第77話 モチモチパンと海水浴
コダルコダール村を出発した俺たち。
遠くから見ると、村はどこも壊れていないし、枯れ木みたいなのから骸骨は吊るされてるし。
「まるで何も無かったかのようだな」
「住民は全滅してますけどねー」
ルミイが村から持ってきたパンをパクパク食べている。
「マナビさん! このパン不思議な味しますよ! 美味しくはないんですけど、なんかぷりぷりした食感があります!」
「すぐに食料に意識が向いた!」
恐ろしいハーフエルフだ。
というか、精神的にタフになって来ている気がする。
「ルミイ、そのパンには実は麦が使われていません。村の中で栽培されているモチモチ草によって作られています。確かに食味は落ちますが、毒のある大地でも育つ毒のない植物なので貴重なのです。我々が食事していたあのオートミールみたいなものもモチモチ草です」
「ほえー! 全体的にあんまり美味しくない食事はみんなそうだったんですねえー。でも、シクスゼクスにいると食べ物が大体美味しくないかもしれないんですよね? 早くここから出たいなあ……」
「カオルンは味は気にしないのだ! マナビがもっとたくさん敵を用意してくれればいいのだ! 諜報活動でもいいのだー!」
「みんな色々主張してくるな。だが、確かにここをパッと抜けたいのは確かだ。そしてカオルンを武力として使用するのも積極的にやっていこう。それでみんなよろしい?」
「いいですよ!」
「異論なしなのだ!」
「いいのではないでしょうか」
満場一致だ。
魔導バギーはもりもりと荒野を突き進む。
毒沼と紫の荒れ野、そしてまばらに生えている木々は、なんだかわさわさと動いている気がする。
「食人樹です。近寄った生物を絞め殺し、養分に変えます」
「ろくでもないものしかない国だなあ」
アカネルの説明を受けて、俺は顔をしかめる。
「あんなろくでもないものでも、何かに利用したりできないか?」
「できます。全ては利用価値がありますから。あれは乾いていますので、良い薪になります。同時に多くの毒を含んでいるため、毒煙を放つことが可能です」
「それは何かに使えそうだ。一本伐採していこう」
そういうことになった。
カオルンにお願いすると、快く引き受けてくれる。
向こうで食人樹が「ウグワーッ!?」と叫んで粉々になった。
みんなで食人樹の破片を回収していくのである。
「ウワーッ指で触ったらなんかじわじわっと痛くなりますよ!」
「毒なんだろうなあー。でも、ルミイは解毒できるだろ」
「できますよー。この食人樹にも植物の精霊が宿ってるので、これで解毒できますね」
「自分の持っている毒を自分に宿った精霊で解毒する……。凄いマッチポンプだ」
後々使えるかなーという毒煙の材料を得て、バギーは再び走り出す。
しばらくすると見ててくるのは、三叉路。
道があるわけではないのだが、明らかに森と山と下り坂になっている。
下り坂を行けば海沿いというわけだ。
「紫色の光景ばかりで気が滅入ってきたところだ。青い海と、そこでキャッキャと遊ぶ女子たちが見たい……」
「マスター、最後の一言が本音ですね?」
「君はヘルプ機能の端末のはずなのになんで一番鋭いんだ」
「当機能はマスターの影響を受けて意識や感情を育んでいますので。ある意味マスターの娘です」
「娘だったかー」
ずっと荒野を下っていくと、向こうにキラキラ光るものが見えてきた。
曇天続きのイメージだったシクスゼクスの空が、パッと晴れ渡る。
ついでに横合いから「もがーっ!!」と魔獣が出てきたので、これをカオルンが蹴散らした。
俺も毒のついた木片を魔獣の口に押し込んだりして倒した。
「マナビさん、普通の人のはずなのに作業みたいにして魔獣倒しましたね!」
「二回チュートリアルしたぞ! せっかくの海を邪魔する魔獣を許すな」
「目が笑ってません!」
「マスターはその辺の欲求だけで動いてますから」
「どういう欲求なんですか? あ、お風呂?」
「お風呂は一例で、他に女体が合法的に拝めるならマスターは……」
「みなまで言わなくていいぞアカネル!! 俺の信用が落ちる!!」
「そんなもの最初からありませーん!」
「なんだとぉ……!?」
「海なのだー!!」
「ほんとですか!? わーっ、凍ってない海ですー!」
カオルンとルミイの叫びで、話題が切り替わった。
凍ってない海か。
つまり、海水浴も可能であろうということ……!
海辺を走る魔導バギー。
砂浜!
砂浜だ!
「砂浜には毒がありません」
「そうなのか!」
「常に水に晒され、毒が希釈されています。毒を持った生物はいますが、海辺に限ってそこまで心配をする必要は無いでしょう」
「ありがたい。完全に海水浴をしていいシチュエーションではないか。バギー停止!」
「了解しました」
アカネルがバギーを停車させ、俺たちはわいわいと車を降りる。
「海水浴を行う!」
海を指さし、宣言する俺である。
空は晴天。
日差しがポカポカと暖かい。
海辺はシクスゼクスっぽくないな。
とても平和そうな感じだ。
「海水浴ですか? 海に飛び込むと凍えて死んでしまうのでは?」
「そっか、ルミイの地元は凍土だって言ってたもんな。だが、この気候はどうだ。暖かいから凍えないだろう」
「言われてみればそうですね! よし、泳ぎましょう泳ぎましょう! わたし泳げないんですけど!」
「泳ぐのだ? よーし、カオルンが泳ぎを教えてあげるのだー!」
二人がぽいぽいっと服を脱ぎ始めた。
うわーっ。素っ裸に!!
そう言えば水着なんか無かったな。
「マスター、なんていい笑顔をするんですか。あ。当機能は泳ぎません。機械を海水につけるなんて言語道断ですから」
風呂には入ってたくせに。
水辺で遊び始める、ルミイとカオルン。
寿命が伸びる光景だ。
だが……二人……いや、三人には水着を着て欲しいという気持ちが湧き上がってくる。
どこかで水着が手に入らないだろうか?
おそらく、これから向かう海上都市、イースマスにはあるのではないだろうか?
「海水浴が終わったら、イースマスに行くべきだろうな。よし、そうしよう。そして水着をゲットする」
俺の中に、強いモチベーションが生まれたのだった。
面白い!
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