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第40話 出会いは火炎瓶的なモノから

 入国前にひと手間掛けておかねばならない。

 ワンザブロー帝国の紋章を削るのだ。

 これが原因で、さっき争いに巻き込まれたからね。


「マナビさん、戦車を壊した時にこんなものが飛んできたんですけど」


 ルミイが何かを手に持ってこちらに見せてくる。

 さっき、車の中に落ちてたらしい。


「それは……。あ、ドッグタグってやつか! 戦場で死んだら、誰が死んだかわかるようにする個人認識のための装備みたいなのだぞ。これはいけそうだ」


 入国は、このドッグタグで乗り越えられるかもしれない。


「ヘルプ機能に聞いてみよう。このドッグタグで入国は問題なさそう?」


『問題ありません。平時であれば魔力波長が記録された、このマジックタグと本人を照らし合わせますが、現在はワンザブロー帝国崩壊の余波でスリッピー帝国も浮足立っています。さらにスリーズシティ内部では、若者たちによる政治的抗議運動が起こっており混乱の最中です。軍人は抗議運動鎮圧の戦力とみなされるため、入国審査はかなり緩く行われています』


「社会運動を鎮圧って、それはつまり武力でやったりするわけだな。運動してる側も魔法使い、鎮圧側も魔法使いなら大変なことになってるだろう。これは行動しやすそうだ。行こう行こう」


「マナビさんがやる気になってるのを見ると、なんだか薄ら寒いものを感じますが」


 俺と付き合いが長くなってきたルミイ、鋭い。

 だが、やはりファンタジー世界の住人。

 社会運動なるものと馴染みがないので、さっぱりわからないようだ。


 カオルンなど、むしろ混乱が起こっていると聞いて目を輝かせる。


「面白そうなのだなー! 人間同士のいざこざは見てても参加しても楽しいのだ! カオルンも大賛成なのだー!」


「よーし、満場一致だ。スリーズシティに入るぞー」


 魔導カーを走らせ、スリーズシティの城壁へ。

 外側から見ると巨大なビルディングに見える都市だな。


 このビル群が城壁も兼ねていて、都市本体はそこに包み込まれている。

 独特の構造だ。


「入国するための入り口は……」


「マナビさん、一応スリッピー帝国にはもう侵入してるんで、入国はしてるかもです」


「あっ、そうか。じゃあこの場合は何ていうんだろうな」


「さあ……? わたしの村だと、入り口に立ってる屈強なバーバリアンを倒さないと入れなかったですけど」


「恐ろしい村だ」


「カオルンはぜひ挑戦したいのだ!」


「やめてくださいうちのバーバリアン死んじゃう」


 騒ぎながら、入国? 入都手続きをできる入り口にたどり着いた。

 門が閉ざされ、脇に小さな窓がある。


 窓からは、不機嫌そうなおっさんの顔が覗いていた。


 日がな一日、こうやって外を見ている仕事らしい。

 視界は一面の曇天と荒野だもんな。

 そりゃあ面白くもない。


「お疲れお疲れ」


 声を掛けながらぶいーんと近づいたら、おっさんが目をパチパチさせた。


「お、おう。ようこそ。ここはスリーズシティだ。その車に荷台の装備、軍人か? タグを見せてくれ」


「ほい」


 おっさんはタグを見て、呪文みたいなのを唱えた。

 そして頷く。


「おお、軍人は歓迎だ。入ってくれ。……横のエルフと後ろの娘は?」


「ハハハ、お前、みなまで言わせるなよ」


 俺が思わせぶりな事を言ったら、おっさんの頬が緩んだ。


「おいおい、なんだよー。羨ましいなこの野郎ー。だけど、そんなコレを連れてきて、スリーズシティみたいなバチバチやってるとこ来て大丈夫かよ? 上は生産ノルマでギャアギャア言うし、下は手抜きしまくるし、ガキどもは現実見ないでわあわあ騒いでるし、うるせえところだぞ? 最近はな、さらに治安が悪くなった! なんつうか、ずっとヒリヒリしてる」


