第62話 新章突入は森の帝国から
端的に言うとお風呂はパラダイスだった。
やったーマナビお風呂大好きー!
別の意味でな。
ルミイとカオルンを見て寿命を伸ばした俺。
ハッとするのだ。
「アカネルも一緒にどうだね……」
「当機能は男女が裸を見せ合うことがマスターの文化圏でどのような意味を持つのかを理解していますが」
うおっ、じーっと見つめられてしまった!
浴室から顔だけ出した俺は、暑さによるものか別のものか、タラリタラリと汗を流すのだ。
「とりあえず今は、当機能は機械ですので……ということにしておいて下さい」
「つまり可能性があると?」
「あらゆる状況からポジティブな考えで活路を見出すマスターのスタンス、好感を覚えます」
「よし、もっと好感度上げて一緒に入ろう」
「直接アタックしてくるパワフルさ。恐ろしい人です」
ということで、残念ながらアカネルは見送りとなった。
黒髪ロングの真面目生徒会長系美少女、絶対にご一緒してやる……!!
俺の中に、前へと進むための強いモチベーションが生まれる。
ルミイで100%、カオルンで200%、アカネルで300%。
俺のモチベは既に人の領域を超えているぞ、うおおー!!
「よーし、カオルンがマナビの尻尾を洗ってやるのだー!」
「あっ、カオルンさんいけない! 俺の愚息は既に限界をウグワーッ!?」
「マナビさんキレイキレイしましょうねー」
「ウグワワーッ!!」
うーむ……!!
身も心もスッキリしてしまった……!!
こうして、スリッピー帝国での記憶は全部お風呂になった俺。
とうとうこの国を離れる時が来た。
とは言っても翌日になっただけなんだが。
ワンザブロー帝国製の魔導バギーだが、実はすぐに発見され、スリーズシティの工場で解体、解析、強化されて組み直されていたのだった。
技術を実証するマシンにするつもりだったらしい。
戻ってきたバギーは、装甲板が追加され、タイヤが大型化していた。
こりゃあ凄そうだ。
「自動操縦装置だが」
皇帝が言ってきたのだが、俺は「ああ、大丈夫だ」と留めておく。
「アカネル、クリスタルに変身だ」
「了解です、マスター」
アカネルは光に包まれ、本来の姿であるクリスタルになった。
これこそ、スリッピー帝国迷宮のコアを長らくやっていた、すごいクリスタルなのだ。
「そ、それはまさか、伝説に謳われていた我が国のコアクリスタル……いや。なんでもない。好きにするがいい」
皇帝、あくまで俺たちとは深く関わらないスタンスだ。
アカネルが変身したクリスタルをハンドルにちょいと載せると、バギーが勝手に動き出した。
運転席には俺が座る。
最初のうちは、俺が運転席なんて何をするつもりだと訝しげに見ていたルミイ。
だが、アカネルのパワーで自動運転が可能になったことを知ると、ニッコニコの笑顔になった。
「うわーっ、わたし運転しなくていいんですか!? やったー! プレッシャーから解放されました! よーしカオルン、後ろの席で一緒にお菓子食べましょう」
「カ、カオルンはルミイに付き合ってるとお腹がはちきれてしまうのだー!」
カオルンが逃げるように助手席にやって来た。
ルミイのおやつに付き合わされて、食べ過ぎで苦しくなってからトラウマらしい。
「マナビくん、私が国境線までは送ろう」
「おお、教授!」
「俺もいるぞ。いやあ、お前さんすごいヤツだったんだなあ」
「入都管理のおっさん!」
二人のおっさんが魔導バギーで並走してくる。
俺たちを先導する意味合いがあるんだな。
荒野をバリバリ走っていると、遠くに緑地が見えた。
「ヘルプ機能。あの緑地は?」
『スリッピー帝国の農業プラントです。魔導機械の力を用いて、農業が行われています。スリッピー帝国の半分は農地で占められています。ここから豊富な食材が生まれます』
「実は緑の国でもあったのか……」
工業都市から流れ出す排水や排ガスが、作物に悪いというのを理解している国だったんだな。
だから、都市の周辺には荒野しか無かったのだ。
ワンザブロー帝国に比べると、国としての体をちゃんと保ってるところだったな。
飯は美味いし、風呂は広いし、ルミイとカオルンはえっちだし。
アカネルのえっちさも引き出してやるぞ……!!
『マスター、鼻の下が伸びるという慣用句がありますが、現実の顔はそうではないにせよ、納得するに足る表現だったのだと当機能は感慨にふけっております』
「その報告いらないけど、そんなに俺はだらしない顔をしていたのかね……」
『ルミイには見せられません』
「なんてことだ」
「マナビが変な顔してたのだ? カオルンも見るのだ! マナビ、変な顔するのだー!」
「うおー、カオルン俺の顔をむにむにするなー」
運転席と助手席でドッタンバッタンやる俺達を、教授がポカーンとして眺めているのだった。
「ここだけ見ていると、あの凄まじいことを成し遂げた人物には見えないな。なるほど、これが彼の恐ろしさだ。侮ってしまう要素しかないのに、侮ったが最後、徹底的に叩き潰される。存在自体が強者への致命的な罠というわけか」
なんか深いこと言ってるな。
俺は別に何も考えていなくて、一毫程度でも隙が見えたらそいつを攻略してぶっ倒せると思ってるだけなのだ。
敵を煽るのも勝利のための手段としてだぞ。
だがまあ、スリッピー帝国がまあまあ賢くて、まあまあ弱かったお陰で被害が少なくて済んだのは幸いだったな。
どうも俺と戦った相手が強いほど、被害がそのままでかくなるっぽいからな。
こうして、俺たちは国境線へ。
そこは冗談みたいに、荒野と密林が線でも引いたかのように区切られていた。
「この森からがフィフスエレ帝国だ。スリッピー帝国とは何もかもが違う魔境だぞ。気をつけ給え。ちなみに向かって左手がセブンセンス帝国、右がシクスゼクス帝国だ」
「おお、ありがとう教授! ネクタイも感謝感謝。また縁があったら会おう。入都管理のおっさんもな」
「おーう! またな!」
世話になった人々に別れを告げ、新たなる国へと入っていくのだ。
これがこの世界のスタンダードな国だとしたら、ワンザブロー帝国はなんだったんだろうな!
そびえ立つクソかな?
と思いながら密林の中をつらつらと走り出したらだ。
いきなり、何かが目の前に立ちふさがった。
魔導バギーよりも一回り大きな体躯は獅子のもので、老人のような頭がついている。
『待つが良い。ここから先はフィフスエレ帝国。魔獣が支配する国ぞ。人間の侵入は許さぬ』
いきなりきな臭い雰囲気ですかね……?
(スリッピー帝国編 終わり)
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