第79話 フィッシュバーガーと同盟
わらわらと、イースマスの住人たちが集まってきた。
みんなでわあわあ言いながら、アームフィッシュと呼ばれた腕のある巨大魚を囲んでいる。
「ヘルプ機能によると、イースマスの住人は基本的に無感情で、よほどのことがなければ騒いだりしません。あれはよほどのことだったのですね」
「有名な魚だったらしいもんな。カオルン、でかした」
「はっはっはー! もっと褒めるといいのだー」
「えらいですねーカオルン!」
ルミイがカオルンをムギュッとしてナデナデし始めた。
カオルンもニコニコ、ルミイもニコニコ、見ている俺もニコニコ。
そんな俺たちの後ろから声がかかった。
「あなたがたがアームフィッシュを獲ってきたのか……。あれはオクタゴン様に従わぬ、魔族の存在……。力を失った我らは困り果てていた」
イースマス民の老人だ。
杖をついており、白くて長いヒゲがとても長老っぽい。
「なんかワケアリっぽいな。話を聞こう……」
俺は長老の話に応じることにした。
長老は頷き、じろりとアカネルを見る。
「その耳、尻尾……。昼でも特徴を発揮するライカンスロープとは、先祖返りの証であろう。強い魔族の力を持ちながら、魔族を狩る。お前たちが何者かも聴きたい」
あっ、そういう判断になるわけね。
確かにアカネル、狼耳と狼尻尾ついたままだったわ。
「よし、じゃあ細かい話はどこかで飯でも食いながら……」
そういうことになった。
ちなみに、この老人についてヘルプ機能を使うと。
「イースマスに住まうアビサル・ワンズの顔役、ディゴ。人の皮をかぶっているが、その姿はカエルと魚に似た異形の存在。邪神化した異世界召喚者オクタゴンの眷属です」
全部答えが出た!
そして、この都市が1900年代初頭のアメリカっぽい雰囲気がしてた理由も分かった。
異世界召喚者が作った都市なんだな。
俺たちが案内された場所が、アメリカンダイナーみたいなお店なのも納得。
普通にコーラとフィッシュバーガーが出てきた。
「うまいうまい」
「美味しいですー!!」
「ふーん、変わった料理なのだ」
「高度な調理法が使われていますね」
好き勝手言いながら、フィッシュバーガーを食べる俺たちである。
ディゴ老人は無表情な目で俺たちをじーっと見ている。
だが俺には分かる。
あれ、顔の作りや感情表現が人間と違うだけで、ちゃんと表情も感情もあるのだ。
俺は多様な価値観を理解する現代人だからな、その辺よく分かるぞ。
なんとなくニュアンスだと、ディゴ老人はどう話を切り出したものか迷っている。
俺はフィッシュバーガーを食いきった後、こちらから話を振ることにした。
「あんたら、シクスゼクスとあまり仲が良くないな?」
「そんなことはない」
「安心しろ。アカネルの狼耳と尻尾は、ライカンスロープの村を撃滅してきた時のおまけみたいなもんだ。俺たちはワンザブロー帝国方面から来たのだが、シクスゼクスを堂々と横断して南の凍土に向かうところなのだ」
「なんと! やはり帝国の者では無かった」
ディゴ老人はそう言うと、何かムニャムニャと呪文を唱えた。
「ヘルプ機能、これはなに?」
「神聖魔法です。彼らはオクタゴンの力を借り受けて使うことができるのです。邪神オクタゴンはおそらく、異世界召喚者の中でも最強に位置する一人です」
「ほうほう。その語り方だと、最強格が何人かいるんだな」
「能力の方向性が違いますが、そうです。最強は三名います。ちなみに神聖魔法の内容は、嘘を感知するものです」
「なら安心だな」
俺の言った通り、ディゴ老人は目をぎょろりと丸く見開いて、こちらを凝視してきた。
「真実であったか……。まさか、シクスゼクスに正面から楯突く者がいるとは……!!」
「ワンザブロー帝国も実質滅ぼしたぞ」
「なんと!! ムニャムニャ……ほ、ほ、本当の事を言っておる。狂っているのでなければ本当の事を……!」
「俺は正気だぞ」
「狂った者はみんなそう言う」
「確かに」
俺とディゴ老人、これはツボに入ってしまい、二人でゲラゲラ、ケロケロと笑う。
おや?
なんだかこの人、仲良くなれそうだぞ。
「俺たちがこの街に来た理由は一つだ。水着があるだろう。それを買いたい」
「水着……。我らの種族では体型が合わなくて着れぬあれか。オクタゴン様が何故か作らせていたが……。だが、そんなオクタゴン様も」
「どうしたんだ」
「シクスゼクス皇帝バフォメスの策略に掛かり、複数の異世界召喚者によって封印されてしまっているのだ。同時に、その異世界召喚者たちも封印を続けるためにここから移動できない状態だが……。いつ、シクスゼクスがイースマスを手に入れるためにやって来るか分からない」
「ほう。つまりあんたたちもシクスゼクスが敵ってわけだな。よし、水着をくれるなら手を貸そう」
「本当か!!」
「俺は自分の下心に嘘はつかない。俺の下心を満たすためには水着が絶対に必要なんだ。なるべくえっちな水着を頼むぞ。俺のじゃない。女子たちのだ」
「心得た。アビサル・ワンズの全力を尽くそう。わしはディゴ。お前……いや、おぬしは」
「マナビだ。俺も異世界召喚者でな……! アビサル・ワンズが着れないはずの水着を作らせていたオクタゴンとやら。どうやら助ける価値がある男だと睨んだぜ」
俺は燃え上がる。
手を差し出すと、ディゴ老人も手を差し出した。
固い握手を交わす。
水かきがあっても、手触りがペットリしてても、生魚の臭いがしても、それは友誼を結ぶ何の障害にもなりはしないのだ。
全ては水着のためである。
ここに、マナビ・イースマス同盟が誕生したのだ。
面白い!
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