第30話 煽り運転とは(別の意味で)危険な
明朝。
空をソード・ヴァルキュリアが飛んでいるのを確認した。
温泉都市を見つけてもらえたようだな!
「ウグワーッ!!」
瓦礫の上に立って見張りをしていた愚連隊が、ぶった切られて死んだ。
「な、なんだなんだ!」
「ソード・ヴァルキュリアだ! スローゲインが来たぞ!!」
「うわーっ、対召喚者用装備を用意しろ!」
わあわあと愚連隊が騒ぎ出す。
「まあ待て……」
「あ、あんたは……!!」
俺が出てきたので、愚連隊のリーダー格のマッチョがたじろいだ。
「昨日、うちの仲間をぶっ殺して俺らが必死に追いかけてたはずのヤツ……」
「いかにも。そしてこの都市を温泉都市に変えたのも俺だ。ところで、スローゲイン同様、俺も異世界召喚者でな」
「なん……だと……!? だが、そんな事を信用できるか! てめえには落とし前をつけてもらわねえと……」
ちょっとやる気になった愚連隊だが、俺のバックに自由民がワーッと集まってきたのである。
「この人は、俺らを解放してくれたんだ!」
「魔法を使わず魔法使いどもを一気にやっつけちまった!」
「グユーンがあっという間にやられちゃったの!」
「凄いのよ!」
「なん……だと……!?」
たじろぐ愚連隊。
ドヤ顔をする俺。
こういう場は、ハッタリをかますに限るのだ。
まあ、今回のはハッタリじゃなくて十割事実なんだが。
「俺がスローゲインの相手をしよう……。だが、移動するための足が無い。どうだ、魔導カーを一台貸してくれないか? それで俺がスローゲインを温泉都市から遠ざけてやる」
「なんだと!? あの怪物の相手をしてくれるって言うのか! なんて命知らずだ……」
「異世界召喚者というのも本当かもしれん」
自由民の援護もあり、愚連隊は俺を信じる方向で意見を統一したようだ。
サイドカーの取り付けられた、トゲトゲ魔導カーを借りることになった。
こりゃあ凄いなあ!
そこにふわっふわなローブを纏ったルミイがまたがる。
そして俺がサイドカーに乗るのだ。
「じゃあみんな、達者でな! 俺たちはスローゲインを遠ざけ、お前たちを守る……!」
俺がなんか真剣っぽい口調で行ったら、愚連隊も自由民も、なんか感動したみたいな顔をしているのだ。
「あ、あんた、我が身を呈して俺たちを……!?」
「英雄だ……! マナビ様は英雄だよ……!!」
「どうかご無事でー!!」
彼らに手を振りながら、魔導カー(トゲトゲ)は荒野を突き進んでいくのだ。
いきなり動き出した魔導カーに、ソード・ヴァルキュリアが反応する。
温泉都市の上空を飛んでいたものも、みんなついてきたようだ。
わはは、これでスローゲインを帝都まで連れていけるじゃないか。
予定通り!
何故か残した連中からは、英雄的行為だと勘違いされているようだが……。
俺の目的は、スローゲインを使って帝都をぐっちゃんぐっちゃんにすることなので、単純に私怨である。
「マナビさん、どんどん来ます! 空を飛ぶ剣がどんどん増えてきてますよー!」
「落ち着くんだルミイ。空から無限に必殺攻撃が降ってくるだけのことだ」
「それ、普通に致命的ですからね! マナビさんといて麻痺してましたけど、よく考えたら毎回死にそうな目に遭ってますよねわたしー!」
「大丈夫、そんな時のためのチュートリアルだ。行くぞ、チュートリアル、スタート! 今回は運転がルミイだから、君の手に掛かっているぞー」
「プレッシャー掛けるのやめてくださーい!?」
落下してくる剣。
ルミイの運転は最初は最初はぎこちなく、ザクッと魔導カーが刺されて俺たちがぶっ飛んでエンド、というのを繰り返した。
だが、徐々に慣れてきている。
「避けれるようになって来たじゃない」
「し、死にたくないですから!」
「うんうん、俺も死にたくない。で、ずっと観察してて気づいたんだけどさ」
「はい?」
「ソードヴァルキュリア、剣のそれぞれに個性があるみたいだ。で、何本かに一本せっかちなのがいて、勝手に突っ込んでくる」
「はいはい」
「今の前に進むタイミングでちょっと横にそれてみて」
「はい……っと」
魔導カーが横にちょっと動く。
すると、ビクッと反応したソード・ヴァルキュリアが一斉に降り注いできた。
今までにない反応だ。
そして、ソード・ヴァルキュリア同志が衝突して砕け散る。
結果生まれるのは安全地帯だ。
「も、もしかしてマナビさん」
「うむ」
「一気にたくさん降ってくるようにしたほうが、安全だったりしないです?」
「するね。あいつらの狙いは俺たちしかいなくて、だけど攻撃してくる剣の数が多すぎるんだ。で、あいつらは実体があるからぶつかり合うと砕けちゃう。結果的に安全になる」
「ええと、それってつまり……」
「スローゲインを煽りまくりながら突き進むのが一番安全ってことだ! あいつを冷静にさせちゃいけないぞ! よし、旗を貸してくれ! 俺はサイドカーから身を乗り出して踊る!」
「ひ、ひえーっ!! 異世界転生者を煽って踊りながら誘導するなんて聞いたことないですよー!!」
「そりゃあそうだろう。多分俺たちが元祖だ」
「そういう元祖にはなりたくなかったなあー」
温泉都市から帝都までのルートは、おおよそ15分。
一通りを何度も繰り返し、ルミイが走りを覚えた頃合いでチュートリアル終了となったのだった。
俺はサイドカーで踊ってればいいだけだから、楽なもんである。
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