第191話 おめでたで搾り取りで去りゆく者たち
色々あって朝である。
「ルミイはもういないか。三人がかりだと体力に余裕があるんだな……」
カオルンとアカネルは体力を使い切って爆睡中。
ゆっくり寝かせてあげよう。
俺は服を着て下に降りた。
すると、骨付きチキンを手にしたルミイと、真剣な顔のナルカがなにやら相談してるではないか。
「あたいは一対一じゃないといやなんだから、今夜はあたいだからね……! まだ二回目なんだから、そこのところ気を使ってほしい……」
「あー、分かります! それにナルカはロマンチストなんですねえ。いいじゃないですかいいじゃないですか。今夜は譲ってあげますね」
どうやら俺の所有権がナルカに移譲されたようである。
じーっと見ていたら、二人がこっちに気付いた。
「マナビさーん、おはようー! 今夜はナルカが情熱的に愛して欲しいそうです!」
「ちょっ、やめっ! みんな聞いてる!」
真っ赤になってルミイを止めようとするナルカ。
これは可愛い。
俺はニコニコしながら彼女の隣りに座った。
「すまんかったな。じゃあ今夜はこう……寝かせないぞ」
耳元で囁いたら、ナルカが「ひゃぁぁぁ」とか言うのである。
なんだこの可愛い生き物は。
ルミイはニヤニヤしながら眺めている。
「ルミイも余裕の表情ではないか」
「そりゃあもう。だってほら、わたしのお腹の中にもう赤ちゃんいますから」
「あー、それで余裕なのかあ……そうかそうか……そう……なにーっ!!」
「マナビさんが座ったままジャンプしましたよ! お尻の力って凄いですねえ!」
「俺の尻が凄いのはいい。えっ、ほんとに子どもできたの? 赤ちゃんが? ちょっと待って。ルミイとの初夜ってほら、ええとええと……四ヶ月前……ははぁ」
あの後、二日から三日に一回は致してたからなあ。
確かに、いつできてもおかしくない。
「生命の精霊が知らせてくれるんですよー。ちゃんと安定したよってお知らせがあったのでお伝えしました!」
「えっ、俺は何も知らずに楽しくしていたが大丈夫だったの!? バーバリアンの身体能力なら大丈夫? 頑丈……」
ということで、俺はどうやら父親になってしまったようである。
それよりも、ルミイはあれだな。
かなり子どもできやすいタイプだな!
第一子が生まれたら、上手くコントロールしていかねばならん。
「そ、それよりマナビ。達人が今日旅立つそうだよ」
「おお、コンボの達人が」
ナルカは昨夜、コンボの達人と酒を飲みながらお喋りしていたようだ。
達人は酒に弱かったようで、すぐに潰れてしまった。
そして、エリイに確保され、宿の中へ……。
フリズドライは達人を見失い、不貞腐れて一晩中飲んでいたらしい。
「達人、まさか……」
朝食の後、俺は気になって達人を探しに行った。
すると、ベンチに腰掛けて真っ白になっている達人がいるではないか。
「おう、達人! どうしたんだどうしたんだ!」
「おお……。絞り尽くされてしまった……。俺はもうダメだ……軟派になってしまった……」
「おや、ご卒業おめでとう。どうだった。気持ちよかっただろ」
「アルコールで頭が曖昧になってるところだったのが、いきなり目が冴えた。俺の上に全裸のエリイがいてニヤッと笑ってた……。ホラーだ」
「ご子息は萎えなかった?」
「アルコールのせいで体が言う事を聞かなくて、最後まで……うぅっ」
なんということでしょう。
達人を慰めていたら、ツヤツヤしたエリイが現れた。
「あら、マナビじゃない。ねえねえ、ビッグニュースがあるんだけど」
「エリイと達人がエッチしたことだろ」
「まあ、知ってた!? うふふー、そうなんだー。もう、あたしとダーリンは結ばれちゃったわけ! もう絶対逃さないから」
「あひー」
達人が悲鳴をあげた。
そうすると、どこからかフリズドライ登場である。
『ここにいたか! 何を腑抜けた顔をしている! 我と手合わせせよ! 貴様の技を我に伝授せよ!』
ハッとする達人。
いきなり生気が戻ったな。
「そうだ……。俺は……俺は戦わねばならない……! やろう! やるぞフリズドライ! ここで試合だ!」
『よし! 来い!!』
バトルが始まってしまった。
エリイと、それからやって来たナルカとルミイとでこれを眺めるのだ。
「ルミイ、決めてやったわよ」
「ほんと? 姉さんやるじゃーん!」
「ルミイも赤ちゃん確定なんでしょ? やったじゃーん」
姉妹が健闘を称え合っている。
恐ろしい恐ろしい。
結局その日、達人は昼過ぎまでフリズドライと手合わせした後、旅立っていったのだった。
もちろん、エリイとフリズドライが後を追いかけていく。
一度守りを突破されてしまったから、これから何度も搾り取られることになるであろう……。
なんなら搾り取ってくる相手が二人になりそうでもある。
達人の行く先に幸多からんことを願う……。
その日、俺が予定していた通りにフォーホース魔法師団は引き上げていった。
ユーリンともこれでお別れだ。
『魔導王の危機が去った今、私はこれからゆっくり、今後の生き方を考えていこうと思う。まあ、もう死んでいるのだがね』
「おお、体を張ったジョーク!」
魔導王を倒すために、千年の雌伏を過ごしてきた大魔法使い。
彼はついに自由になり、その自由の前で呆然と立ち尽くしているわけだ。
時間はいくらでもあるだろう。
たっぷり考えて欲しい。
魔法師団は一斉に飛び立ち、夕日の向こうに消えていった。
スリッピーの首脳陣はこれを、「あー」「行っちゃった」と悲しそうに見送るのである。
お前ら、私利私欲のために彼らを戦力化しようとしてたもんな!
面白い!
先が読みたい!
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