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第42話 最強の敵は同じ日本から

 学生食堂的なものがたくさんある通りなのである。

 スリーズシティは、工業都市とと学園都市という二つの顔を持っているのだな。


『スリーズ都市大学はスリッピー帝国の魔法使いを育てる機関です。スリッピー帝国でも魔法能力の減退は問題視されており、個人の魔法能力に頼らない、技術による魔法行使をテーマに研究が進められています』


「凄いじゃん。ちゃんと問題を見つめて解決方法を探っている」


 俺は大変感心した。

 食堂の席についてからヘルプ機能とおしゃべりしていたので、飯はルミイが勝手に注文してしまったのだった。


 学生サンドなるものが出てきた。

 うわあ、すごいボリュームだぞ!!


 パンを上下に切ったやつに、大量のケチャップスパゲティみたいなのと、ミートボールとピーマンっぽい野菜が挟まっている。

 でかい。

 ルミイの顔くらいあるんじゃないか。


「か、カオルンはこの量は無理なのだー!」


 少食らしいカオルンの表情が引きつっている。


「そうですか? じゃあ残ったらわたしが食べます!」


 がぶがぶがぶと、学生サンドを物凄い勢いで平らげていくルミイ。

 俺も久々のまともな食事にかぶりついた。


 ふと思う。


「ワンザブロー帝国は機能的食品ばかりだったのに、こっちは普通の飯なんだな」


「それはなのだなー」


 学生サンドを小さい口でちょっとだけかじったカオルンが、教えてくれる。

 ワンザブロー帝国の食客だったから、詳しいのだろう。


「あそこには農地がないのだ。だから地下で食用モンスターを召喚して、これを食品に加工してたのだ! 保存のためにああいう細長い硬いお菓子にして、それを食べるようになったのだー」


「なるほどなあ。狭い国だもんな。それで食の喜びを捨てたのか」


「えー。チーズ味のお菓子美味しかったですよ?」


 ルミイはあれはあれで好きらしい。

 顔をケチャップで汚しつつ、学生サンドを既に半分まで平らげている彼女。


 恐るべき健啖。

 俺も負けてはいられないのだ。


 ガツガツ食べて、お茶で流し込んだ。

 パンは生地の詰まり方にムラがあるし、スパゲティはぶよぶよ、ミートボールは肉汁が少ないが……それでも美味い。


 サービスのお茶をガブガブ飲みながら、学生サンドを平らげてしまった。

 おお、腹がいっぱいだ。

 はちきれそうだ。


 今の俺はチュートリアルを使いこなすことができん……。

 危機的状況ではないか。


「も、もうだめなのだー」


「半分食べられないですかー。じゃあわたしが食べますね!」


 うおーっ、ルミイがカオルンの残した半分以上をがつがつ食べる!

 健啖すぎる。


 あの体のどこにそんな栄養が詰まって……。

 詰まってますな。


「なんでマナビは気持ち悪い笑顔を浮かべてるのだ?」


「心が穏やかになったんだよ。いやあ、世界は素晴らしい」


 俺の心は今、とても広くなっている。

 穏やかな気持ちで周囲を見回した。


 若かったり、若くなかったりする学生たちがもりもりと飯を食ったり、お茶ばかり飲みながら議論を戦わせているではないか。

 この食堂には青春の香りがする。


 俺は向こうの世界では社会人になっていたので、若人の(若くないのもいるが)キラキラが眩しいね。


「あ、じゃあお会計お願いします。このマジックタグで、軍にツケできます? あ、できない? じゃあお金を……」


 戦車やヘリに乗り込んだ時に、お金はちょろっと入手しておいたのだ。

 学生サンド三人分、高いんだか安いんだかさっぱり分からん。


 金を払っていたら、何やら向こうで議論していた連中が立ち上がり、俺たちを睨んでいるではないか。


「軍だとぉ!?」


「なんで軍の奴らがこっちにいるんだ!!」


「軍は敵だ! 人殺しめ、殺してやる!」


 おお、一言で矛盾する叫び!


 そこにいた学生たちがドヤドヤとやって来たぞ。

 男女色々いる。

 こじらせたインテリの香りがするぞ。


「おい、何とか答えろ! 今は戦争中なんだぞ!」


 リーダー格らしい、長髪で神経質そうな男が叫んだ。


「戦争中? 何と? 軍と? 学生が? 学生食堂で楽しく議論できるくらい余裕のある、まったりとした感じの? 戦争?」


「う、うるさい黙れ!!」


「軍が罵倒してきた!」


「宣戦布告だ!」


 わあわあ騒いでいる。

 こいつら、スローゲインくらいの煽り耐性だぞ。

 そんなんじゃチュートリアルの必要もなくなっちまうよ……。


「うるさいのだー。カオルンが撃滅していいのだ?」


「待て待てカオルン、オーバーキルだ」


 俺は笑いながら彼女を止めた。

 そして向こうにも動きがある。


「ねえみんな! お店の迷惑になるよ。私たちスリーズ友愛団の活動方針に理解を示してくれたお店なんだよ? 私が店長さんに一晩お願いしたらとっても素直になって」


 ウェーブヘアのお嬢さんが出てきた。

 まあまあ美人だ。

 だが心が動かない。


 スッと横を見たら、顔のケチャップを拭っているルミイがいる。

 正面には、いつでも戦える状態のカオルンがいる。


 二人ともなにげに凄まじい美少女だな……!?

 スリーズ友愛団と言うらしい学生たちの、特に男どもはチラチラとうちの女性陣を見ており、女学生たちはどこか敵愾心に満ちた目を向けている。


 欲望ダダ漏れではないか。


「サラサの言う通りだよ。ここは僕らが引こう。ほら、彼と彼女たちに敵意は無いようだしね」


 学生たちの奥から、そんなちょっと爽やかな感じの声が聞こえてきた。

 その瞬間、俺の全身に走る緊張。


 なんだ、この感覚……。

 スローゲインを相手にしたときにも無かった、警戒心が俺を包み込んでいる。


 現れたのは、爽やかな感じの現代日本風中性的イケメンだった。

 あれ? 日本人じゃないかこいつ?


 そいつはサラサと呼ばれたウェーブヘアの女の肩を抱く。

 すると女は頬を赤らめて寄りかかった。


 他の女たちも、熱い視線をそのイケメンへ送る。

 対して男たちは、なんか無力感に満ちた視線をイケメンに向けるのだった。


 こいつ……!!


「ヘルプ機能」


『異世界召喚者“ミリオン斬り”タクル。触れた異性の心をコントロールし、自分のものにする能力を持ちます。パートナーを奪われた男性はタクルに対して無力状態となり、従属します』


 能力的には、制限付きのチャームみたいなもの。

 ワンザブロー帝国で戦ったアイナの下位互換だな。


 だが。

 下位だから弱いというわけではない。

 むしろ、その力を理解し、十全に使いこなしているなら、こいつはアイナよりも遥かに強いだろう。


 こいつ……NTR能力者!!

 俺にとって最強の敵が現れた。


面白い!

先が読みたい!

など思っていただけましたら、下にある☆を増やしたりして応援してくださいますと、作者が大変喜びます

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― 新着の感想 ―
[一言] 百合の間に挟まってそう 許せねぇ…!
[一言] 友愛団という即殺しそうな連中。
[一言] 厄介なヤツがきた・・・
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