第85話 眷属召喚とハーレムの野望
「ルミイ、なんであんなリップサービスを……」
「マナビさんが喜ぶかと思いました! なんか世の中が色々ぐちゃぐちゃになるの楽しんでたりするじゃないですか」
「それは確かにそう」
これで革命じみた動きになり、打倒シクスゼクスまで事態が発展すると、これはこれで楽しいもんな。
ルミイ、そこまで俺の好みを読んで……?
「これはかなり好感度が上がっていますね。ルミイがこういう方向の感情は未経験なので上手く表せていないだけです」
「な、なにっ、そうなのかアカネル!!」
俺のテンションが上がってきた。
これはつまり、ついにルミイルートに突入したということではないか。
エンディングでは一線超えて、そこからのスタートはゲームジャンルを変えちゃうぞ。明るい家族計画だ。最低でも野球のナインができるくらい作ろうね。
俺が妄想を逞しくしていると、空を飛んで周回していたカオルンが何か見つけたようだ。
「キャンプが見えたのだ! そこから魔族がわらわら湧いてきたのだー!」
キャンプ方面から、ゴブリンっぽいのやら、オーガっぽいのやら、魔族が大量にやってくる。
全力で迎撃してくる態勢だ。
「おう、決戦だな。おーい、アビサルワンズの諸君!! 武器は持ったか! なに、手ぶら!? 何でもいいから武器を持てー!! あと、オクタゴンから習った秘術とか無いのか!」
魔族対策は、アビサルワンズに任せるしかない。
俺は大軍を相手にするのは苦手だからな。
何か無いのと尋ねたら、何人かのアビサルワンズが挙手した。
「生贄があれば上位眷属を召喚できる」
「生贄がないと我らの誰かを生贄にする」
「ほうほう。じゃあ魔族をちょっと狩ってきて生贄にしないとな。身内の被害は抑えるべきだ」
俺の言葉に、アビサルワンズ諸氏が首を傾げた。
「勝利のために仲間を生贄にする。何もおかしくない」
「その生贄にされた仲間が、もしかしたら将来たくさん子どもを作るかもしれないだろ。それにすごい活躍をするかもしれないし、あとは今まで隣にいたやつが永遠にいなくなるのはちょっぴり寂しいだろ」
俺の言葉を聞いて、アビサルワンズがどよめいた。
「オー」
「その発想はなかった」
「確かに一人いなくなると役割分担がちょっと困る」
アビサルワンズは社会性動物みたいな連中なのだな。
だが、ちょっと人間に近いぶん、話が通じそうだ。
結局、カオルンがちょっと先行し、魔族を一匹捕まえてくる事になった。
街の入口あたりで、ギャアギャアと魔族が叫ぶ声がして、ゴブリンをぶら下げたカオルンが戻ってきた。
「捕まえてきたのだ! そっちに放り投げるのだー!」
アビサルワンズが、うわーっと組体操みたいになり、放り投げられるゴブリンをキャッチする。
そして儀式が始まるのだ。
周囲の家々から禍々しい燭台が持ち出されてくる。
どこでも儀式ができるよう、準備されてるんだな。
バーガーショップのソファの下から生贄の台座が出てきたときは笑いそうになった。
どんどこどんどこと儀式が進められる。
ディゴ老人がやって来て、俺に説明をしてくれた。
「我々アビサルワンズは、テトラゴンと呼ばれる最下位の眷属です。他の眷属は徐々に足が増え、ペンタゴン、ヘキサゴン、ヘプタゴンとなります」
「じゃあこれで召喚するのは」
「オクタゴン様の足元なのです。最強最大の眷属、ヘプタゴンが召喚されます」
「おー」
俺が感嘆の意を表明していると、隣に並んだルミイがにっこりした。
「楽しみですね!」
俺たちが見守る中、背後がわあわあと騒がしくなる。
魔族の軍勢が迫っているのだ。
だが、こちらの儀式も急ピッチで進んでいる。
とにかく、オクタゴンの足元というのが強い。
どうやら、邪神が封印されていた頃はまともに儀式ができなかったのだが、俺が無限回廊のジュリアスとやり合ってから封印が緩んでいるそうなのだ。
オクタゴンの魔力が大量に流れ出してきているようで、これが儀式を加速させていた。
空間にメリメリと音を立てて穴が空き、そこから巨大な腕が飛び出してくる。
腕は周囲の空間を掴み、さらに引き裂きながらその全身をあらわにする。
出現したのは、四本腕の半魚人だ。
二本の足があり、さらに尾びれがビッタンビッタンと地面を叩いている。
ヘプタゴンが『キョエーッ』と咆哮をあげた。
「あー、見てるとなんだかクラクラしてきますね!」
「うっぷ、カオルンはちょっと気持ち悪くなるのだ」
「周囲にいる者を狂気に陥らせる力を持っていますね。ヘルプ機能によると、魂のランクがルミイとカオルンと同クラスです」
「なるほど、それで二人ともまだ平気なのか」
ヘプタゴンは、虚空から二振りの三叉槍を呼び出すと、魔族の軍勢目掛けて走り出した。
その後に、アビサルワンズが続く。みんな、ピザ生地を伸ばす棒とか振り回してるぞ。
戦闘開始だ!
で、その横をするりと抜けていく俺たちなのだ。
「ちょっと待ってろカオルン。今活躍させてやるからな」
「なんかマナビにすごく気を使われてる気がするのだ……」
「そりゃあそうだ。俺はカオルンにも下心を持っているからな。ここでポイントを稼いでおいて、ハーレムルートへのフラグをこうして立てている」
「何を言っているのだ……?」
「マスター、そういうの自分で言ったらいけないと思います。……もしや当機能をもハーレムに……? まさか、当機能は機械なのでありえません」
「そんなあちこちふわふわ柔らかい機械があるか。もちろんアカネルもハーレムに加える」
このようなやり取りをしつつ、魔族の軍勢を迂回しながらキャンプへ到着した。
ヘプタゴンが暴れてくれるお陰で、魔族の目はあちらに釘付けだ。
それに、あいつが撒き散らす狂気で、魔族連中は正気を保っていられない。
目を血走らせ、口から泡を吹きながら戦うことしかできなくなっているのである。
なお、魂のランクみたいなのが低いゴブリンとか低位の魔族はみんな失神していた。
強いなあ、オクタゴンの眷属。
で、キャンプのテントを一つ一つ覗いていくのだ。
魔族は総出になっているな。
「きゃっ」
「おっと、魔族の女子たちがあられもない格好で。そういうところでしたか」
ここはスルーした。
目の保養になった。
「明らかに目的地はあちらだと思うんですが、マスター。今、わざとそれっぽいテント覗きましたね」
「アカネルは常に勘が鋭いなあ。そういうところも嫌いじゃない」
そしてさらに先。
一番立派なテント。
そこでは今まさに、無限回廊のジュリアスが震える手でコーラを飲んでいるところだった。
「カオルン」
「分かったのだ!」
カオルンがいきなり最高速度で動く。
彼女の本気は、常人に一切の反応を許さないほどだ。
ジュリアスは驚愕し、コーラを口に含みながら慌てて無限を張り直す……。
遅かった。
既にカオルンが、ジュリアスの背後に立っている。
ジュリアスの顔に、縦一文字の赤い線が走った。
全身が左右に分かたれ、真っ二つになって倒れる。
「ほい、これで無限回廊のジュリアス攻略完了。物を飲み食いする瞬間は能力を解除しないといけないんだもんなあ。致命的でしょ」
遠くで、凄まじい鳴動が起こった。
オクタゴンが戻ってきたのだろう。
面白い!
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