しいが、今夜の宿泊先を探そう」


「あっ、そうですね!」


 パッと離れるルミイ。

 おお、あの柔らかさが名残惜しい……。


「ヘルプ機能」


『魔法探知遮断処理を行った集落がここに存在します』



 俺の視界に矢印が現れた。

 それが、一見して何もない荒野の一角を指し示す。


「こっちか」


「こっち? 何もないみたいです?」


「ああ、そういう風に見えるかもしれないけど、魔法探知を遮断してあるそうだ」


「ああー。探知魔法は穴があるって聞きますからねえ。精霊魔法なら、精霊にお願いして直接見てもらえるのに……。あれあれ? どうしてわたしにも見えないんだろう」


 首をひねるルミイを連れて、俺は矢印の場所へ。

 一歩踏み出すと、風景が変わった。


 そこは、石と金属で作られた人工の空間だった。


 すぐ横に男が立っていて、呆然と俺たちを見つめている。


「ヘルプ機能。どうしてルミイに分からなかったんだ?」


『魔法探知遮断と、視覚をごまかす魔法が同時に掛かっていました。この種の魔法としては最大規模です。これよりも大きな規模の範囲への行使は不可能でしょう』



 空間を見回す。

 広さは、小学校の体育館くらい。


 なるほど、大きな町なんかはこの魔法で隠すことができないわけか。


「なんだ、お前たちは!」


 呆然としていた男が、慌てて武器を取り出した。

 槍かな?


「待て。俺たちは敵ではない。ワンザブロー帝国に滅びの塔へ投げ込まれたので、塔をぶっ壊して出てきたところなんだ」


「敵ではないと言われて、誰が信用を……って、滅びの塔を!? ぶっ壊した!? ハア!?」


 声が大きい。

 だが、男の叫び声はこの空間中に聞こえたようだ。


 あちこちにある建物から、人間や人間じゃないのや、男や女が顔を出す。


「た、確かに滅びの塔が崩壊していた! あれはエーテリアからの魔力供給が絶たれたせいじゃないのか!?」


「人為的に破壊しただと!? あの強固な守りを誇る塔を!?」


「大型弩弓でも傷一つつかなかったのに!」


「内側から圧倒的な力で壊しでもしないと、不可能だ!」


 おお、たくさん出てきた!

 彼らは皆、一見して一般人ではなかった。

 武装をしており、目つきは鋭い。


「あんたたちは?」


「我々はワンザブロー帝国レジスタンス。魔法使いたちによる世界の支配を止めるため、立ち上がった有志だ!」


 今夜の宿は確保できそうだと、俺は思った。

面白い!

先が読みたい!

など思っていただけましたら、下にある☆を増やしたりして応援してくださいますと、作者が大変喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さっそく始まってた!
[気になる点] ウホッ! 世界崩壊まで3年だと!? [一言] 今作もすごいテンポになりそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