第84話 英雄?と聖戦?
「くそっ! 吹っ飛べ!」
ジュリアスが地面に向かって手を振り、ぴょーんと遠くに移動した。
無限の距離を自分と地面の間に作ったな。
俺ならそれを破壊できるが、これは多分時間稼ぎだろう。
彼はバーガーショップを飛び出し、必死という感じで逃げ出す。
「逃げてしまいましたねー」
「追いかけるのだ! カオルンもやってやるのだー!」
「おう。カオルンが重要だぞ。見てみろ、あいつはハンバーガーを持ち帰りで用意もさせてたらしい。これは死亡フラグだ」
「フラグなのだ?」
「あいつがハンバーガーを食ったりコーラを飲んだ瞬間、能力が解除される。そこを倒す。じゃあ追跡開始だ。アカネル、ヘルプ機能から街のマップ出しておいて! ジュリアスの移動は光の点で表現してもらえると」
「了解しました。表示します」
俺たちの頭上に、街のマップの拡大図が現れる。
ジュリアスは能力を利用してか、建物と建物の間を猛烈な速度で移動している、
道なんか関係なしだ。
「これはもしかすると……」
「はい。結界を操る異世界召喚者の元に向かっています。結界を守りに使うつもりでしょう」
「結界も無限も同じやり方で破れる気がするんだよなあ。焦る必要はないや、ゆっくり向かおう」
俺たちはのんびりとハンバーガーやピザやタコスを食い、外に出た。
バーガーショップだが、ザ・アメリカンファーストフードみたいなメニューが何でもあるな!
また来よう。
アビサルワンズが集まり、わあわあ言っている。
「異世界召喚者が逃げていった」
「何が起こったんだ」
「オクタゴン様の身に何か」
無表情で言葉にも抑揚がないが、俺は彼らの感情が豊かであることをすでに知っている。
「安心しろ。俺たちが今からオクタゴンを解放する。異世界召喚者は今日中にぶっ倒すぞ。なにせ、俺もオクタゴンと同じように異世界召喚者なのだ。しかもお前らが作る食べ物や文化や水着を愛している。こんな素晴らしいものを作ったオクタゴンを俺は助けたい」
「「「「「「オー」」」」」」
アビサルワンズがどよめき、俺に向かって一斉にひれ伏した。
「どうか、オクタゴン様を救って下さい」
「任せろ」
ということで、人々の願いを受け、俺は出発するのだ。
「マナビさんマナビさん! あんな風に周りからお願いされて頑張るの初めてじゃないですか? わたしたち、いつもは勝手に襲いかかって敵を倒してますもんねえ」
「ハハハ、俺たちの人徳みたいなものに世界が気付いたんだな」
「そうなのだ? マナビはいつもと何も変わってないのだ」
「世界の側が優しければ、それに接するマスターも優しくなりますからね。マスターは世間の姿を映し出して百倍返ししてくる鏡です」
「うわーっ、いやな鏡ですねえ!」
百倍返しってなんだ。
そしてなんて顔するんだルミイ。
俺たちが進んでいくと、アビサルワンズの諸氏もあとについてくる。
道を行き、通りを曲がり、どんどん進む。
進む度に、アビサルワンズが合流する。
どんどん増えていくぞ。
「こりゃあなんか、革命を先導する英雄みたいだぞ」
「そのままその通りだと思われます。シクスゼクスによって指導者を幽閉され、支配されてしまったイースマスにおいて、マスターはまさしく解放者、英雄でしょう」
「褒めてくれるじゃん……!」
「マスターは破壊者とか扇動者である場合がほとんどですが、そんな人でもたまには英雄になるものなんですね。世の中は面白いです」
「褒めてないじゃん……!」
ルミイが途中、何かを思いついたようだ。
「カオルン! 空を飛びながらわたしを抱き上げて下さい! えっと、あの辺りを飛びながら、アビサルワンズの皆さんに見えるように」
「お? 分かったのだー!」
光の翼が展開され、ルミイを抱えたまま飛び上がるカオルン。
魔力を解放すると怪力になるカオルン。
むちむちしたルミイだって軽々持ち上げちゃうぞ。
「マナビさんがシツレイな事を考えた気がします!」
「心を読むな」
「じゃあ行きますよー! みなさーん!!」
ルミイが叫んだ。
アビサルワンズが、顔を上げる。
「オクタゴンさんを助けたいですかー!!」
「お……」
いきなりぶち上げるやつがあるか。
アビサルワンズがみんな困ってるじゃん。
「オクタゴンさんを助けたいですかー!!!」
強引に力でぶち抜くつもりか!!
「「「「「「お、おおーっ!!」」」」」」
繰り返されると流石に理解できたようで、アビサルワンズが抑揚のない声で叫んだ。
「うんうん、いいお返事です! これからみんなで、オクタゴンさんを助けましょう! えっと、それから」
演説してるのに、えっと、とか言うな。
ルミイはちらっと俺を見て、何か思いついたようだ。
「シクスゼクス帝国はこんな感じで悪いことをしてくるので、オクタゴンさんを開放したら帝国をやっつけちゃいましょう!!」
「「「「「「お……おおーっ!!」」」」」」
何を言っているのだ。
なんか妙な方向に盛り上がってしまっているではないか。
俺はそんな大きな事をしなくても、女子三人が可愛くてエッチな水着を着てくれるだけでいいのだ……。
だが、そんな俺の思いをよそに、アビサルワンズは大盛りあがり。
表情と声の抑揚はないけど。
平和なイースマスを取り戻すために、聖戦みたいな状況が始まってしまうのだった。
面白い!
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