第184話 転移ゲートからの煽り芸
魔導王にも何らかの背景とか、言いたいことなんてのもあるのだろう。
だが、そんなものは俺にとって何の関係もない。
オクタゴンと達人がいきなり仕掛けた。
領域が魔導王へ覆いかぶさり、達人の短距離スライディングキックが襲う。
「僕の守りは万全なんだよ!」
魔導王は叫びながら、あらかじめ展開していたらしき魔法を発動する。
なにやら結界みたいに見えるが……。
「マスター! あれは触れたものを一時的に転移させる魔法です! なるほど、転移ゲートを壁として使えば、それを貫くことは困難です」
「オクタゴンの一部がふっ飛ばされたか。だが達人はゲートをキックで相殺した」
転移ゲートを蹴って破壊するとか、相変わらず非常識である。
『面倒なやつだな。一発殴ってやろうかと思ったが、そういうのとは相性が悪いらしい』
「俺は相性とか関係ないぞ。格ゲーと違って、今の俺はあらゆる敵に合わせてファイトスタイルを変えられる! ふんふんふんっ!」
連続展開される転移ゲートを、弱パンチで相殺する達人。
「あいつ、本当に何やってるんだか分からん動きをするな」
「マナビさんがそれ言います?」
ルミイに突っ込まれた。
魔導王の防御を兼ねた攻撃は、この転移ゲートを無数に撃ち出してくるもののようだ。
周辺の建造物が触れると、そこだけ削り取られたかのように消滅する。
まさしく一撃必殺。
空間ごと切断して転移させる恐るべき魔法である。
だが、達人は相手に攻撃に見合った打撃を放つことで、これを相殺できる。
なので達人には通用しない。
というか相性最悪だ。
「なんてでたらめな奴だ! ならばお前にはこうだ! 鏡像の魔神よ!」
魔導王、指パッチンで召喚を行った。
彼の背後に魔法陣が出現し、そこからのっぺりとした肌の顔のない大男が出現した。
「なんだなんだ!? 新たな挑戦者か!」
「そうとも、鏡像の魔神よ、あの男をコピーしろ」
『了解しました』
鏡像の魔神と呼ばれた顔のない大男はグニャグニャと姿形を変化させ……。
気付くと達人と同じ外見になっていた。
目にハイライトが無い以外は同じだ。
これを見て、達人は激怒した。
「お前……!! やってくれたな! 2Pカラーにするのが礼儀というものだろうが!!」
「何を言っているのか分からないが、同じ力を持った相手と永遠に戦い続けるがいい! 行け、魔神よ!!」
魔導王にけしかけられ、鏡像の魔神は達人と戦い始めた。
なるほど、一見すると互角っぽい。
「アカネル、どう?」
「鏡像の魔神ドッペルゲンガーですね。上位の魔神で、あれを何もなしで召喚して使役するのは魔導王の常軌を逸した能力によるものでしょう。ですけど……こう……相手の全てをコピーするという鏡像魔神でも、神を凌駕する権能はコピーできないですね……」
「具体的にはどう違うんだ?」
「ゲージもありませんし、相殺能力も中途半端ですし、恐らくコンボというのもあまり繋がりません」
「だろうなあ……」
達人と激しく争うドッペルゲンガーだが、じきにパワーの均衡は崩れるだろう。
だが、その間はこちらは達人というカードを失うことになる。
今もナルカとカオルンが魔導王に仕掛けているが、あの転移ゲートの防御は突破できていない。
「死の線は見えるんだけど……届かないよ……!! とんでもないやつだよ、こいつ!」
「あっ、カオルンの刃が削られたのだ! 危なかったのだー!」
「カオルン、危ないから戻ってきなさいー」
俺は彼女を呼び戻すことにした。
対抗策なしで近接戦闘を挑むには恐ろしすぎる相手である。
なので、ここは存在自体が対抗策になる俺が行くとよろしい。
「じゃあまず、転移ゲートの防御を崩そうかな」
トコトコ歩み出る俺だ。
「馬鹿め」
魔導王が笑った。
「お前が出てくるのを待っていたぞ! 既にお前の周りには、無数の転移ゲートを展開した! バラバラに切り刻み、世界中に撒き散らしてやる!」
「一芸が上手く行ったと思ったら、ひたすらそれを繰り返す……。まあいいんだけど、あまりカッコいい戦い方じゃないよな。あ、ちなみに今チュートリアルは終えた」
「何を言っている……?」
魔導王は訝しげな顔になるが、すぐに俺を侮って鼻を鳴らした。
「まあいい。お前は詰みだ。ゲート展開。切り刻め」
俺の腕や体に被さるように、転移ゲートが出現する。
それは俺の全身をバラバラに世界中へ送ろうと……。
するところで、俺はお尻を振りながらすーっと後ろに下がった。
転移ゲートはスポンっと俺から外れた。
「な、なにっ……!?」
「発動する瞬間、ほんの僅かだけ転移ゲートはちょっとまごまごするんだ。その瞬間にお尻を振りながら移動すると突破できるぞ。つまり尻の振りを転移ゲートの振動と同機させて、俺もまた転移ゲートだと誤認させた」
「そ、そんなバカな!? 何を頭のおかしいことを言ってるんだ!」
「その頭のおかしいことを現実に変えるのが俺だ。これでもう転移ゲートは通じないぞ。みんな、お尻を振るんだ! あ、男は振らなくていい」
うちの奥さんたちは、俺に言われてお尻を振り始めた。
いつの間にか彼女たちの周囲に展開されていたゲートも、彼女たちを仲間だと思って不活性化したようだ。
「バカなあ」
「魔導王が絶望する顔、超面白い」
俺は指さして笑った。
これこそが俺の攻撃である!
「おのれおのれおのれ! 殺す殺す殺す!!」
魔導王が血走った目で俺をにらみつける。
もう俺しか見えてない。
『兄弟はなんでこんなに人を怒らせるのが得意なんだ?』
「マナビさん、こうやって得意の絶頂にいた人を突き落としてからあざ笑うのも大好きですから。好きこそものの上手なれですねえ」
俺の煽り芸を、最も身近で見続けて来たルミイが、うんうんと頷いたのである。
面白い!
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