第172話 合流からの嵐のような情報交換
「なにっ、アンデッドホース!? 興味深いな。命が無いはずなのに生き生きと動き回る馬とは」
寄ってきた教授を、ラバーが鼻息を吹きかけて迎える。
「うわっ、息が冷たい! なるほど、確かに生物ではあり得ない温度の息だ。興味深い……」
教授がラバーをナデナデし始めた。
慌てたのはスリッピー帝国の使者たちだ。
「教授! 時間が無いのでそういうのは後で……!」
「おお、済まない! ついつい研究者としての習性がな……!」
教授は変わらない様子である。
「じゃあ、一旦帝都まで移動して、そこでこっちの部隊も合流して、一気に攻める感じでいくか」
「ああ。魔導王の軍勢は際限なく出現する。ゴーレム程度なら魔導兵器でどうにでもなるが、弾薬には限りがある。こちらの魔導石の魔力が枯渇したら、一気に押し切られてしまうだろう」
「ほうほう。魔導王、まだるっこしい攻め方をしているな。大陸一つ空に浮かべるような男なのに」
俺が疑問を呈すると、魔導護送車のフロントガラスにユーリンが現れ、隣にオクタゴンもやって来て、有識者の話が聞けるのである。
『やつは楽しんでいるのだ。数の力で押しつぶし、敵を倒す楽しみを求めている。そういうやつなのだ』
ユーリンが憎々しげに言うと、オクタゴンが『いや、それにしてはおかしいぞ』と疑義を述べる。
『俺様はギリギリ魔導王と直に接触した立場だが』
オクタゴン、そんな昔に召喚されてたのか!
『直接戦ってみた感じでは、あいつは自分の手を汚さずにじわじわ攻撃していても、すぐにしびれを切らして直接攻撃してくる。それがここまでスリッピーとゴーレムをぶつけ合っていて、本人の手出しが無いということはだな。あいつはワンザブロー帝国にはいないぞ』
「「「「「な、なんだってー!!」」」」」
その場にいたスリッピー帝国の人々が、驚愕のあまり叫んだ。
だが、俺はなるほどと腑に落ちる。
「ああ、なるほど。復活して早々に、肩慣らしでバーバリアンを殲滅してたが、そこからあれだろ? 世界の状況を調査し始めたんだろ?」
『だろうな。衝動的に快楽主義的な事をするが、馬鹿じゃない。魔導王は色々調べ終わってから本格的に動くつもりだろうな』
立ち話も何である。
俺たちは魔導護送車の中で話をしながら移動することにした。
ラバーにはフリーで走ってもらう。
カオルンが手綱を取って、割りと仲良くしているようだ。
『ふむ……私が魔導石の届く範囲内の鏡面から調べてみよう。どこかに魔導王の痕跡を見つけられるかもしれない』
冷静さを取り戻したユーリンが動き出す。
『おう。こっちはゴーレムどもを殲滅するため、眷属を貸そう。魔導王本人がいないなら、無限にゴーレムが湧き出るはずがない。仕掛けがある』
「なるほど。戦線がワンザブロー帝国との国境から動かないはずだ。彼らはそもそも、国境から先に踏み込ませないことを目的にしている可能性があるのだね?」
勝手に話を進めてくれる。
楽だなあ。
俺はぼーっとした。
ちなみに俺の横には、ブレインとしてアカネルがいる。
彼女は話し合いを聞きながら、ヘルプ機能を用いて記録しているようである。
「アカシックレコードにアクセスして聞けないの?」
「あ、そうでした!」
ハッとするアカネル。
「でも、基本的に当機能は、マスターの能力の拡張版みたいなものですから。だからマスターが自発的に気付いて動かないと、当機能は本領を発揮できません」
「そうだったのか! そうだったかもしれない」
俺、ダラダラしている暇はなかった。
「ちょっと待っててね。俺が今から魔導王の居場所を教えるから。ヘルプ機能、魔導王の居場所」
『極北の大地です』
「じゃあ、魔導王に質問だ。YOUは何しに極北へ?」
『永久凍土に封印された、太古の怪物、フリズドライを解放するためです』
「フリズドライだと!?」
教授が驚愕した。
「知っておるのか教授!」
俺は聞いてみた。
こうすると、ノリのいい教授は答えてくれるのである。
「それはかつて、人と神が暮らしていたという時代、神々の間で諍いがあってね。とある神が、とうとう戦争に乗り出し、人も神も殺してしまう怪物を作り上げた。怪物は幾つもの島々を凍りつかせ、極北をまるごと氷の大地にしてしまった。ついに世界が凍てつくかと思われた時、神々は力を合わせ、この怪物を封印したということだ」
「とんでもないやつなんじゃん。ヘルプ機能、フリズドライは実在する?」
『します。具体的にはあと36時間で解放されます。解放後、フリズドライは144時間で世界を凍結させます』
「やばいやつじゃん」
「神々が力を合わせねばならなかったほどの怪物だ。これはとんでもなことになってきたぞ……!」
教授の表情がシリアスだ。
だが、俺とオクタゴンはのほほんとしていた。
「君たち、どうして余裕なのだね?」
「そりゃあもちろん、強大な個人戦力に対してこいつをぶつけておけば安心ってのが身内にいるからだ」
「なんだって」
「聞いていたな、コンボの達人」
俺が声を掛けると、魔導護送車の後部の幌がめくれて、コンボの達人が顔を出した。
「俺より強いやつがいるんだな……! 楽しみだ!」
「護送車と並走しているのか!?」
驚く教授。
俺は、コンボの達人が、格ゲーみたいなダッシュのシステムでなんか意味の分からない速度で移動できることを知っているので、平然としているのだ。
「いいか、マナビ。今度は水を差すなよ! そのフリズドライとやら、俺が一対一で決着をつける! なんなら倒してしまっても構わんのだろう?」
「やれやれ、やっちまえ」
コンボの達人が嬉しそうな顔をした。
護送車に飛び上がり、しゃがみながらシャドーボクシングみたいなことを始める。
「よし、これで魔導王の切り札みたいなのは一つ解決したな」
『そうだなあ。コンボの達人なら大丈夫だな』
俺たちがコンボの達人に寄せる圧倒的な信頼!
教授は目を白黒させるのだった。
こうして、護送車は帝都へと到着するのである。
面白い!
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