第54話 とりあえずのスッキリは荒事から
スリッピー帝国の帝都。
外見はガッツリ工業都市。
スリーズシティの数倍の規模がある。
……というか、ここまで荒野と工業都市しか見てないんだが、俺たちが食べてきた食料はどうやって生産されているのだ?
まさか地下に畑があるのか?
その疑問には教授が答えてくれた。
「スリッピー帝国は広いんだよ。だから、帝都から遠いところに農場がある。それに実は、建造物群があるだろう? あれの一部は内部が多重構造の畑になっている」
「科学的に農業が進められてるじゃん」
「家屋の屋根にも大量の畑が」
「合理的じゃん……というかこんな黒煙がもうもうとしている中で作れるの……?」
「食べられたらそれでいいじゃないか。そんなことでは長生きできないぞ」
教授が豪快に笑った。
なるほど、そういうの気にしない国なのね……!!
確かに料理された飯は美味かった。
軍事国家とヘルプ機能にはあったが、ここは工業国家と言った方が正しい。
で、工業的な感じで作物も改良されていっているんだろう。
主に食味が良くなる方向で。
「黒煙や排水に関しては、問題視する向きもある。だが、それの解決にかまけていられるほど世の中は平和ではないのだよ。マナビくん、魔力の星が落ちるまでの期間が確か……」
「三年だ。それで、魔法使いの時代が終わる」
俺が言い切ると、おっさんや兵士たちが驚きどよめいた。
「この三年で備えをしなければならない。今は走り続ける時だ。それが終わって初めて、環境に配慮できるというものだ。つまり今は、戦時下なのだよ」
「あっ、そういう考え。深く理解した」
俺は割りと、納得すればバンバン認識を変える方だ。
スリッピー帝国のあり方は支持するぞ。
今のところグリフォン部隊と活動家くらいしかクソな奴らがいなかったしな。
多分これは、この国の連中がワンザブロー帝国と違って、ちゃんと仕事をしているからではないかと思うのだ。
人は、暇になるとろくでもないことをする。
ワンザブロー帝国、アポカリプス化してて仕事してないやつとか、ヒャッハーとかが暴れまわってたでしょ。
あれは国じゃないから。
スリッピー帝国みたいなのが国よ、国。
そう思いつつ、帝都に入る。
そこは地面が全部コンクリートめいたもので覆われていて、魔法文明世界のファンタジー……というよりは明らかに見た目がSFだった。
というかサイバーパンク?
入り口は天井があって、赤いランプが明滅している。
教授が兵士とやり取りをして、それで入都の審査はおわったようだ。
兵士が敬礼して見送ってくる。
うーむ……。
「人から敬意を向けられると、マナビさんはちょっと挙動不審になりますよね」
「うむ。侮られていないと落ち着かない……」
俺はもじもじした。
なお、カオルンは退屈だったのか寝てしまっている。
豪胆である。
そして門をくぐると、そこに広がっていたのはコンクリと鉄板が打ち付けられた地面で、不自然にあちこちに水たまりがあり、無数のネオンが薄暗い路地に瞬く都市だ。
ネオン!?
魔法の世界で?
怪しい店が立ち並び、明らかにサイバーパンクっぽいサイボーグみたいなのが闊歩している。
「我が国は欠損した人体を魔導工学で補う技術も発展していてね。マギボーグと言う。スリーズシティは学術都市としての顔も持っているから、そういう外見の者は入ることができなかったが」
「サイバーパンクじゃん」
スリッピー帝国はサイバーパンクな国だった。
これはなかなか衝撃である。
「まさか俺が驚かされっぱなしになるとは思わなかったぜ……」
「マナビさん、ずっと窓にくっついて外を見てますねえ。そう言うふうな感じだと、子どもみたいでカワイイですー」
「ルミイに子ども扱いされている……!! あれか。俺はママーとか言ってすがりついても許されるやつなのか?」
「マナビさんがわたしをママって呼ぶ!? そ、それは……なんだかゾクゾクします!」
「変な性癖の扉を開かなくていいぞルミイ……!」
魔導バギーはトコトコと進んでいくのだが……途中で停車した。
「どうしたの?」
「銃撃戦だな」
「銃撃戦!? 魔法文明世界なのに? ああ違う、サイバーパンクだったな」
俺は自分を納得させた。
どうやら薄暗い街路で、魔導ガンを持った集団と治安維持部隊が撃ち合っているようだ。
「こりゃ、応援が来るまでは決着がつかねえな。しばらく待つことになるぜ」
おっさんが運転席にもたれてため息をついた。
なんだと。
それは困る。
無為に車の中に束縛されるのはよろしくない。
「よし、じゃあ俺が解決してこよう」
「揉め事なのだ!? カオルンもやるのだー!!」
荒事の気配を悟って目覚めたか、カオルン。
「どれどれ、私も事態解決に手を貸そう」
俺、カオルン、ドンデーン教授が車を降りた。
俺たち以外が、明らかに無手の教授というのがおかしい。
まあ、このおっさんは使い手だしな。
今回もネクタイを拳に巻き、それを輝かせる。
俺は兵士から、麻痺魔法が付与されているというスタンバトンを借りた。
こりゃあいいや。
「カオルンは自前の武器があるのだー」
カオルンが指先から、紫色の光の刃を展開すると、兵士たちがオーと驚いた。
「純粋魔力を刃の形に成型している……!」
「必殺の威力があるやつ」
「生身であれができる魔法使いなんて初めて見た」
ちなみに、これについて褒められても、カオルンはスンッした顔のままだ。
「嬉しくない?」
「当たり前のことなのだ。できない方が弱いのだ。だけどマナビはできないけど強いので、よく分からなくなっているカオルンなのだ」
難しい年頃だ。
そしてルミイ。
「私は中で応援してますねえー」
ニッコニコで手を振ってきた。
避けられる争いは徹底的に避ける方針!
「仕方ない。今回はこの三人でチュートリアル行ってみよう」
面白い!
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