第9話 膝枕とは極楽な
さて、道行く途中で、俺は力尽きてぶっ倒れたようだ。
よくよく考えれば、現代人であり、運動がそこまで得意なわけでもない俺が、連続する緊張感の中で罠の突破とモンスターの撃破なんかをやったわけで。
これはどうやら、かなりのストレスだったようだ。
どこまで行っても荒野なんだもんな。
この世界、塔の外側がヤバいでしょ。
ついに俺は歩き疲れてぶっ倒れ、なんか自宅でポチポチとスマホゲーをしている夢を見た……気がする。
枕が大変弾力があり、ほんのり温かくていつまでも頭を載せていたい……。
「……はっ!」
俺は覚醒した。
「あっ、ようやく目覚めました!」
目の前には、俺を覗き込んでいる女の子の顔がある。
これは大変カワイイ。
「突然倒れて、これは死んじゃった!? と思ったら、ぐうぐう寝てるんですもん。マナビさんって結構疲れやすかったりするんです?」
「あ、あー、ルミイか! あれ、なんで俺はルミイの顔を見上げてるの?」
「そりゃあもちろん、わたしが膝枕してあげているからです。パパにも褒められるんですよー。筋肉と脂肪がすごくバランスがよくて寝心地がいいって! でも、わたしが膝枕してると、ママが走ってきてパパを蹴っ飛ばすんですよねー」
「いきなりルミイの家庭の情報が流れ込んできた……! というか、これ、膝枕? ルミイの? うおおお」
俺は興奮した。
生まれて初めて、女の子に膝枕をされている。
これは凄いことではないだろうか?
ルミイの顔から視線を外せば、空は夕暮れ。
周囲は荒野。
滅びの塔の姿はどこにも見えない。
かなりの距離を歩いてきたのだ。
どれだけの間、ルミイに膝枕してもらったんだろうと考える。
太陽が二つとも傾きかけているので、そろそろ夕方……。
「太陽が二つ!?」
俺は慌てて起き上がった。
空を確認する。
オレンジ色の太陽と、青白い太陽が一つずつ。
「確かに二つある……」
「青い方は魔力の星エーテリアですね。大昔、魔法皇帝と呼ばれた凄い魔法使いが、世界の外の魔力を集めて空に浮かべたんです。あれが魔法使いたちに無尽蔵の魔力を提供するとか言ってて、それで魔法使いは世界を支配しました」
「魔力を星に……! とんでもないことをするもんだ」
「はい! でも、ママが小さい頃よりも、星はずいぶん暗くなったって言ってます。だから魔法帝国たちはみんな慌てて、どうにかしようとしてるんだって」
「ほうほう……。この世界、今まさに異変が起こっているんだな。どれ、ヘルプ機能!」
俺は力を使い、エーテリアを指さした。
『魔力集積・供給装置エーテリアです。千年以上に渡る運用で、その機能に障害が生じています。具体的には、あと三年で機能停止、落下します』
「うおお」
凄い事実が判明してしまった。
いきなり吠えた俺に、ルミイがきょとんとする。
「あ、でもマナビさんですし、何をしてもおかしくないですもんね」
「俺に対する理解度が凄く深くなってる。出会ったばかりなのに」
理解のある女子は存在したのである。
いきなり召喚された異世界だが、俺はここでもルミイさえいればやっていけるかも知れない。
「よしっ」
俺は立ち上がった。
「まずは、今夜寝られる場所を探そう。それからルミイの故郷まで行こう」
「えっ! わたしを送ってくれるんですか!」
「ああ。ルミイはここまでさらわれて来たんだろう? だったら、俺がこの力で助けてあげるよ。膝枕のお礼だ」
「うわーっ! ありがとうございますーっ!!」
「うおおお!! だ、抱きついてきた! 圧倒的柔らかさと暖かさ! 世界にはこんな素晴らしいものが存在していたのか……!!」
俺のモチベーションはマックスだ。
今なら世界を敵に回しても戦えそうな気がする。
いや、実際、世界の一角であるワンザブロー帝国を敵に回しているわけなんだが。
いきなり処刑装置みたいな塔に送り込まれれば、敵に回すのも当然と言えるだろう。
「ル、ルミイ。とても名残惜しいが、今夜の宿泊先を探そう」
「あっ、そうですね!」
パッと離れるルミイ。
おお、あの柔らかさが名残惜しい……。
「ヘルプ機能」
『魔法探知遮断処理を行った集落がここに存在します』
俺の視界に矢印が現れた。
それが、一見して何もない荒野の一角を指し示す。
「こっちか」
「こっち? 何もないみたいです?」
「ああ、そういう風に見えるかもしれないけど、魔法探知を遮断してあるそうだ」
「ああー。探知魔法は穴があるって聞きますからねえ。精霊魔法なら、精霊にお願いして直接見てもらえるのに……。あれあれ? どうしてわたしにも見えないんだろう」
首をひねるルミイを連れて、俺は矢印の場所へ。
一歩踏み出すと、風景が変わった。
そこは、石と金属で作られた人工の空間だった。
すぐ横に男が立っていて、呆然と俺たちを見つめている。
「ヘルプ機能。どうしてルミイに分からなかったんだ?」
『魔法探知遮断と、視覚をごまかす魔法が同時に掛かっていました。この種の魔法としては最大規模です。これよりも大きな規模の範囲への行使は不可能でしょう』
空間を見回す。
広さは、小学校の体育館くらい。
なるほど、大きな町なんかはこの魔法で隠すことができないわけか。
「なんだ、お前たちは!」
呆然としていた男が、慌てて武器を取り出した。
槍かな?
「待て。俺たちは敵ではない。ワンザブロー帝国に滅びの塔へ投げ込まれたので、塔をぶっ壊して出てきたところなんだ」
「敵ではないと言われて、誰が信用を……って、滅びの塔を!? ぶっ壊した!? ハア!?」
声が大きい。
だが、男の叫び声はこの空間中に聞こえたようだ。
あちこちにある建物から、人間や人間じゃないのや、男や女が顔を出す。
「た、確かに滅びの塔が崩壊していた! あれはエーテリアからの魔力供給が絶たれたせいじゃないのか!?」
「人為的に破壊しただと!? あの強固な守りを誇る塔を!?」
「大型弩弓でも傷一つつかなかったのに!」
「内側から圧倒的な力で壊しでもしないと、不可能だ!」
おお、たくさん出てきた!
彼らは皆、一見して一般人ではなかった。
武装をしており、目つきは鋭い。
「あんたたちは?」
「我々はワンザブロー帝国レジスタンス。魔法使いたちによる世界の支配を止めるため、立ち上がった有志だ!」
今夜の宿は確保できそうだと、俺は思った。
面白い!
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