「ま、コレを食わせていかないといけないからな」


 俺は小指を立ててみせた。


「そっかー」


 おっさんは門を開けてくれた。

 小指、こっちの国でも通じるジェスチャーなんだな……。

 そして、カウンターみたいなところから出てきて、俺の肩をバンバン叩く。


「大黒柱も大変だなあ! じゃあ頑張ってくれ! ガキどもはビンの中に魔法を詰め込んで投げつける、マジックボトルってのを使ってくるぞ。なかなかヤバい武器だから、国が規制を掛けるって言ってる。二人を露頭に迷わせるなよ」


「ありがとうよおっさん。あんたいいヤツだな!」


「わっはっは! そうでもないけどよ! 退屈な仕事で、こうして一時おしゃべりするってのがすげえ気晴らしになるのよ。これでまた数日はこの話を思い出して頑張れるわ」


 見張りも大変だなあ。

 俺はおっさんに手を振り、スリーズシティの中へと向かうのだった。


「マナビさん、コレってなんですか?」


「なんなのだー?」


「コレって言ったらもう、コレしかないでしょうよー」


「んー? マナビさんの世界の言葉でしょうか。難しいですねえ」


「待つのだ! 見張りの人もコレって言ってたのだ! 何か暗号かもしれないのだ」


「暗号ですか! これは調べる必要がありそうですね!」


 やめてくれ!

 コレの話題が白熱し始めたので、俺は二人の視線を都市に向けることにしたのだ。


「ほら、外国の都市だよ。俺にとっては異世界に来て初めてのまともな都市……。というかワンザブロー帝国の帝都は見るそばから破壊されていったからね」


「マナビさんが通過した都市は全部滅びてるじゃないですかー」


「そうなのだ? 凄いのだ! 世界を滅ぼしながら旅をしてるのだ!」


「そうじゃないそうじゃない」


 なんと人聞きの悪いことを言うんだ。

 全て結果論ではないか。

 ムカつくやつをぶっ飛ばしたら、たまたまその地域も一緒に滅びただけだよ……!


「まあまあ。新しい都市をエンジョイしよう。街並みは工業都市っぽい感じ! あちこちに工場と煙突が立ち並び、空気はちょっと淀んでて臭くて、地面はゴミだらけ……」


 おや?

 この都市、荒んでない?


「あっ、マナビさん、なんか投げられてきます!」


「なにいーっ! チュートリアル!」


 チュートリアルして戻ってきたぞ。

 いきなり、マジックボトルが投げつけられてきたのだ。

 俺は立ち上がると、それをキャッチしてから投げてきた方に投げ返してやった。


 そこには、凄い目付きをした若者たちがいる。

 プラカードを掲げていて、


『スリーズシティ独立!』『全ての武力を捨てて対話を!』『魔法よりも愛で分かり合おう!』とか書いてある。

 えっ!?

 そのスローガンを掲げる人たちが、いきなりマジックボトルを投げつけてくる!?


「軍人だ! 殺せ!」


「戦争を広げる軍人め! 平和のために死ね!!」


 わあわあ叫びながらマジックボトルを投げる体勢になった。

 だがまあ、その前に、俺が投げたマジックボトルが炸裂するのだ。


 チュートリアルでやっておいたので、見事に掲げられた爆裂火球のマジックボトルに命中。

 爆発した。

 さらに爆裂火球のマジックボトルが爆発した。さらに他のマジックボトルが誘爆した。


「「「「「「「「「ウグワーッ!!」」」」」」」」」」


 おお、若者たちが爆炎の中で火だるまになりながらのたうち回っている。


「ここも間違いなく、ろくでもない場所だな!」


 俺は確信を込めて呟くのだった。

面白い!

先が読みたい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 居ますよね、平和とか愛とかいいながら集団で威圧してくる奴。とりあえず「ウグワー」させるのがあけちともあきワールド(白目)。
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