第190話 魔界神で邪神でご破産
「これでおしまいなのだ? 物足りないのだー!」
「ぶーぶー、マスター、当機能たちは抗議します!」
「なんか重要な案件が舞い込んできたんだから仕方ないだろー。じゃあバリオス、ついてきてくれ。オクタゴンとベストールに話を通す」
『うむ、感謝する。生命の営みはまた後でやってくれ。すまんな、定命の者たちよ』
なんかバリオスが神様っぽい謝り方をするのであった。
まあ、夜になったらルミイごと三人お相手しよう。
バリオスを連れてホテルから出て、オクタゴンのところへ向かう。
彼は首脳たちが集まる場所の隅っこにおり、誰も自分を直視しなくて済むように領域を展開していた。
オクタゴンを見ると、心が弱いやつは狂気に陥るからな。
「おーいオクタゴン」
『おっ、どうした兄弟。嫁たちといいことしてるんじゃなかったのか』
オクタゴンがなんだか、ホッとしたような顔をしてるな。
気遣わねばまとめて狂ってしまうような弱い連中の相手はくたびれるもんな。
「ああ、してたんだがそれどころじゃなくなった。いいことや子作りは後からでもガンガンできる。だがこれは割りと喫緊だ。今、首脳陣は調子に乗ってるだろ」
『乗っているな。この勢いに乗じて魔族を叩き、バーバリアンを叩き、世界を魔法使いの手に取り戻そうと言う話をしている』
「もう魔法使えないのにな。というか首脳だって、スリッピーのやつばかりじゃないか。ベストールは何してるんだ」
『皇帝のご機嫌伺いだそうだ。大変なものだな、夫婦で地位の違いがある者は』
「オクタゴンのとこは神様同士だもんな。それから恐らく、ベストールは皇帝の機嫌を取りに行ったんじゃないだろ。あれは近々帝政に引導を渡す下準備に行ったんだ」
『ははあ、食えないやつだな』
「食えないやつだからこそ、俺たちと渡り合えたんだろ。でだ。魔族をここで叩かれると問題が発生する。具体的には、世界のパワーバランスが崩れて、また魔法帝国みたいな形で世界がまとまる」
『いいことじゃないのか?』
「サクッと腐敗するぞ。俺は常に脅威が存在してて、腐敗を放置してたら危ない、くらいの緊張感を保った世界が理想だと思ってるんだ。そこで俺の同行者を紹介したい」
ここでやっと出てくるバリオス。
話が終わるまで大人しく待ってる辺り、人間ができた神様だな。
『なに、雌伏の時が長かったのだ。この数分くらいの待機などどうということはない。魔界神バリオスだ。この度は、魔族の助命を願うべく降臨した』
『おお、シクスゼクスの神格からちょこちょこ使いが来たと思っていたが、あんたが本人か! 俺様はオクタゴンだ。よろしく』
立ち上がったオクタゴンと、バリオスが握手を交わす。
異世界から来た境界線の神がオクタゴン。
この世界にもともといる境界線の神がバリオス、みたいな関係である。
二人とも大人なので、権能の区分で争うことはしない。
上手い感じで、なあなあに収めるということを知っているのだ。
『我は魔族を滅ぼされると困る。我が庇護する種族であり、我の信奉者であるが故に』
『ああ、気持ちは分かる。俺様もアビサルワンズが滅ぼされたら……まあまた作り出すだけだが、今の文化を築き上げたアビサルワンズとは別物だからな。悲しい気持ちになる』
うんうん頷き合う神々。
「ということでだ。シクスゼクスとは国家として停戦交渉を行う。その隙にスリッピーに集った世界の戦力を解体してだな。またあちこちの国でバラバラに暮らすようにするんだ」
『兄弟、それは七大魔法帝国があった時代と同じような感じか?』
「近いが、この他にバーバリアンを支援してだな。魔族もまた、和平交渉に反対する過激な連中を放置する。あちこちで争いが発生するだろ? 世界は常に戦いに備えなきゃならなくなる。これだ」
『悪党の物言いのようだな!』
「まあ、不幸な犠牲者は出るだろ。だが、結果的に揺れ動き続ける世界は停滞しないから長持ちするんだ。安定しない世界なら、神々を信じる気持ちも尽きないだろ? いい考えじゃないか」
『人間の口から出てくるセリフじゃあないなあ……。ま、俺様は賛成だ。イースマスは独立した形で、これまで通りやっていく。外界がどうなろうと、俺様の構ったことではないからな』
オクタゴンは、ルサルカとその信者たちを懐に抱え込み、これだけあれば満足であるという環境を構築済みだ。
引きこもっても問題ないわけである。
彼の助力が必要なのは、魔導王討伐の英雄である邪神が、今回の会談を後押ししているという事実が必要だからだ。
俺とオクタゴン。
この二人のプッシュだけでも問題はないだろうが、後ひと押しあれば確定する……。
「やあやあ、どうしたんだね? マナビ氏が戻ってきているとは……嫌な予感がする」
ベストール首相が来た。
なかなか勘がいい。
「ベストール。これ、魔界神バリオス。目的はシクスゼクスとの和平交渉」
「うわあー」
全てを察したな。
「マナビ氏、やってくれたな」
「わはは。新時代のリーダーとして責任を果たしてもらおう」
「今、うちの幕僚はシクスゼクスを攻める気満々だというのに……」
「そのために、スススス連合を使うつもりだろ。だが残念ながら魔法師団はフォーホースに撤退するし、イースマス連合も撤退する。セブンセンス神官戦士団も撤退するぞ」
「マナビ氏、それを彼らに明言してもらっていいかね? 私がやると私の立場が危うくなる」
「首相は立場が弱いなあ」
ということで、いい気分で酒を飲みながら、シクスゼクスの魔族を蹴散らそうなどと言っていた首脳陣のところへ行くのである。
彼らに、「スススス連合は明日で全部解散するので、シクスゼクスはスリッピーが単体で攻めることになるけど頑張って」と伝えた。
阿鼻叫喚の騒ぎである。
この中には、あわよくばシクスゼクス討伐の成果を持って、スリッピーの頂点を狙おうとしていたやつもいるだろう。
だが、その野望はご破産だ。
かくして、世界は動き出すのだ。
向かう先は、揺れ動き続ける動乱の時代である。
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