第173話 対策本部からの出撃禁止扱い
皇帝は前よりもちょっと老け込んだ感じで、俺たちを迎え入れた。
彼女は俺を見ると、すごく嫌そうな顔をする。
「表情を隠さないやつだなあ」
「この世界、外交をする必要がありませんから。為政者にポーカーフェイスは必要ではないのです」
アカネルがこそこそ囁いた。
まあ、皇帝はアカネルに対してはちょっと怯えているのだが。
彼女がその力を使い、スリッピー帝国の魔法的機能を全て沈黙させたことがあるからだ。
そして未だに、帝国はアカネルの支配下にあると言っていい。
そもそもがスリッピー帝国中枢にあった、古代の魔導石を核としてアカネルは形作られている。
それ故に帝国と深いつながりがあり、コントロールすることも自在、というわけだな。
「俺たちはイースマス連合軍だ。スリッピー帝国だけでは無理だろ。力を合わせて行こうじゃないか。ああ、フォーホースの魔法師団もすぐ合流するから」
「むぐぐぐぐ……。ぐ、軍の指揮権は皇配に譲ってある。彼と話をしろ」
「了解」
そう言う事になって、皇帝との謁見は終わった。
とにかく俺たちといるとストレスらしい。
ただでさえ、魔導王復活とゴーレム軍団の侵攻が重なり、精神的にキテるのだろう。
暴発されてもアレだし、そっとしておこうじゃないか。
「なんだか余裕無かったですねえ。パパやママなら苦しいときこそ笑うんだって言いますけど」
「万人がそういう豪傑にはなれないからなあ。凡人はあんなもんだろう」
ルミイの家が特殊なだけだとは思うぞ!
セブンセンスの前の法王も大概小物だったしな。
フィフスエレの皇帝みたいに、自分をドラゴン召喚の触媒にして最後は食われちゃうくらい、覚悟ガンギマリなのもあれはあれで困る。
「やあやあ諸君!」
メガネを掛けた男がやって来た。
皇帝の夫、皇配のベストール氏だ。
前に見かけたときよりも、ずいぶん背筋がピンと伸び、覇気に満ちた表情をしている。
「久しいね。皇帝陛下は少々ストレスで参っていてね。幕僚たちも、魔導兵団でゴーレムに対抗する以外にやり方を見つけられないでいるんだ。あまり使われていなかった魔導兵団の予算を削っていたからね。今にもゴーレムに押し切られそうなのが現実だよ」
「そりゃあ大変だ」
「積もる話は廊下でするものじゃない。僕の仕事場へ行こう」
ベストールに先導されて、俺たちが向かったのは会議室だった。
そこは窓が開け放たれており、居並ぶ会議室の住人たちは、眼前に通信装置らしき水晶玉を設置。
タバコを吸ったり、飲み物を飲んだり、飯を食ったりしながら通信先に命令を飛ばしている。
「凄いことになってるじゃん。皇帝の部屋とかは平和な時のママなのに」
「皇帝陛下は平時を変わらないように治めるのは得意だが、こういう緊急事態には弱かったようだ。今は僕が軍事の全権を握っている。彼らは軍や民間から僕が招集したスペシャリストたちだ。僕と彼らを以て、スリッピー帝国緊急事態対策本部となった。僕は皇帝陛下から、首相の地位を拝命したよ」
「ほうほう」
俺は頷きながら、ん? と思った。
これ、この緊急事態に活躍するのが、首相と彼に従うこの男たちということは……。
事が終わったら、支配体制がひっくり返るんじゃないか?
スリッピー帝国、もともと国風がリベラルな感じだとは思っていたが、俺の予想だと魔導王戦後、この国は帝国ではなくなる。
ベストールはそこまで睨んで行動していると見た。
こいつは平時は役立たずっぽいが、戦時においては英雄になるタイプの男かも知れない。
対策本部の幹部たちと、次々に握手して回る。
途中でオクタゴンが地面から出現して、また幹部たちと自己紹介し合った。
彼ら、ちょっとびっくりしてたが、すぐにオクタゴンを受け入れたな。
柔軟な頭を持っている。
「今はスリッピー帝国存亡の危機だからね。頭を切り替えて戦争向けに組織を構成していかないと。そのためなら、邪神だってなんだって協力を仰ぐさ。頼むぞ、イースマス連合軍!」
「おう。自ら生き残る気満々の連中がパートナーならやりやすいってもんだ」
俺はこうして、しばらく対策本部に詰めることになるのだった。
最近、すっかり偉い人ムーブが板についてきてしまった。
裸一貫で異世界パルメディアに降り立ったというのに、気付けば色々なものと繋がりができたなあ。
背負うものが増えたとも言うし、失うものができたとも言うだろう。
だがこいつは案外悪くない。
教授も交えて、俺、オクタゴン、ベストール、教授の四者会議が行われるのである。
「ゴーレムはまともに相手をするだけ無駄だろう。小回りが効く連中で、ゴーレムの発生源を叩くのがいい。はい、これ発生源。地図のここにあるから。必要な火力は魔導戦車の主砲一発で十分」
「さすがはマナビ氏、話が早い……!! なんて頼りになるんだ」
ベストールが感激している。
ふふふ、ヘルプ機能の前ではこんな任務、あっという間にイージーモードになるぞ。
「ふむ、では私が出よう。戦車を一台貸してもらえば事足りる」
教授が名乗りを上げた。
間違いない人選であろう。
『ルサルカ教団から、乗組員としてアンデッドを都合する。戦車の突撃支援は俺様の眷属にやらせよう。正面だけを見て突っ込めよ。眷属を見たら狂うからな』
「心得た」
オクタゴンと教授が拳をコツンとぶつけ合っている。
あっという間に仲良くなってしまったなあ。
「で、俺だけど」
「君は切り札だ」
「君は切り札だな」
『兄弟は切り札だぞ』
うおお、動いてはいけないわけか。
確かに、全知の力を持つヘルプ機能と、あらゆる困難を突破する力を持つ俺が手を空かせていることは、イースマス・スリッピー・フォーホース連合軍……略してススス連合にとって重要であろう。
俺の仕事は、暇であることなのだ。
会議場から出た俺を、カオルンが出迎える。
「マナビ暇になったのだ?」
「うむ、俺の仕事は暇を維持することだ」
「そうなのだー! じゃあマナビ! カオルンとデートするのだ!」
「むっ!! それいいな、そうしよう」
こうして戦時下の帝都で、俺はカオルンとデートに出かけるのだった。
面白い!
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