第59話 迷宮からの帰還は新しい仲間から
俺が掲げた手の中で、クリスタルみたいなコアがバリバリ音を立てる。
そして、急に手のひらを押しのける圧力が発生した。
なんだなんだ。
「よいしょー」
可愛い掛け声が聞こえる。
なんだろうと腕を下ろしてみたら、俺の手の中に小さい人がいた。
手のひらサイズの黒髪美少女だ。
背中には妖精のような機械の翼を生やしている。
「マスター、当機能は実体化に成功しました」
「思ってたよりちっちゃい!」
「省エネモードです。携帯にはこのサイズの方が便利かと。この状態からコアに戻り、車両などに取り付けることで自動運転が可能になります」
「あー、自動運転装置になるのか! それは便利だ。まさかこんなところで手に入ってしまうとはなあ……」
「マスター、当機能にはイニシャルが設定されておりません。設定を行って下さい」
「イニシャル? あ、名前をつけろってことか。じゃあ、えーと」
俺は考える。
「アカシックレコードだから……アカネル」
アカネルと名付けた彼女は、目をピカピカ光らせた。
「イニシャル・コード・アカネル。登録されました。当機能のイニシャル変更権を所有するのはあなただけです、マスター」
「よしよし」
「それから訂正を」
「なあに」
「当機能はアカシックレコードに接続できる、端末機能でしかありません。アカシックレコードそのものではありません」
「細かいなあ」
今までにいなかったタイプの仲間だ。
いや、ずーっと一緒にいたんだけどな、ヘルプ機能は。
「ではご命令を、マスター。当機能はヘルプ機能としての性能のみを持っておりますが、この端末としての肉体を得たことで、世界への物理的干渉が可能になりました」
「ほう。どういうことだろう」
「魔力に干渉し、小規模であれば世界を変容させることができます」
「分かった。つまり舞台の形を変えられるんだな? よーし、それじゃあアカネル、頼む。ここから出口まで道を作ってくれ」
「了解しました、マスター」
アカネルは俺の手からぴょーんと飛び出した。
「魔力、元素、収束。世界干渉用端末を形成します」
そう宣言すると、彼女の周りの壁や床が抉れた。
まるで、何かを作るために必要な部品を持っていかれたかのようだ。
「あー、周りのものを利用して肉体を作るのね」
俺の理解は早いぞ。
そして、予想通りになった。
アカネルが人間サイズに変身する。
背中の翼は消えて、制服とも軍服とも取れる衣装の、黒髪ロングですらりとした美少女になった。
「マスター、先の話をするのは無粋です。抗議します」
「あっ、アカネルがちょっとむくれた! 感情表現まであるんだなあ」
「当機能はマスターの影響を受け、日々学習しています」
なるほど、可愛い。
「マスター、道を切り開きます。御覧になっていてください。アクセス、スリッピー帝国第一廃棄工廠に接続する全ての機能。魔力は地上の魔力電池にて代替。接続確認。確認、確認、確認。発動します」
アカネルが両手を広げると、彼女が立つ床がぼうっと光った。
いや、そこから光の回路みたいなのが生まれ、迷宮全体へと走っていく。
天井を抜け、恐らくは外にも到達しているだろう。
すぐに迷宮そのものが動き出した。
ゴゴゴゴゴ、と壁が動き、床が動き、罠の類が格納されていき……。
気がつくと、出口まで一直線の通路がそこにあった。
「凄いじゃん。偉い!」
俺はアカネルの肩を後ろからもみもみした。
おっ、あったかくて柔らかい。
「当機能は肩こりしません。ですがもっと褒めてくださって結構です」
おっ、後ろからでも彼女がドヤ顔しているのが分かるぞ。
ヘルプ機能だった頃から、ずっと俺の考えや感情を学習し続け、人格を得るに至ったんだろうなこれは。
めちゃくちゃヘルプ機能を使いまくってたからな。
「それからマスター、当機能にアカシックレコードとの接続を命令する際は、ヘルプ機能と発する事を継続して下さい。これがコマンドになっています」
「へいへい。今までと同じノリでいいわけね。ありがたい!」
「当機能は力の行使によってエネルギーダウン状態になりました。ミニサイズに戻ります」
「あっ、もったいない」
「ミニサイズが通常サイズですので」
アカネルが輝くと、また手のひらサイズの妖精さんになってしまった。
俺の腕を伝って、胸ポケットに潜り込む。
おお、ポケットからちょこんと顔を出しているのはすごく可愛いな!
背中の羽も柔らかいらしくて、ポケットの形に合わせて変形している。
「じゃあ、ここからは俺がやるからアカネルはのんびりしててくれ」
「了解です、マスター。当機能は全力でのんびりします」
のんびりは全力でやるものではない。
かくして俺は、迷宮に落とされて三時間ほどで宮殿へ帰還したのだった。
宮殿は全ての動力が落ちており、真っ暗。
大騒ぎになっていた。
「どういうこと?」
「マスターが脱出する際に、スリッピー帝国全ての魔導機械を掌握しました。その際、魔力電池を消耗しましたのでスリッピー帝国は機能不全の状態にあります」
「なーるほど」
つまり、帝国はアカネルの手のひらの上というわけだ。
あちこちで、慌てたように原始的なランタンが灯され、宮殿のあちこちに設けられた窓が開けられた。
月明かりが差し込んでくる。
もう夜か。
俺が出てきたのは、広い空間だった。
まさしく謁見の間という感じだな。
玉座の後ろに出口があった。
あれ?
俺が皇帝と会ってたのは普通の応接間だったような。
どっちで会うのが扱いがいいんだろうな。
そう考えながら、顔を出したら……。
「あっ! マナビさん!! カオルン、マナビさんいましたよ! 変なところから出てきました!」
「マナビ無事だったのだ! カオルン、こいつらがマナビをどこかにやったと思って、ちょっと暴れてたのだ!」
ほうほう、よくよく見れば、あちこちに女性兵士がぶっ倒れているではないか。
そしてカオルンと対峙しているのは、教授だ。
拳に巻いたネクタイが光り輝いている。
彼も俺を見てホッとした顔になった。
「良かった! 君が帰ってきてくれたか! いや、君の連れのレディたちに静かにしてもらうのは、私では力が及ばなくてな」
カオルン相手に無事に立ってられる時点でおかしいくらい強いと思うけどな。
なお、皇帝と、俺を迷宮に落とした女性将校は、玉座周りで腰を抜かしているのだった。
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