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第73話 覗く村人とトリカブト

 カオルンが調査をしているうちに、俺たちもできることをしてしまおうということになった。


「ここはそろそろわたしの魔法が活躍するところですよ!」


 えっへん、と出てくるルミイ。


「ずーっとルミイに何もさせないで来てしまったので、魔法使いだということをすっかり忘れていた」


「楽でしたけどねー。このままだと、さすがのわたしも太っちゃいます」


「あんなに食べてゴロゴロしてて太らないのですか? 意味がわかりません」


 アカネルの口調からちょっと怒りが滲んでいる。

 さては太るタイプだな。

 機械のはずなのに。


「それでマナビさん、何をするんですか?」


「おう。ライカンスロープと言えば、実は魔法の武器以外でも倒せるんだ。ファンタジーはそういうもんでな。この世界にもそれがあれば……ヘルプ機能お願い」


「はい。ライカンスロープを倒す手段。ウルフズベイン。マスターの世界では、トリカブトと呼ばれるものに近い毒です」


「よし、それで行こう。向こうさん、魔法の攻撃には警戒しているだろうからな。この辺りに自生してる?」


「住人たちがあまり村の外に出ませんので、自生しているものが多く残っています。ゲームにかまけないで、村の周囲を管理していたら良かったのに。シクスゼクスの土地の毒性を吸い上げて、強力な毒を持つ種に育っています」


「いいね! じゃあ、取りに行こう」


 そういうことになった。

 何気に、俺たちの行動は見張られている。

 村人がずっとあとをつけて来ているのだ。


 カオルンがいなくなったのを誤魔化しつつ、俺たちは家に戻ってくる。

 彼女が一番小さくて助かる。

 俺の影になってたとか言い訳できるからな。


 あまり怪しまれてしまうと、サプライズしづらい。

 俺は相手にびっくりしてもらうのが喜びなのだ。


「戻ってきちゃって、どうするんですか?」


「塀側にある窓を伝って外に出るぞ。中では俺たちがお昼寝している風に装おう。これをこうして、こうしてだな」


 ベッドの上に、荷物をまとめて人の形のようなものを作り、毛布を被せておく。

 そして俺、ちょっと考える。


「ルミイ、これ、一定時間ベッドを揺らしたりできる?」


「あ、はい! 家屋の精霊ブラウニーにお願いすればできますよ! でもなんでそんなことするんですか?」


「男女がベッドで一緒になって、ずっとギシギシしていれば相手は怪しまないからだ」


「?」


「マスターの発想は冴えていますがちょっとえっちなのではないですか」


 完全に理解したアカネルがツッコミを入れてきた。

 えっちセンサーの感度が高いぞ!


 なんかぷつぷつ言っている彼女に縮小してもらい、ポケットに収める。

 そしてルミイにお願いだ。


「じゃあ、ブラウニーと外に出てから風の精霊……シルフでいいの? それでよろしく。ゲイルハンマーと合わせて外に飛び出そう」


「はーい! じゃあ、家の守り手ブラウニー。あなたの力をちょっと貸してね。報酬はテーブルの上。気に入ったら少しだけ、わたしのお願いを聞いてちょうだい」


 ルミイが囁く。

 どうやらこれ、呪文らしい。

 ウィスパーボイスの歌声みたいだな。


 精霊魔法の呪文を聞いているとよく眠れそうだ。

 テーブルの上にルミイが置いたのは、村のお菓子。


 ちょっと見てると、お菓子がふわっと宙に浮かび、サクサクっと音を立てて欠けた。

 それからトテトテトテッと足音が聞こえ、ベッドがギシギシ音を立て始めた。


「おお、凄い」


「ブラウニーはお菓子大好きなんですよー。だから、わたしの地元だとあんまり使えなくて」


「お菓子がないのね」


「そうなんです。甘い木の実しかなくって、それも希少だからみんな食べちゃうので。外に連れてこられて一番良かったことは、美味しいものと甘いものがたくさんあることですねえ! さあ、これで一時間はギシギシしてますから、行きましょー!」


「おう、行こう行こう」


 裏口からそーっと抜け出す。

 そして、シルフとゲイルハンマーで風を起こし、俺たちは塀を飛び越えた。

 そこは村の外。


「ヘルプ機能、ウルフズベインをチェック」


「周囲のマップを表示します。チェックマークのポイントに自生しています」


「よしよし」


 アカネルがマップを空中に出現させ、これを見ながらルミイと二人、ウルフズベインを回収していく。

 ちょこちょこと異形化した動物みたいなのが出て来るのだが、俺がゲイルハンマーで風を起こして驚かせ、退散を促すのだ。


 野生動物、無駄に好戦的なやつは少ないからね。

 変なのが出てくる前に、仕事を終えてしまおう。


 ウルフズベインは、まあどこにでも毒がある。

 フグ毒に近いらしい。

 なので、葉っぱをサッサッと摘んで、ウルフズベインの生育を邪魔しない程度だけいただくに留める。


 俺の趣味のためにこいつらを枯らしたら気の毒だからな。


「マスターのその優しさは、敵対した者には僅かも振り分けられないですよね」


「そりゃあそうだ。敵と植物なら植物の方が可愛いだろう」


 十分な量の葉っぱを手に入れた。

 これから毒を取り出して、相手が一見して武器だとは思わないところに塗っておく。


「毒の抽出はアカネルがやれる?」


「お任せ下さい」


 役割分担はバッチリだ。

 再び塀を超えて、裏口から家に戻ってこようとしたら……。


 窓から村人が、じーっと中を覗き込んでいるのだった。

 あ、いや、なんかハアハアしている。


 そうか、ベッドのギシギシがとても気になるのだなあ……。

 ちょっと共感を覚えてしまう俺なのだった。

面白い!

先が読みたい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 次は犠牲者はこいつか…?(無慈悲
[一言] 気になるのは「そっち」!?
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