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第31話 三人称視点・なのだなー

 さて、ワンザブロー帝国がいかんことになっているのは間違いの無いところである。

 それに彼らが気付かないか?

 気付いてないはずは無いのだ。


 大多数が現実逃避をして、異世界召喚者を使った戦争ごっこにかまけているだけで、一部の良識ある魔法使いは気付いていた。


「アイナが倒されたというのに……。魔力の減少が止まらない……。やっぱり、アイナは原因じゃなかったか」


 メガネを掛けた細身の男が、顔をしかめた。

 彼の目の前にあるのは、魔法装置。


 魔法にはセンスマジックという、魔力の存在や量を測定するものがあるのだが、この魔法装置はセンスマジックを世界規模に拡大するものなのだ。

 地域ごとの精度は曖昧になるが、大雑把な魔力量が把握できる。

 それが毎年顕著に減少している。


「つまりどういうことなのだ」


 男の脇で、軽装の少女が首を傾げた。

 紫色の髪をくるくるカールにしていて、仕草に合わせてそれがふわふわ揺れる。


「魔法使いではない君には分かりづらいだろうね。僕ら魔法使いは、とっくの昔に自分が持っている魔力では魔法を使えなくなっているんだ」


「そうなのだ? カオルンには分からないのだ」


「君は魔神とのミックスだ。人間以上の生来の魔力を持つだろう? だが、僕ら魔法使いは、有限の力であることを無視して、魔法文明を発達させ過ぎた。空にエーテリアを浮かべ、異界から魔力を無限に引き出すことに成功した。これによって、僕らの魔力もまた理論上は無限になった」


「そうだったのだー。それであの程度だったのだ?」


 メガネの男性は苦笑した。


「君に言われたら、その程度だったんだよと言う他ないな。でも、昔はもっと凄かったんだよ。だけど、エーテリアは所詮、神ならぬ人が作り上げたものだった。それでも神がかり的な作りだったんだけどね。当時の魔法王があれを作り上げた。それ以来、誰もあれに触れられなかった。理解できなかったんだ。魔法王は突然現れ、圧倒的な魔法の才能を見せ、人々を救うためにエーテリアを作った……」


「それは知ってるのだ! 繋がった異界から魔神が来たのだ! カオルンはその魔神の心臓とホムンクルスを合体させた存在なのだ!」


「よくできました。とんでもない生まれなのに、君は常識的だよ。うちの帝国の馬鹿どもに、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。いいかい。エーテリアは限界を迎えている。あるいは、向こうにある異界が滅びた。どんどん魔力が来なくなる。そしてエーテリアが落ちる」


「ひょえーっ、そうなのだー!?」


「そうなんだよ。だけどね、この間の異世界召喚で、帝国はこれまでで最大量の魔力を消費して異世界召喚者を呼んだ。挙げ句、その彼を滅びの塔に放り込んでしまった」


「ひょわーっ、バカなのだー!」


「そうなんだよ、バカなんだよ。魔力と闘気がゼロだったって報告にはあったけれどさ。そもそも、そんな能力が無い者が国を傾けるほど魔力を食うわけがないんだ」


「そうなのだなー。それで、お前はどうするのだ、皇帝?」


「そうだねえ……。困った困った。僕はお飾りの皇帝だから、こうして研究だけしていられるけど。いや、だからこそ世界の真実に向き合える。まあ、あれだよ。滅びの塔は彼によって破壊された。伝説の魔法王が作った、まさに伝説の建造物がだよ? あれを娯楽装置に魔改造したのは、ろくでもない僕の祖先だけど」


「うむうむ、見事に壊されたのだなー。あれはカオルンも外側から壊すのはちょっと骨が折れるのだ」


「君であれば、もしかすると破壊できるかもしれないけどね。でも、魔力と闘気を持たない男が、内側からたった一日で滅びの塔を破壊した。これは事実だよ。そして帝国が手を付けられなかった怪物、アイナをも倒した。スローゲインの能力を利用してはいたけどね」


「ツーブロッカー帝国の強い召喚者なのだなー。カオルンも何度か戦ったのだ! 強かったのだ。近づけば一発だけど、近づけないのだ」


「彼の使う魔法の刃は厄介だからねえ。それでね、そのスローゲインなんだけど」


「うむうむ」


「今、例の彼に引っ張られて、帝都の目と鼻の先までやって来ているんだよ」


「な、なんとなのだー!!」


「これは……今日でワンザブロー帝国はおしまいかなあ……」


 十七代皇帝、ストライアスは遠い目をして呟くのだった。




 帝都は大騒ぎだった。

 まず、突然、門の向こうに魔導カーがやって来た。

 独立愚連隊の乗り物である。


 何か報告でもあるのかと、帝国の魔法兵が外に出てくると……。

 彼はたちまちのうちに、空飛ぶ刃で串刺しにされた。


 現れるのは、ツーブロッカー帝国が誇る異世界召喚者スローゲイン。

 エアバイクに乗り、凄まじい形相でやって来たのだ。


 スローゲインの視界に映るのは、愚連隊のトゲ付き魔導カー。

 そのサイドカーの上に立ち上がり、不思議な踊りを踊る男だ。


「イエーイ! スローゲインくん見てるー?」


「うおおおお!! 追い詰めたぞふざけた男! 俺に向かってそんなふざけた事ができるのはお前だけだ! 死ね! 今すぐ死ね! 死なない!? どうして死なない!! 俺のソード・ヴァルキュリアがなぜ当たらん!!」


「安全地帯ですからー」


「ありえねええええ!! ふざけるなてめえ! ふざけるなあああああ!!」


 絶叫するスローゲインを連れて、魔導カーは帝都に突入する。

 本来ならば、敵対的な意志を持つものを阻む機構、絶対魔法障壁が帝都には存在する。


 これが故に、強力な異世界召喚者であろうと帝都を落とすことは容易では無かったのである。

 だが……。


「ここも音ゲーで突破できるんだな」


 腰から二本のワンドを抜いた男が、絶対魔法障壁をカンカン叩いた。

 すると、まるで嘘のように魔法障壁が一瞬だけ消滅したのである。


 守りに回っていた魔法兵は数多存在するが、彼らが揃って目を剥いた。


「行くぞルミイ! ヤッフー!」


「うわー! やけくそですよー!!」


 ふわふわしたハーフエルフの娘が運転する魔導カーが、堂々と帝都に侵入する。

 そして、スローゲインのまたがるバイクまでも侵入してしまった。


 こうして、ワンザブロー帝国最後の日が始まるわけである。

面白い!

先が読みたい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] イエーイ、スローゲインくん見てるーw [一言] 煽れば煽るほどスローゲインくんは輝きますね。 そう、まるで花火のように………w
[一言] この斜陽の時に皇帝をやるとかいう罰ゲームかわいそ…
[一言] ヒャッハーッ!
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