第60話 大団円はこの後の夕飯から
「な……何故だ! あの迷宮に送り込んだ男たちは、誰一人として帰ってこなかった! なのに、どうしてお前は! しかもこんな短い時間で……!!」
女性将校がわなわなと震えながら俺を指差す。
何を今更。
「簡単だよ。迷宮を突破して、ついでにスリッピー帝国の全機能を掌握して戻ってきたんだ。俺がここにいるのが何よりの証拠だろ」
「そんなバカな……」
「じゃあ、信じさせてやろう。アカネル、魔力電池は急速充電……っていうか充魔できる?」
『可能です。ただし、ここ一ヶ月間はスリッピー帝国帝都で魔法を使用することができなくなります』
「構わんでしょ。実行」
『了解しました。スリッピー帝国全魔力電池に通達。急速充魔を開始。逐次、魔力解放を実行。機能回復を行え』
ポケットから顔を出したアカネルが、帝都全体に向けて命令を発する。
すると、その場にいた魔力のある連中が目を見開き、慌て始める。
「ま、魔力が消えた!」
「あひー! 魔法が使えなくなりました! 精霊さんたちが慌てて逃げていきます!!」
「カオルンも魔力が消えてしまったのだ!」
その直後、真っ暗になった部屋に魔力の明かりが満ちた。
照明が戻ったのだ。
「ほい、これで失われていた魔力電池は全部充魔させた。その代わり、一ヶ月はこの都市でまともに魔法が使えないからよろしくな」
「あわわわわ……。お、お前は何だ。何者なのだ……!! 魔力すら無い、最底辺の男がどうしてこんな事を……!!」
女性将校が愕然としているのだが、俺が注目するのはその横だ。
皇帝が凄い目で女性将校を睨んでいる。
「あれはめちゃめちゃ怒ってるねえ……。大変だ」
皇配氏が半笑いになった。
なるほど、命令にない行動を勝手にやった挙げ句、恩師が連れてきた国の救い主だという男を、危うく殺しかけたのだ。
その結果が、帝都の魔力不全状態だ。
「貴様の地位を解く! いや、軍人ですらない! 反逆者だ! この者を捕らえよ! 牢へ入れろ! 後の沙汰は余が下す!!」
「そ、そんな、陛下! 私は国のためを思って……! それに、魔力がない男など最底辺で……」
「貴様が最底辺だと抜かした相手に、今、帝国は掌握されたのだ! 魔力など人の評価の一面に過ぎぬ! それを彼は示したのだ。スリッピー帝国が目指す国の姿を忘れたか? 魔力を持たずとも生きていける、魔法工業の国だ。貴様はその理念を理解していなかったのだ!」
「陛下! 陛下、お慈悲を! 私は悪くない! 悪いのはその男で、陛下ー!!」
もう一人いた女性将校が、すごい速度で元将校を拘束した。
そのまま連れて行ってしまう。
最後まで人のせいにするヤツだったなあ。
どこにでもダメなのはいるもんだ。
やがて、倒れていた兵士たちがふらふらと立ち上がる。
「カオルン手加減してたのか。偉いぞ」
「あまりにも弱いので兵士じゃないとまで思ったのだ!」
カオルンが肩をすくめるのだ。
これには皇帝も苦笑い。
「余の護衛は女性兵士で固めていてな。魔導ガンや魔法工学を駆使した兵装は、女性兵士の非力さを補うものゆえ、それを実証する意味もあった。だが、そなた相手では意味がない。例え男の兵士であっても塵芥同然だったであろう」
「そうなのだ!」
確かに、頑丈さとか馬力だと男女はめちゃくちゃに差があるからなあ。
カオルンは魔神の心臓とホムンクルスボディなのでそもそも規格が違う。
ルミイはなんかよく分からん。
「あ、精霊さん戻ってきました! わたしの周りだけ精霊魔法使えますねえ」
「そんな馬鹿な、ありえません」
なんか常識はずれな事をやって、アカネルをびっくりさせてるじゃないか。
「アカネルですら驚くのか」
「当機能はアカシックレコードに接続するための一機能でしかありません。当機能が持つ常識の範囲内ではルミイの能力は非常識極まりないと判断されました」
「そうかー。ルミイは確かにそういうとこあるもんな」
「マナビさん、さっきから誰と話してるんですか? あら、可愛い」
ルミイがトコトコ近づいてきて、俺の胸ポケットをツンツンした。
「うわーっ、無遠慮な接触に当機能は抗議します」
「可愛いー! この子、どこで見つけたんですか? 地下ですか? 可愛いー。わたしに下さい!」
「当機能は譲渡できません」
「ルミイ、こいつは体を得たヘルプ機能なんだ。俺たちとずっと一緒に冒険してきた仲間だぞ」
「そうだったんだー! ヘルプ機能ちゃん、こんな可愛かったんですねえ」
「当機能の名はアカネルです。以後はそう呼称して下さい」
「アカネルちゃん? 可愛い~!」
「ふむふむ! そいつがこのあたりから魔力を奪ったやつなのだ? 強いのだ?」
「当機能には一切の戦闘力がありません」
すっかり賑やかになってしまった。
俺が女子たちのやり取りにニコニコしていると、皇帝がようやく抜けた腰を取り戻したらしい。
立ち上がって近づいてくる。
「そなたが絶大な力を持っていることは理解した。余の無理解を詫びよう。師が見込んだ者は、確かに卓越した存在だった。詳しい話は宴の席で……」
「ああ、飯の準備はできてたり?」
ちらっと皇帝がカオルンを見た。
「カオルンが怒りで全部ひっくり返したのだ!」
「また作らせる」
俺がいなくなって、大変な状況になっていたんだなあ……。
カオルンの怒りを食い止めていた教授も、よくよく見るとスーツのあちこちが切り裂かれ、鍛え抜かれた筋肉があらわになっている。
なんで怪我してないの?
「紳士は鍛え抜かれた肉体をこそ鎧にするものだぞマナビくん」
ドンデーン教授がよく分からん事を言った。
「師はご自身では否定されるが、スリッピー帝国最強戦力の一角なのだ」
「おい教授」
皇帝がとんでもないことをサラッと漏らしたな。
つまり、彼はワンザブロー帝国におけるカオルンと同じポジションであるということだ。
そんなのが教授でござい、という顔で講義をしてたのか。
カオルンを止められるはずだ。
道理で、軍は教授の言うことを聞くわけだ。
今までは皇帝の顔を立てて、あえて口出ししてこなかったらしい。
「マナビ、この男はカオルンの攻撃をだなー。筋肉を回転させて光の刃を弾いて、必殺の攻撃だけをネクタイで弾いたのだ。あのネクタイ、伸びて鞭みたいに使ったりもできるのだなー」
「すごい。ほしい」
「約束通り、一本あげよう」
「わあい!!」
俺は教授のポケットから取り出された、魔導ネクタイを手にして大喜びするのだった。
面白い!
先が読みたい!
など思っていただけましたら、下にある☆を増やしたりして応援してくださいますと、作者が大変喜びます