第179話 恐怖VS冒涜からの途中経過
魔法師団の力を借りて、俺たちはたくさんの鳥が吊るす座席みたいなのに座ることになった。
これで、スリッピー帝国まで運んでもらう。
カオルンとフリズドライものんびりできるわけである。
フォーホース帝国を東に移動すると、すぐに国境にやって来る。
よく見ると、フォーホース帝国と他の国で、国土の色が違う。
生えている植物の種類が、全く異なるのだ。
フォーホース帝国は千年前の植生を保ったままというか、そのまんまなので、さもありなん。
「さて、スリッピー帝国は無事だろうか」
「オクタゴンがいますから、問題ないでしょう。魔導王はマスターが引き付けてましたし」
「そっか、そうだな」
帝都に向かうついでに、今は戦場になっているらしいスリーズシティを覗きに行く。
そこでは、巨大なオクタゴンの眷属ヘプタゴンが、やはり巨大な異界のモンスターといった感じのやつと取っ組み合っていた。
怪獣大決戦だ。
「アカネル、あれはなんだい」
「魔導王が魔神の世界から呼び出した魔神獣プルガスという怪物ですね。見たものに恐怖を与え、恐慌状態にするために存在そのものが危険な相手です」
「そりゃあ大変だ。だがオクタゴンの眷属だって、直視したら狂気に陥るからな。キャラが被ってしまっている」
「恐怖と狂気の対決ですね。どちらが悪なんでしょう……」
アカネル、なんと根源的な疑問を抱くのか。
眷属ヘプタゴンは、直視したものを狂わせるが性格がいいので、間違いなく人類の味方だ。
問題は、見たものを狂気に落とす性質なので、味方だと分かっていても絶対に油断できないだけである。
それに対してプルガスというのは、人間に敵対的だし、見た目が怖くて恐怖を与えてくるし、これは悪いやつに決まっているだろう。
問題は、ヘプタゴンほど冒とく的な外見をしていないので、むしろこっちが味方側に見えることである。
「いけいけー! がんばるのだー!」
『力を持っていた頃の我であれば一撃なのだが……』
女子たちが観戦している。
達人は腕組みをし、この戦いをじーっと見つめていた。
「どうだ達人、何かこのバトルから得るものが……あっ!」
俺は気付いた。
達人、何もない空間で、ゲーム用のコントロールボックスをいじってる動作をしてやがった。
自分ならこう戦い、こう技を出すというイメージがあるのだろう。
ある意味イメトレだ。
こうしてスリーズシティを瓦礫の山に変えながら行われるドッカンバトルを見学した後、ヘプタゴンに加勢。
カオルンとフリズドライが魔神獣を文字通り粉々に粉砕したのであった。
感謝してペコペコ頭を下げるヘプタゴンに手を振りながら、いよいよ帝都へ。
空から戻ってくると、スリッピーシティの人々がわあわあ叫んで慌てていた。
おお、高射砲が飛んできた。
守りが堅いぞ!
だが、そうそう当たるものでもない。
砲撃のルートをチュートリアルしたら、結局一発も当たらないと出たので、俺たちは堂々と射撃の中を降りていったのである。
着陸寸前で、やっとこれが俺たちであると気付いたらしい。
高射砲が止まった。
真っ青になったスリッピーの上級兵士たちが駆け寄ってくる。
「も、も、も、申し訳ありませんでした!」
「気にするな。魔導王相手なんだから、怪しいやつは味方だろうが撃ち殺すくらいでいい。お前らはちゃんと仕事しただけだからな、な」
彼らの肩をバンバン叩いて回り、ねぎらった俺である。
そして、対策本部へと戻る。
そこにはユーリンとベストールだけがいる。
「あれ? オクタゴンと教授は?」
「東部戦線に出かけているよ。あちらには破棄された古代都市があってね。それがどうやら勝手に再起動し、魔導機械の兵士を生み出す工廠になっているようなんだ」
ベストールの説明が分かりやすい。
なるほど、それはきっと魔導王の仕業だ。
あいつ、世界中のあちこちに手を回してやがるな。
これは確かに、スリッピー帝国だけだったらあまり持たずに落とされていたところだったろう。
だが、今のこの国は、全世界の戦力が集まる場所になっている。
食糧問題は、オクタゴンが連れてきたアビサルワンズの料理人たちが解決した。
異界から食材を召喚し、ピザやタコスやコーラやハンバーガーやフライドポテトをどんどん作るのだ。
栄養の偏りが気になるが、そこは種々の野菜のピクルスで対抗するらしい。
ここにもまた、一つの戦場があった……!
なお、スリッピー帝国の料理人たちも、アビサルワンズからこのアメリカンファストフードを学び、作り手が育っていっているということだった。
ちなみに、新たな作り手たちのファストフードは、ルミイが味見を買って出ているということだ。
基本、何を食っても美味いしか言わないが、アビサルワンズのそれとどこがどう違うかなどのダメだしが的確らしい。
意外な……いや、意外でもない才能である。
俺はここで、現状報告をした。
「フリズドライを倒したら中から女の子が出てきた。達人の弟子になった」
「中間がぶっ飛びすぎてて理解が困難だけれど、あえてそのまま説明を飲み込むことにするよ」
さすがのベストールも引きつり笑いをするのだった。
『フリズドライの危機が去ったと考えていいわけだな? では、次は魔導王を直接攻めるべきだろう。こちらの戦力が高いために、帝都を守ることは出来ている。だが、周辺諸国や街に甚大な被害が出ている。難民も増え、帝都の外縁には難民たちのキャンプが生まれている』
「そんなことになっていたか」
怪獣大決戦を眺めてきた衝撃で、そういう細かいところは視界に入ってなかった。
『一刻の猶予もない。幸い、本日中にセブンセンス神官戦士団が到着するそうだ。彼らと合流し、攻撃部隊を編成する。そして魔導王を倒す……!!』
鏡の中のユーリンは、千年の因縁に決着を付ける気満々なのだった。
そして俺は俺で、ガガンやアリスティアとの再会が楽しみなのだった。
面白い!
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