第35話 帝都の崩壊とは新たな旅立ちか
スローゲインが倒され、ようやく一息だ。
散々利用してきたが、利用する場所がなくなったら危険なだけの男だからな。
ここで倒せて実に良かった。
初めて出会ったときからまるで成長していなかったので、倒すのもまあイージーだった。
カオルンのお陰で楽もできたしな。
瓦礫の上に腰掛けて、のんびり一息。
ルミイがポケットから取り出した携帯食料チーズ味を、もしゃもしゃ食べる。
疲れた体に甘じょっぱい味が染み込む。
「おー、すっかり帝都は破壊されてしまったのだなー。ストライアスー! 帝都はもうだめなのだー」
カオルンが誰かに呼びかけている。
確かに彼女が言うように、帝都はもうボロボロだ。
スローゲインの攻撃で、建物がザックザックと切り刻まれた。
びっくりするくらい脆かった。
いまでは帝都全体が瓦礫の山にしか見えない。
「俺は今、とてもスッキリしている。勝手に召喚した挙げ句、滅びの塔に送り込んだり、魔法を使えないヤツを差別してひでえ扱いしていた帝国がこの有様だ。因果応報と言わずしてなんと言うか」
「まったくですねー。わたしもスッキリです!」
「僕としては頭が痛いところなんだがね」
突然知らない男の声がした。
宮殿から、メガネを掛けた優男が歩いてくるではないか。
「ストライアス! 無事だったのだ?」
「ああ。宮殿の守りは完璧だよ。元老院のお歴々が、宮殿にだけは予算を掛けて頑丈に作ってたのさ。だけど、他の建造物は老朽化やコストダウンの影響でスカスカになっていたわけだ」
そこまで言ってから、メガネの人は俺に気づいた。
「やあ、君がこの状況を作り出した元凶……いや、もともとは元老院によって勝手に呼び出され、しかも滅びの塔に送られてしまった異世界召喚者くんだね」
「そうだよ。あんたはストライアスってことは、皇帝? らしくないなあ」
「よく言われる。お飾りの皇帝だからね。君臨すれども統治はせず。政治を行う権限をはるか昔、元老院によって剥奪されているのさ」
ストライアスは俺の横まで来ると、適当な瓦礫に腰掛けた。
カオルンもちょこちょこやって来て、ストライアスの隣に座る。
「俺がこの状況を招いたことについて、何か一言あったりする?」
「無いね。君にとってこれは、当然の復讐だ。しかも君個人としては、やり終えてスッキリしたくらいの軽い気分でいる。そうだろう?」
「その通りだ。俺本来の目的は、ルミイを実家に送り届けることだからな」
「ああ、うちの元老院が勝手にさらってきたお嬢さんか……。済まなかったね」
「こ、この人皇帝なのに腰が低いですー!!」
ルミイが驚愕している。
「確かにな。あの魔法使いたちの皇帝なら超絶尊大なのかと思ってた。まさかこんなにいい人っぽいとは」
「ははははは、よく言われるよ。僕はお飾りの皇帝で、やることが無かったからね。ひたすら世界のことを調べた。その結果、この魔法文明と呼ばれる時代に終焉が迫っていることを突き止めたんだ。元老院にも伝えたんだが、連中は自分に都合の悪い意見に耳を貸さなくてね。あのアイナを召喚したことで乏しくなっていた魔力を、さらに使って君を呼び出した。そして虎の子のヘカトンケイルを連続で使って、ついに我が国の当座の魔力を空っぽにしてしまったんだ」
一息にそこまで言ってから、ストライアスが天を仰いだ。
「我が国、バカしかいない」
「あー、気持ちは察するよ」
なんかこのお飾り皇帝に同情してしまった。
「ありがとう。僕の計算だと、魔力の星エーテリアがあと数年で落ちるはずだけど……。君なら、正確な年数を知っているんじゃないか?」
鋭い。
ストライアスのメガネの向こうから、鋭い視線が俺を射抜く。
「三年だ。三年であの星が落ちて、魔法使いの地位もどん底まで落ちるぞ」
「やっぱり! そして思ったよりも近いな!」
皇帝は妙に嬉しそうだった。
「このタイミングでワンザブロー帝国がダメになったのは、天啓かも知れないね。我が国は神を崇めることをやめ、エーテリアを信仰するようになったんだ。だが、神は実在しているし、僕は現に知識神ブレイナスを信仰してる。やがてくる新世界への適応もバッチリだ」
「新情報が次々飛び出してきたな……!!」
「ということで、僕は妻たちと子どもたちとともに、国を逃げ出すことにするよ」
「サラッとハーレム発言をしたな! さすが皇帝だ」
「皇帝の血を途絶えさせないためだね。政略結婚だよ。だけど、娶った以上は責任というものがある。いや、君に会えて良かった! では僕は早々に国を脱出することにする! あ、カオルン。今までありがとう! これからの君は自由だ!」
立ち上がり、意気揚々と宮殿へ戻っていくストライアス。
今、当たり前みたいな顔をして魔神戦士をフリーにしたな?
このくるくる髪の女子、ヘカトンケイル以上の化け物だろ?
「おー、カオルンは失業してしまったのだー」
「全然深刻さが伺えない口ぶり」
「カオルン! うちに来るといいですよ! わたし、ずーっと妹が欲しいと思ってたんです!!」
「そうなのだ? じゃあお言葉に甘えるのだー! ルミイはカオルンのお姉ちゃんなのだー!」
「やったー!」
おっ!!
女子二人が抱き合ってくるくる回っている。
眼福眼福!!
俺がニタニタしていると、いよいよ帝都の建物は限界が来たらしく、あちこちが崩れ始めた。
近く、宮殿以外の建造物は無くなってしまうことだろう。
「マナビさん! こうしちゃいられないです!」
「おうおう、こうしちゃいられませんか」
ルミイが背中にカオルンをぶら下げたまま、俺にぐいぐい来る。
「そうなんです! カオルンが増えましたから、魔導カーはもっと大きいのにしなくちゃいけないんですよ! 例えばあんな感じの!」
ルミイが指さしたのは、ジープに似た大型の魔導カーだった。
オープンタイプだが、幌を掛けることもできる感じか。
「乗り物がパワーアップしてしまったじゃないか……。これは、これからの旅が楽しみになるな!」
「カオルンは走ったほうが速いのだ?」
「俺たちは走っても遅いしバテるから」
「人間は不便なのだー」
こうして、俺たちは大型魔導カーで旅立つのだ。
さらば、ワンザブロー帝国!
背後で都市が崩壊していく音を聞きながら、晴れやかな気持ちで俺は助手席に乗り込んだ。
運転できないからね……。
(ワンザブロー帝国編 おわり)
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